映画感想「きさらぎ駅」

2022年の伝奇ホラー映画。2000年代に2チャンネルに投稿され、その後有名なネット発祥の都市伝説となった「きさらぎ駅」を題材にした作品。監督は永江二朗、主人公の大学生堤を恒松祐里、「きさらぎ駅」へ行ったというハンドルネーム「はすみ」こと葉山純子を佐藤江梨子が演じる。普段あまり邦画(特にホラー)は観ないのだけど、知人に進められたのでAmazon Prime Videoにて視聴。

ストーリー

大学で民俗学を学ぶ堤春奈は卒業論文で「神隠し」、それもネットの伝説的都市伝説「きさらぎ駅」を題材に書こうとしていた。彼女は郊外に住む葉山純子という女性に取材を申し込む。彼女は都市伝説「きさらぎ駅」に登場し、その異世界駅に行った書き手であるハンドルネーム「はすみ」ではないかと噂されていたからだ。実際、きさらぎ駅の話が投稿された2004年1月8日から7年間、葉山は消息不明になっていた。葉山の家を訪れた堤は、彼女からきさらぎ駅で起こった出来事を聞く。
葉山の話では、きさらぎ駅に迷い込んだのは自分ひとりではなく他に5人の人間がいたという。異世界をさまよう中で次々と怪異に襲われていく中、新任教師をしていた葉山はそこで出会った同校の女子高生、宮崎明日香を助けることができなかったことを悔いていた。戻ってきた葉山はその後何度かきさらぎ駅へ行けるかを試したができなかった。話を聞いていた堤は彼女のそれまでの行動にヒントがあるのではと思い至り、葉山から当日に何をしたのかを聞き出し、その中からきさらぎ駅へ至る手段を見つけ実践する……というのが大体の流れ。

感想

正直そこまで期待せずに観たこともあって、本当にわりとよくできていることに驚いた。料理で例えるなら素材(題材)本来の味をまるごと引き出したのではなく、いいところを上手く使ってしっかり「調理」したといった印象。先述した説明部分でもわかるように、本作で扱われる「きさらぎ駅」の内容は、実際に2ちゃんねるに投稿された「きさらぎ駅」の内容とは異なる。本作における「きさらぎ駅」は携帯電話が圏外になっているため2ちゃんねるに書き込むことができない状態だったし、そもそも本来の都市伝説の内容だと迷い込んだのは「はすみ」一人だけだ。この物語の中では、「きさらぎ駅」の話はネットの都市伝説としてではなくあくまで葉山の体験として語られ、ネットでどう話題になったのかなどは具体的には明かされない。なので、実は実際の「きさらぎ駅」の話を知らなくてもまったく問題はないのだ。

本作は大きく二部構成になっており、前半は葉山が堤の取材に答える形で語られる異界「きさらぎ駅」での体験談、そして後半は堤自身が望んできさらぎ駅を訪れ(迷い込み)……といった流れになっている。葉山の体験談として流れる映像は、異界の風景加工がなかなか雰囲気がある。葉山以外の登場人物、とりわけ「ショウちゃん」という人物が大活躍してくれることと、POV視点による一人称ホラーゲームのような演出になっており個人的にはそれなりに観ていられた。
映画全体の時間が82分とかなり短いのもよく、中だるみを感じる前にテンポ良く次の展開へと話が移っていく。堤自身がきさらぎ駅へ迷い込む後半は、やり取りに若干のチープさを感じつつも前半の内容にプラスされた要素がうまく味変として機能しているし、それらを含めて観る側が抱く感情に対するアンサーもあり、わりと「そういうことか」と納得できる終わり方だった。

まとめ

というわけで、ネットの都市伝説を題材にしつつ小さくまとめた伝奇ホラー作品。「ネットの都市伝説」という、わりと共有された題材を扱っていながら、やりすぎない程度に作り替えてうまくまとめている印象。正直この手の作品は肌に合わないと思っていたが、ちゃんと引き込まれる作りになってるので、気になっているかは観てみるとよいかも。

画像:©2022「きさらぎ駅」製作委員会

Amazon Prime Video
https://www.amazon.co.jp/gp/video/detail/B0B8N9V5S7/