映画感想「シン・仮面ライダー」

2023年3月に公開された特撮アクション映画。1971年にテレビ放送された石ノ森章太郎原作の特撮ヒーロー番組「仮面ライダー」のリブート作品。監督、脚本は「エヴァンゲリオン」「シン・ゴジラ」などで有名な庵野秀明。主人公の本郷猛を池松壮亮、ヒロインの緑川ルリ子を浜辺美波が演じる。かなり早いタイミングでAmazon Prime Video配信されたので視聴。PG-12作品。ちなみに私はオリジナル版未見。

ストーリー

人里離れた峠道を走るバイクと、追跡する2台のトラック。バイクを追うトラックの走行には明らかに殺意が感じられる。逃げた先で待ち伏せされたバイクは峠から投げ出されてしまい、それに乗っていた緑川ルリ子はトラックの主に捕らえられてしまう。ルリ子を捕らえたのは秘密組織「SHOCKER」の改造人間、クモオーグと下級戦闘員だった。しかしそこへバイクを運転していた男、本郷猛が駆けつけ圧倒的な力で戦闘員たちを殲滅する。それは殴っただけで相手の肉体をいとも簡単に血と肉片に変えるほどの力だった。
本郷は突然自分がそのような力で(悪党とはいえ)人間を手にかけたこと、そして自身の姿がひとならざるものになったことに激しく動揺する。本郷に逃げることを促したルリ子に案内されると、そこにはルリ子の父であり科学者の緑川博士がいた。緑川博士とルリ子は実はSHOCKERに所属しており、自分が本郷を「バッタオーグ」に改造した張本人であると語る。その理由はSHOCKERの野望を止めるためだった。事情を汲み取ったのか生来の優しさからか、博士を糾弾しない本郷。そこへ突如としてクモオーグが現れ、裏切り者の博士を手に掛けルリ子をさらっていくのだった……というのが冒頭。

感想

観た率直な感想としては、「特撮ヒーローアクション映画」として観ると正直微妙な箇所が多々見受けられるといわざるを得ないのだけど、「庵野監督作品」としては「シン・ゴジラ」を観たときの「らしさ」に溢れていると思ったし、「『仮面ライダー』の映画」として観ると一貫した作品なんじゃないかと思った。
まず個人的に思ったのは、画面の中で出てくる人間が極端に少ないなぁという点。町並みのシーンというものがほとんどなく、長大な移動シーンはあるものの無人。物語の世界に、メインの登場人物とSHOCKER怪人だけしかいないような印象を受けた。もちろんそれは本郷猛の性格というか、彼が見ている世界を反映させた可能性は大いに有り得るのだが、それでも「無理やり人ならざる者に改造された人間」であることを考えると、社会(=一般人の目線)から見た仮面ライダー、という視点がないのはちょっと引っかかる。ちなみに本作の本郷猛は劇中で「コミュ障」と呼ばれるほど人との関わりが苦手という性格になっており、そんな彼が「SHOCKER壊滅」という目的のために感情を殺した美女(ルリ子)とぎこちないコミュニケーションを交わしながら与えられた任務(怪人退治)を行っていくというのは、まるで「エヴァンゲリオン」をそのまま焼き直したようにも感じた。

藤岡弘、の熱血イメージとはだいぶ違う、繊細な本郷猛。
オリジナル版でも最初期は苦悩する場面が多かったらしく、そこをピックしたものと思われる。

「特撮アクション」というと戦闘シーンがつきものだが、序盤から中盤にかけてのオーグ(怪人)との戦闘は、正直どうも迫力に欠けるというかギャグでやってるのかなと思ってしまうような展開と表現に見えてしまい、何か意図があってこうなのかという勘繰りも働いてしまい非常に判断に戸惑った(ただし終盤辺りには慣れてくるのと、物語にもブーストがかかってあまり気にならなくなってくる)。役者の演技はかなりよかったように思う。特に池松壮亮が演じた本郷猛は、本作で新たに設定された内向的で線の細い感じがめちゃくちゃ出ていてよかった(インタビュー記事によると演じるのに相当苦労したらしいが)。緑川ルリ子を演じた浜辺美波もクールな振る舞いからの、気が緩んだときの笑顔なんかはよかったと思う。しかし庵野作品特有の、敵組織の綴りだったり目的だったり設定だったりを早口で説明させるシーンだけは相変わらず慣れないのだが、まああれを最初にくらわせてくるから後々似たような展開があっても気にならないのかもしれない。

ネガティブな部分ばかり先に書いたが、本作は庵野秀明の「仮面ライダーはこう!」が詰まった作品だとも思った。冒頭のいきなり逃走シーンで始まるという大胆な作りはそれを表している。改造手術を受けわけのわからないままルリ子と逃亡する本郷と、いきなり説明無しに逃亡シーンを観る視聴者をリンクさせたかったのかとも考えたが、そもそも「敵組織に無理やり改造されたのが仮面ライダーなのだから、逃げるのは当然」なのである。また、あの逃走シーンに使われた道路はWikipediaによるとオリジナル版と同じ場所らしいので、冒頭に持ってくるのはファンサービスとしてはとても正しいとも思った。
他にもパンチで戦闘員の顔が破裂するなどちょっと引くくらいエグい描写をのっけから持ってくるなど、とにかく自身が「化け物になってしまった」という悲哀の部分を徹底して強調してくる。プラーナと呼ばれるオカルトエネルギー設定について賛否はあるかもしれないが、「ライダーかくありき」という肝の部分は最後まで保たれているから、特撮ヒーロー映画として微妙に思えても、仮面ライダーに対する熱量だけは伝わってくるのだ。また、本作は実はとにかく画にこだわった作品だと思った。表現について上で書いたことと矛盾するかもしれないが、カット一つ一つを観たときにとにかく仮面ライダーを「カッコよく」撮っているのだ。オリジナル版未見のため元ネタについて私はわからないが、改めて見るとけっこういいなと思う部分が多く、「カッコいい仮面ライダーをいろんな角度から見せる」という偏執的なものさえ感じた。「これが仮面ライダーなんだ」と、庵野監督が教鞭を振るうかのごとくである。そういう意味では見直すことで新たな魅力に気づくスルメ映画なのかもしれない。

クモオーグと戦うシーン。シンメトリーなダムの欄干に降り注ぐ陽光。
ここだけ切り取るとちょっとS・キューブリックっぽい。
コウモリオーグを倒した直後のローアングルカット。
立ち姿も様になるよう計算されている気がする。

まとめ

というわけで、良くも悪くも「仮面ライダー」というものに全力でフォーカスした作品。個人的にはインディーズや自主映画のような、監督の拘りが先に出た作品に思えた。こういう作品を公式で世に出せてしまうというのはある意味で凄い。ただ個人的には「シン・ゴジラ」の絶望的な都市炎上シーンや、「シン・ウルトラマン」のメフィラス戦のような、文脈抜きでアガるシーンを本作で見つけることができなかったのは残念。ああいうのがあればもっと好きになっていたと思う。

画像:© 石森プロ・東映/2023「シン・仮面ライダー」製作委員会

Amazon Prime Video
https://www.amazon.co.jp/gp/video/detail/B0C54KBT8L/