映画感想「NOPE」

2022年公開のSFホラー映画。監督は「ゲット・アウト」「アス」のジョーダン・ピール。主演はダニエル・カルーヤ。NOPEとは強い否定の俗語で、劇中では「ありえない!」という使い方が印象的。Amazon Prime Videoで有料配信されていたのを急に思い出しレンタル視聴。

あらすじ

父と共に撮影用の馬の牧場を営んでいたOJ(オーティス・ジュニア)。ある日、空から降ってきたコインに父親が運悪く当たってしまい死んでしまう。OJは父の跡を継いで撮影の仕事をこなそうとするがうまくいかず、夢を追って都会に出ていた妹エム(エメラルド)が戻ってきた日の晩に突然牧場の馬が逃げ出してしまい、追いかけたOJはそこで父親の事故のときにも見た謎の飛行物体をはっきり目の当たりにする。それをエムに話すと、「どうにか動画撮影して金にしよう」と言い出し、兄妹は撮影機材を買い込んで飛行物体をカメラに収めようとするのだが……というのが序盤。

OJとエム(エメラルド)。この二人が再会した日の流れがとてもよい。
二人の感情や抱えているものの伝え方がめちゃくちゃ上手かった。

感想

「ゲット・アウト」「アス」と続けてヒットを飛ばしてきたジョーダン・ピールが監督した映画で、三作目となる。もちろん核心について話す気はないが、個人的には今までのピール作品で一番好きかもしれない。アフリカ系アメリカ人でもあるジョーダン・ピールは白人に対する黒人という存在をテーマに盛り込んでおり、それは本作でも健在。でも、そういうことを抜きにしても個人的に本作は面白かった。「個人的に」とわざわざ書くのは、本作が紛れもない「ジャンルシフト映画」だからである。
ジャンルシフト映画というのは私が勝手にそう呼んでいるもので、途中まで積み上げてきた要素や情報からは想像もできなかった展開や、本当なら違うジャンルで呼び覚まされるような感情を刺激される作品のこと。「ウサギの絵を見ていると思ったらいつの間にかアヒルに見えてきた」ようなだまし絵的面白さや、公道から急に畑のど真ん中を突っ走るような、先の読めなさや異様なドライブ感とでもいえばよいだろうか。有名作だとスティーブン・キング原作の映画「ドリーム・キャッチャー」とかがわかりやすい。なかなか万人に受け入れがたいものもあるのだが、一旦気づいてしまうとそこには得難い魅力があるのだ。

さらに本作は登場人物の見せ方が特に上手だと感じた。OJやエム、そして父親との親子関係、家族関係を退屈させずに伝えてしまうのは流石としかいいようがない。そして先述のあらすじでは省いたが、冒頭に映される強烈な事件のシーンと意図、それを生き残ったある人物の心情を紐解いていくと、本作がどういう話なのかなんとなく見えてくる。単純に、映画としての表現や演出が高水準なのだ。

「見る映画を間違えたかな?」と思うような冒頭の事件。
脈絡がないようで実はがっちりつながっている。

私は作品には「考えなくても面白い」の他にも、隠れた意図やカラクリが「わかると面白い」、元ネタや知識を「知っていると面白い」という3つの面白さがあると考えているのだが、本作はそのどれもまんべんなくポイントが高いと思った。ただ一点、純粋に「身の毛もよだつ恐怖」だけを尖らせた作品ではないので、それ一本を期待するとミスマッチングが起こるかも。ただ何度も書いたが、キャラクター、画、アクション、音楽など、本作は表層的な面白さだけでも十分な満足感を与えてくれると思う。

まとめ

というわけで、はっきりいって引くくらいレベルの高いSFホラー・エンターテイメント。正直なところ監督のメッセージ性に特段感銘を受けたわけではないのだけど、その見せ方、伝え方をここまでうまくやられたら白旗を上げたくなる。傑作。

画像:© 2022 Universal Studios