映画感想「さいはての用心棒」

1966年のマカロニウエスタン。イタリア、フランス、スペイン制作。ジョルジオ・フェローニ監督作品。主役を演じるのは、ジュリアーノ・ジェンマ。ルックスの良さと抜群の運動神経で「マカロニの貴公子」と呼ばれていた俳優である。
自分はそれほど多くのマカロニ映画を観ているわけではないので、ジェンマといえば「怒りの荒野」なのだが、あちらがマカロニ名優リー・ヴァン・クリーフとの共演だったのに対し、こちらはジェンマ一人主役といってよい感じ。出演作品を見るに、元々ピンで主役を張る方が多かったようだ。

映画の舞台は、南北戦争直後のアメリカ。
ジェンマ演じるゲイリー・ハモンド中尉は南軍の将校として、北軍の捕虜収容所に囚われている。南軍なのかと思いながら見ていると、彼は冒頭から飯係の北軍伍長をおちょくり、あげく捕虜用の食事鍋をひっくり返し大暴れする。当然ながら独房にぶち込まれるのだが、なぜそんなことをしたと北軍の大佐に問われ答えた理由が「飯がひどいから」。
別に伍長の態度が凄まじく横暴というふうには見えなかったのでここだけだとただのイヤなやつにしか見えないのだが、とにかく大佐が直々に様子を見に来る辺り彼は北軍からも一目置かれているようである。

実は、大佐が独房にやってきたのはゲイリーに極秘の任務をやってほしいからだった。
これがなかなかややこしい状況説明なのだが、やることとしてはこの土地の周囲に詳しいゲイリーに、北軍がいるユマ砦まで密使の道案内をして欲しいのだという。目的は砦に緊急の手紙を届けるため。
「電信を使えばいい」というゲイリーだが、電線は強盗団によって切られているとのこと。どうやらこの近くに南軍の残存部隊である第5連隊がおり、戦争が終わったことを認めず、ユマ砦に奇襲をかけようとしているようである。第5連隊の数は800人。強固な砦を襲うには無謀な数だが、彼らは砦に満足な武器も兵士もなく、手薄だというニセ情報に騙されている。情報を流したのは強盗団。連中の狙いは砦に隠してある100万ドルで、南軍を砦にけしかけ、その混乱に乗じて地下に掘った穴から盗みに入る目論見らしい。
南軍が砦を攻めれば、おびただしい死者が出る。そして、第5連隊はゲイリーが所属していた部隊。ユマ砦側が警戒し戦力を見せるだけで、南軍は奇襲を諦め強盗も阻止できる。仲間の命を救うためにも引き受けてくれないか、と大佐は言うわけである。
金でも復讐でもなく800人の兵士を救うというのは、マカロニウエスタンにしてはわりと珍しい目的な気がする。むしろハリウッドのB級アクション映画にありそうな話で、ジェンマをヒーローとして描くには確かにうってつけではある。

捕虜収容所の大佐から道案内を頼まれる南軍将校のゲイリー。

こうして、ゲイリーは案内人として、北軍のルフェーブル大尉とピット軍曹とともにユマ砦を目指すことになる。カットも狭い独房から雄大な自然を馬で駆ける場面に切り替わり、ようやく西部劇らしくなってくる。手紙を携え同行するルフェーブル大尉は、南軍のゲイリーを信用しておらず疑り深い人物。強盗に対しても容赦せず、二言目には処刑しろという冷酷な男である。
もうひとりのピット軍曹は「南軍のやつは何を考えているかわからん」と言いつつも、ゲイリーを捕虜ではなく人間として扱う。ゲイリーは、彼と話をしながら隙を突いて彼の正面から拳銃を奪い、銃口を突きつける。ところが軍曹も、護身用の小型拳銃を即座に抜いて構える。そのあと二人は大笑いし意気投合。ゲイリーは悪戯でやったことを詫びる。

互いに拳銃を向けながら大笑いするゲイリー(左)とピット軍曹(右)。
捕虜がやって悪戯で済むとは到底思えない、ガンマンジョーク。

軍曹はその小型拳銃がお気に入りらしく、こいつを見てくれよと自慢。ゲイリーが褒めると「俺が死んだらあんたにやる」と言う。「大尉が持たせてくれないさ」とゲイリー。北軍南軍という立場の違う者同士の友情で、「なんで俺たち戦争してたんだろうな」というのを暗に示している気がする。個人的にこの映画で一番好きなやりとりである。

こうしてユマ砦を目指す三人なのだが、ここから展開が二転三転し、どんどん先が読めなくなってくる。予想外というか、言葉を変えるといきあたりばったりにも見え、ゲイリーの行動に「え、なんでそんなことしたの?」と思うことも多々あるのだが、物語が進むとちゃんとした理由が明らかになる。
そういう意図の読めない展開の場合、所謂(シャーロック)ホームズにおけるワトソン的立場の人間がいると安心してその同行を見守れるものだが、ゲイリーは一人で行動することが多く視点が彼を通してのみなので、それが映画の世界においてまっとうな感覚の行動なのかどうかがわかりにくい。しかしそうやって敵を翻弄していく彼を見るに、敵にとっても視聴者にとってもトリックスター的な男なのだという気がしてくる。
とはいえ、誰彼構わずうまく出し抜いていくかと思いきや強盗団に捕まって酷い目に遭うし、敵の陰謀の成就や第5連隊の動向など、特に終盤はけっこう緊張感があり、アクロバティックな動きや因縁の相手とのガンファイトなどなど、マカロニらしい見所もある。

というわけで、ダークさの薄い、明るい痛快アクションといった感じの作品。掴みどころのない部分がハラハラさせるが、美味しい部分はしっかり入っている作品。ジェンマの一人舞台映画と思いきや脇役が意外と活躍するのだが、途中出てくるお爺さんはあんな目に合わなくても……と思った。

画像:© 1966 STUDIO CANAL, Productions J.Roitfeld, Epoca Film