映画感想「ミッドサマー」

2020年公開のホラー映画。主演フローレンス・ピュー、監督は「ヘレディタリー 継承」で鮮烈な長編デビューを果たしたアリ・アスター。白夜が続く山村の、明るい中で惨劇が繰り広げられるという異質な作品となっている。Amazon Prime Videoに入っていたのでいまさら視聴。

ある日の深夜。主人公のダニーが実家の両親に電話をかけているシーンから始まる。妹からの不穏なメールを見て、家族を心配してのことだった。留守電にメッセージを吹き込んだ後、彼女は彼氏のクリスチャンに電話をかけ自分の不安を訴えるが、彼氏の返事はどうにも頼りない。結局、その後に最悪の出来事が起こってしまう。
その悲劇の後、ダニーの心の傷も癒えきらないうちに「友人のペレの故郷スウェーデンで行われる夏至祭を見に旅行へ行く」とクリスチャンから告げられる。文化人類学を専攻するクリスチャンは前々から誘われていたのだが、それをダニーには言っていなかった。二人は口論になるものの、勝手に決めたその負い目からかクリスチャンはダニーも誘う。こうして、ダニーは彼氏とその男友達3人とともに白夜が続くホルガ村へ赴くことになるのだが、それが恐怖の始まりでもあった。

白夜のホルガ村に案内されるダニーたち観光客。
晴れた空に草花といった明るい景色の中、白装束を着た村人が歓迎ムードで迎える。

まず唸らされたのが、キャラクターの性格や関係性である。ダニーとクリスチャンの会話は互いを気遣うようで実にぎこちなく、そもそも破綻した関係であることが伝わってくる。元々クリスチャンは「別れたい」と男友達に愚痴っていながらも半年以上ズルズルと関係を続ける、決断のできない男。優柔不断な態度は男友達に対しても変わらないようで、ダニーを誘ったのもその場の口論を終わらせるその場しのぎの言葉であり、そのことで他の男友達からも不満を買っている。
男4人の中に、部外者であり当の彼氏も迷惑がっている「面倒な女」が加わるという居心地の悪さ、ホントに彼氏なのかと疑いたくなるクリスチャンの態度、ホラーにありがちな型から外れた、それでいて突拍子がないわけでもない友人たちなど、正直誰に対しても感情移入できないのだが、それが「はよ何か起これ」と逆に破滅を願ってしまうように作用している。
また、光の使った画づくりも巧い。映画は深夜に始まり、薄暗い照明の部屋、カーテンで陽光が遮られた部屋など、スウェーデンに到着するまで画面の印象は徹底して闇で統一されている。これは村と白夜の明るさを印象づける、明らかに意図的に作られた画面だと思う。この「光」が、本作では非常に重要になってくるので、必要なところに必要なパワーをかけていると思った。

ホルガ村で行われる祭りは、北欧神話にルーツがあるように描かれている。たまたま「アサシンクリード・ヴァルハラ」という北欧が舞台のゲームを遊んだこともあって、「スコール!(乾杯の掛け声)」といった声や、クリスチャンが鳥小屋で見た「○の鷲」などは「まさかこれは!」と思わず反応してしまった。ルーン文字の石碑や書物、また90年や9日間など9という数字が用いられるなど(北欧神話では9つの世界など9にまつわる事柄が多い)、祭りの内容それ自体の意味についても考察できるくらいには作り込まれ、架空の文化ながらしっかり見世物として見ることもできる。

儀式の参加者として村娘たちと一緒に踊るダニー。
最初の恐怖や戸惑いから、自然と笑うようになっていく。

最後については、死が恐怖の対象ではなく自然のサイクルなのだと理解して(あるいはそういうもっともらしい理屈の誘惑に屈して)のあの終わり方なのではないかという気がした。
本作の見所は、「暗闇=恐怖や死」「昼間なら安全」といった固定観念の逆をいく点に尽きる。夏至祭の儀式は明るい日の光の元行われ、最初は明るく温かいムードながら徐々にその狂気を見せつけていく。闇を恐れる本能的な恐怖とは違う、白昼堂々惨劇が行われるという怖さ。人間が自然と一体化する道を選んだその果ての姿を、光を使って正当性があるように(そして恐ろしいこととして)描き、際立たせているのだと思う。こうした着眼点、題材と人物配置だけで、ホラーとしてだけでなく映画として上手いと感じた。

というわけで、明るさと自然の中に狂気を感じるという異色のホラー。実験作で終わらない見せ方や人物描写など、挑戦的かつ技巧的。激しさないが気の緩むポイントもないという点で緩急がなく、2時間半近く(ディレクターズ・カット版は3時間弱)という長尺なのがネック。また、グロ描写や性行為描写なども暗さでごまかさずにはっきりと見せているのも見る人を選ぶところ。質は高いが好き嫌いがある、といった感じの作品。

画像:© 2019 A24 FILMS LLC.

Amazon Prime Video(字幕版)
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