映画感想「アブダクション」

2017年、アメリカ、カナダ製作のSF/サイコスリラー。監督クレイ・スタウブ、主演アマンダ・シュル。母子失踪事件を捜査するFBI捜査官が、田舎の若き副保安官とともに狂人と周囲から恐れられる男の家を訪れる。原題「Devil’s Gate」。Amazon Prime Videoで視聴。

ストーリー

アメリカ、デビルズゲート郡。一台の車が道の真ん中で故障し立往生してしまう。乗っていた青年は近くにあった農場主らしいプリチャード家を訪ねる。その家は柵に有刺鉄線が張られ、入り口には警告するように「立ち入り禁止」と書かれていた。しかし助けが欲しい彼は意を決し柵の中へ踏み入れる。だが家の中から男が何かを怒鳴りつけている声が聞こえてきた。青年は危険を感じ離れようとするが、敷地内に張り巡らされた罠により不幸にも命を落としてしまう……。
その頃、FBI捜査官のフランシスがデビルズゲート郡の空港を訪れる。彼女はこの地で通報のあった母子失踪事件の捜査で来訪したのだが、地元の保安官は「家出したんだろう。夫もイカれた奴で有名だからな」とやる気なし。夫の名はジャクソン・プリチャード。フランシスは副保安官のコルトとともにプリチャード家を訪ねるのだが……というのが序盤。

FBI捜査官フランシスと副保安官コルト。
コルトは多少フランシスに同情的だが、上司を恐れてか事件捜査には消極的。

感想

感想の前に、この時点で気になっているという方はすぐに観に行ってきて来てほしい。あらすじの一単語目で察せられてしまうので難しいかもしれないが、できればAmazonのあらすじも目に入れずに再生をしてみてほしい(画面の左下だけ注視しながらページ移動するとあらすじを見ずに再生ボタンにたどり着けるかも)。
一応このまま読み進めてもいつも通り内容の直接的なネタバレは極力しないつもりです。

Amazon Prime Video
https://www.amazon.co.jp/gp/video/detail/B07NBQB87T/

さて、こんな薦め方をする理由――それはこの映画で一番の売りというか仕掛けが、宣伝やあらすじ、そしてAmazonのサムネイルや紹介ページの時点でガンガンにネタバレされているからだ。
これは今まで何度か感想として取りあげてきた、○○ジャンルだと思って観てたら△△になった「ジャンルシフトもの」だ。この手の作品は途中で切り替わった際の驚きがとても心地よくて好きなのだが、そういう「変化がありますよ」と説明をしてしまっている時点でそのネタに対して身構えろと伝えることになってしまう。ここがいつももどかしく、説明が難しい。
にしてもAmazonのサムネイルやあらすじは答えをガツンと出し過ぎだと思う。まあそもそも原題「Devil’s Gate」からのこの邦題なので、言っても仕方がないことかもしれないが……。

敷地内の罠にかかり、苦痛にうめく哀れな青年。
のっけからなかなか痛々しいが、こうした描写がところどころで登場する。

作品自体はちゃんとというか、序盤はあくまでサイコスリラー的な雰囲気で進行していく。若干いかにもミスリードしてますよという意図も感じられるが、この後に待ち受ける展開のフリもしっかり刻んでおり、やりたいことを全力でやってやろうという意欲が感じられて好印象。

中盤で物語の全容が明らかになった後も結末がどうなるかは想像できずに引きつける展開ではあるし、ジャクソンと失踪した母子の過去の出来事や、序盤のフレーバーとして登場した宗教的要素などはいずれもすべて繋がっている。決してただネタバレして終わりという作品ではなく、よく練られていると感じた。
ただ中盤以降は置かれた状況に対して登場人物が何を考えているのかいまいちわかりづらいところがあったのと、中盤の急展開に対して結末が今一つ盛り上がりに欠けたのは個人的に残念。まあ前者に関しては、内容的に疑心暗鬼になる部分もあるのでそういうものなのかもしれない。
とはいえ、ジャンルシフト映画好きとしては「知らずに出会いたかった」というぐらいには面白かった。

ジャクソンを拘束するフランシスとコルト。
映画のトーンは終始真面目で、お笑い要素いっさいなし。緊張感があってよろしい。

まとめ

というわけで、サイコスリラーとして進行しつつも実は……を堂々宣伝してしまっている作品。売り方が違ったら隠れた名作になったかもしれないが、こう売らないと見向きもされなかっただろうし、この手の作品はできる限り情報を入れずに観てほしいが薦める以上説明が必要になるという悲しい宿命を背負っている映画。