映画感想「ワイルド・ウエスト 復讐のバラード」

2017年アメリカ公開の西部劇映画。原題は「The Ballad of Lefty Brown(レフティ・ブラウンのバラード)」で、主人公のレフティ・ブラウンを演じるのはビル・プルマン。監督はジャレッド・モシェ。Amazon Prime Videoにて視聴。

ストーリー

1889年、モンタナ州。レフティ・ブラウンは相棒のエディ・ジョンソンとともに酒場での喧嘩で相手を銃殺した男を西部らしいやり方(絞殺刑)で裁いた。彼はエディの牧場で働いていたが、エディの妻ローラや牧場で働く労働者の誰もがレフティを役立たずと見なし、また彼自身も自己評価が低い。しかし、反対に誰からも一目置かれる男であるエディだけは彼を心から信頼していた。二人は40年連れ添い、さらにトムとジミーという男二人を含めてこの近辺で色々な逸話を作ったガンマン四人組。トムとジミーはそれぞれ連邦保安官、モンタナ州知事になり、エディは上院議員になった。彼はワシントンへ行く間、自分の牧場をレフティに任せたいとさえ考えていたのだ。
そんな中、エディの牧場から馬が三頭盗まれる。エディとレフティは馬泥棒を追跡するが待ち伏せを受けてしまい、エディは殺されてしまう。親友を失ったレフティは敵討ちに荒野へ飛び出すのだが……というのが序盤。

馬泥棒を追って荒野に出た二人。
牧場を任せる判断をしたエディに、自信がないと打ち明ける弱気なレフティ。

感想

個人的には物凄く好みの話だった。まず、主人公のレフティ・ブラウンがとにかく不憫で、これはなかなか他の西部劇ではない点だと思った。他のかつての仲間たち(エディ、トム、ジミー)が皆それぞれ地位を手に入れているのに対し、彼だけはいっぱしの何かになることなく、エディの牧場を手伝うことで食わせてもらっている。しかも大昔に銃撃を受けたせいで片足が不自由となり、牧場作業も満足にできないという惨めっぷり。これだけでは到底彼に魅力を感じろというのが難しいのだが、ただひとりエディだけは彼に絶大な信頼を置いているのだ。エディは容姿、度胸、実力、人望……とすべてがレフティを上回っている男。自分に自信のないレフティもエディを頼り彼に励まされながら生きてきたのだが、この物語ではそのエディを失ってしまうのである。亡くなったエディの骸を馬に乗せて牧場へ戻ったレフティは、夫を失った妻ローラに「彼じゃなくあなたが死ねばよかったのに」とさえ言われてしまう。決して笑いを誘うようなトーンではなく、本気でそう吐露されるのだ。どれだけ周囲からナメられているのだと悲しくなってくるが、彼の優しさ、そして実際そうだと彼自身が思っている節もあり、レフティは言い返さない。
このレフティの不憫さをさらに際立たせているのが、彼が齢60を過ぎた老人という点である。20歳そこそこの若者が「自分には才能も何もない」と将来に絶望するのはよく聞く話だが、実際には「若さ」という最大の武器がある。当人たちが納得するかはともかく、若さにはすべてをひっくり返すくらいの価値と可能性がある、とある程度年を取った人間なら誰しも思うのではないだろうか。だが、レフティにはその若さすらない。彼は人生の半分以上を使い何かを成し遂げることさえしなかった人間。そんな男が、復讐のために動き出すわけである。ちなみにローラを始め牧場の人間たちは「レフティにそんなことできるはずもない」と冷たいし、事実彼は隠れた銃の名手であるとか、他に何か秀でた能力があるとかもまったくない、正真正銘の持たざる者である。
そんな能無しが主役で復讐劇になるの? と思うかもだが、これがなっているのだ。ここから鍵となってくるのがレフティとエディのかつての仲間であるトムとジミー、そして彼ら四人組の逸話(というがレフティの話はまったく出てこない)に憧れてガンマンになった少年、ジェレマイアである。血気盛んな少年ジェレマイアとの交流や、かつての仲間たちとの関係性を見ていると、エディが彼を信頼し、そばに置き続けた理由が伝わってくる。物語の展開も意外性を含んだ王道的な流れでバランスがよいし、カラッとした痛快さとは違う渋さ、苦さがじんわり染みる結末もよかった。

レフティとジェレマイア。エディを失ったレフティにできた、新たな繋がり。
レフティの彼に対する接し方は一貫しており、それが魅力になってくる。

まとめ

というわけで、とても主役らしくないナメられ爺さんが「成し遂げる」物語。役に立たない具合の描写がうまく、流れであったり行動原理も自然で違和感がないし、良い意味でコミックらしさの抜けた、ちゃんと「死」がちらつく銃撃戦なども物語に合っている。邦題やジャケの「引き」の無さに反して良作だと思う。いいものを掘り当てた感があったので個人的には満足。

画像:© 2017 Bleeding Cowboy LLC

Amazon Prime Video
https://www.amazon.co.jp/gp/video/detail/B07WSDTNWP/