映画感想「カラー・アウト・オブ・スペース -遭遇-」

2019年公開のSF・ホラー映画。クトゥルフ神話の生みの親H・P・ラブクラフトの小説「宇宙からの色」を現代アレンジした作品。ガードナー家の父ネイサンをニコラス・ケイジ、水文学者ワードをエリオット・ナイトが演じる。監督はリチャード・スタンリー。

ストーリー

アーカム群のダム開発計画に伴い、水文学者のワードは開発予定地である森林を訪れていた。そこで彼はなにかの儀式(の真似事)をする少女ラヴィニアと出会う。彼女は人里離れたこの森で暮らすガードナー家の長女だった。ガードナー家は父ネイサンと母テレサ、ラヴィニアと弟ベニー、そして年の離れた末っ子ジャックの5人家族。テレサの癌治療後の療養もかねて都会から移り住んできたのだ。自然派生活にかぶれる父親ネイサンに子どもたちは多少辟易しながらも、それなりに幸せそうに生活していた。
ある夜。森を紫色の光が包んだかと思うと、地響きがガードナー家を襲う。一家が外に出てみると、庭に発光する隕石が落下していた。紫の光の出処はそれだったのだ。鼻をつく臭いに顔を歪ませるネイサンだが、その隕石は翌日には姿を消してしまう。その日から、この森林で徐々に奇怪な現象が起こり始め……というのが序盤。

ガードナー家の庭に落下した、不気味な色を放つ隕石。
ここからすべてがおかしな方向へと動いていく。

感想

本作はラブクラフト原作ということを知っているか否かで評価が分かれると思う。元となった小説を知らなくても「ラブクラフトならこんな感じの終わり方」というのを掴んでいれば、概ね予想通りのものになっているだろう。個人的にはちょっと長いことを除けば雰囲気もあって面白かった。物語の視点をどこに置くかで最初は戸惑うが、最初は隕石にもっとも近い位置にいるガードナー家からの視点であり、ワードの活躍は物語が進行してからになる。
本作は未知の超自然現象に侵食されていく内容であると同時に「家族ホラー」でもある。物語の説明部分で「それなりに幸せそう」と書いたガードナー家だが、実際は様々な家庭内の問題を漂わせている。反抗期真っ盛りの娘ラヴィニアとの関係や、理解しがたい親の自然派生活主義、さらに一家の稼ぎ頭は投資アドバイザー(?)の妻テレサであり、夫ネイサンは彼女をサポートする主夫的側面が強い。それ自体は悪いことではないが、彼はプライドからか一家の家長として振る舞おうとするため、歪みが生じているようにも見える。またネイサンとテレサ実はどちらも親との関係が悪く、自身は良い親になれるのかという不安を抱えていたりもする。

ガードナー家の食卓。自然食メニューに「ハンバーガー食べたい」と不満をいう長女。
怪異前はそれほど深刻ではなく、和やかな雰囲気であるのだが。

一つ一つは観る側にとっても身近な問題で、たやすくはないものの乗り越えられる問題といえるもの。だがこの微妙な均衡を崩すのが庭に落ちた隕石であり、それが及ぼすあまりにも奇妙な怪異というのがホラーたる所以だろう。怪異の侵食は少しずつ進み、庭に見たこともない植物や昆虫が発生し始めるといった目に見える部分と、そうでない目に見えないところで進んでいく。同時に、先述したガードナー家にある不和の種がどんどん発芽していくことでその度合を表していくのだ。この怪異の正体はなんとも説明も表現もしづらいのだが、作品内ではそれが及ぼした結果としての醜怪なクリーチャーを見せるという手法が取られている。ショッキングな映像もありながら、大部分は生理的精神的にじわじわと追い詰めていく感じ。そんな中で、「どうにもならなくなって一人キレ散らかすニコラス・ケイジ」や、「恐怖のあまりイッてしまったニコラス・ケイジ」のようなニコケイ劇場は恐怖を通り越して笑えるし、あらゆるものが崩壊していく人智の及ばない破壊描写、ラストのいかにもなモノローグ的な余韻など、それなりに楽しめた。

まとめ

というわけで、身の毛のよだつ怖さというよりじわりじわりと侵食されていくようなSF・ホラー。怪異の進行につれて家庭内問題が表面化していくという切り口はとても真っ当で面白い。クリーチャーもしっかり気持ち悪いし、実際人がこうなったらこんな感じなのか……という想像をかきたてる点でいい仕事だと思う。個人的に、犬大好きな長男ベニーは特に欠点もなくいいやつで、それがゆえのあの結末はなかなか可哀想だった。

画像:© 2019 Ace Pictures Entertainment LLC

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