映画感想「プラットフォーム」

2019年スペイン公開のSFホラー映画。主演イバン・マサゲ、監督はガルダー・ガステル=ウルティア。「穴」と呼ばれる閉鎖空間で繰り広げられる物語だが、その舞台設定があまりにも過酷過ぎてなかなか観るのを敬遠していた作品。Amazon Prime Videoにて視聴。

ストーリー

目を覚ました中年男ゴレンは「48」と壁に記された部屋にいた。部屋の中央、そして天井には同じサイズの穴が空いており、そこから上下にも同じ構造の部屋が連なっている。ゴレンの向かい側には、トリマガシと名乗る老人がいた。無愛想ながら何も知らないゴレンに「今日は月の初め。問題は何を食うかだ」を語る。そこは食事が与えられる以外何もない牢獄のような空間なのだが、問題はその食事。全員分の食事が並べられた台「プラットフォーム」が、部屋の中央の穴を1階層から順々に下へと降りていくのだが、上の階層にいる人間が下層の人間の分まで食い荒らしてしまうため、下へ行くほど残飯だらけになり終いには何もなくなるのだ。追加の食事など与えられず、下にいる人間は飢えに苦しむことになる。またこの「穴」の中では何をしても許されるという。
そんな会話をしているとゴレンたちの階層にプラットフォームがやってきた。案の定、1~47階層の人間たちの食べ残しばかりが並べられている。気持ち悪がるゴレンと対照的に躊躇わず残飯を貪るトリマガシ。この「穴」ではエレベータが来ているタイミング外で食事を摂ると部屋の温度が耐えられない高温もしくは低温になるため、食事はプラットフォームに合わせるしかないのだ。
プラットフォームが去ると、ゴレンはこの「穴」に入った理由を語る。彼は喫煙中毒であり、この「穴」で半年過ごして中毒を治せば認定証がもらえるからだった。その際一つだけ外から物を持ち込むことができ、彼は暇つぶしのために本を選んだのだ、と。トリマガシに入った理由を尋ねると、彼は「包丁のCMにイライラしてテレビを窓から放り投げたら、運悪く人に当たって殺してしまったんだ」と話す。そして彼が持ち込んだものは、なんとその包丁だった……というのが序盤。

「プラットフォーム」に並べられた料理。ほとんど食い荒らされた残飯になっている。
トリマガシはすぐに手をつけ、ゴレンはそれを気味悪そうに見つめる。

感想

冒頭でも書いたが、設定を聞いただけでそこから想像できるだろう出来事がとても恐ろしい作品。それに加えて「他人の残飯を食べなくてはならない」というのもなかなか生理的に嫌なところを突いてくる。実際に観てみるとばっちり想像した通りのことが起こるので、そういう意味では想像通りのものをちゃんと提供しているといえる。わかっていたとはいえその部分はなかなか強烈なのだけど、実はそれは映画のわりと前半で起こる出来事。物語の説明では書かなかったが、実はこの「穴」は一ヶ月ごとに部屋の入れ替えが発生する。それまで上の階層で比較的残飯の少ない食事にありつけていたのが、次の月には何にも残っていないような下層にいるということも大いにあるのだ。ゴレンもルール通りに上層や下層の入れ替えを経験するのだが、映画を観る視聴者含めてプラットフォームの上の食べ物がまったく違って見えるような仕掛けになっている。こういう観る側の意識の変化、というか感覚が麻痺してくるのは素直に面白いし、それが主人公の感覚と同期しているような錯覚もあって、映画のつくりとして非常に真っ当だと思った。感覚が麻痺してくるので、中盤以降はグッチャングッチャンな描写もそれほど拒絶せず観ることができる。
この「穴」が「現実の階層社会」を映しているというのは、大半の方が認識するところだと思う。上の階層にいる、地位が高かったり特権階級の人間が欲望のままにほしいだけ貪り、それ以外の下層の人間はその僅かなおこぼれや残飯をない者同士で奪い合う。またそうした階層を無視して振る舞う者すらいる。そうした社会の写し鏡をホラーで表現したというのは実にわかりやすいのだけど、正直そこから単純な流れにならないところは「おっ」と思わせてくれた。ここでミソになってくるのは、一ヶ月ごとの入れ替えである。現実の社会や政治を見ていれば明らかなように、特権階級や上級国民といった人々は一度その立場におさまったらなんとかそれを維持しようとする。ところが「穴」ではそこにしがみつくことができない。物語外で抜け道がない限り、運次第でそれまで上の階層にいた者が下にいくことも、その逆も起こりうるのだ。「穴」の中に長くいるほど特権階級と最底辺、豪勢な食事と命に関わる飢餓の両方を経験することになるのだろうが、大半の人々は上層にいるときにはその権利を享受しようとする。「人間、権力を持つと人が変わる」というが、本作のテーマはそこなんじゃないかと思った。前半の階層社会的シチュエーションを用いた恐怖から、中盤以降はその仕組みの中でいかに人間性を示すのかという戦い、そしてこの「穴」の、それまで誰も踏み入れることのなかっただろう深淵へ向かう展開になってくる。結末については正直物足りなさは否めないが、全体としてやりたいことは伝わってきたし、むしろよくまとめたなあ、と思った。

「穴」では何をしても許される。人間をやめることも。
画像は包丁を見せつけるトリマガシ爺さん。

まとめ

というわけで、階層社会を切り取った設定のシチュエーション・ホラー。終始生理的な拒絶を掻き立てる描写が多くあまりオススメしにくいが、過激な表現と社会的テーマ性が同居した変わり種的な作品。スプラッタ系が平気な人からすると大したことはないかもしれないが、観る際にはある程度のお覚悟を。

画像:© 2019 Basque Films, Mr Miyagi Films, Plataforma La Pelicula AIE

Amazon Prime Video
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