ゲーム感想「ドンキーコング バナンザ」

2025年7月17日に発売された3Dアクションゲーム。ニンテンドースイッチ2専用ソフトで、任天堂のIPの一つ「ドンキーコング」シリーズ最新作。開発は同社の「スーパーマリオ オデッセイ」を制作したチームが行っているとのこと。

ストーリー

インゴス島の「黄金のバナナ」ことバナモンド採掘に参加していたDK(ドンキーコング)。しかし、ヴォイドコング率いるヴォイドカンパニーによって、DKはインゴス島とともに地下世界に沈んでしまう。沈んだ地下世界で、DKは喋る不思議な石と出会う。石の正体はヴォイドによって石に変えられた少女ポリーンだった。ヴォイドたちが狙うのは地下世界の奥深くにある、なんでも願いを叶えるという「バナルート」。地上の世界に戻りたいポリーンと、とにかくバナナが欲しいDKは力を合わせてバナルートが眠る星の中心を目指す……というのが大まかな流れ。

石にされたポリーンとともに冒険に出る。
最初はDKを怖がっていたポリーンに無事信用される、イケゴリラのDK。

感想

初トレーラーのときから注目していた作品。
最大の売りは「なんでも壊せる」こと。敵やオブジェクトだけでなく、壁も、地面も、天井も縦横無尽にパンチで粉砕できる。こうした地形の中に収集品であるバナモンドや化石、またミニゲーム的チャレンジコースなどが配置されており、ゲーム自体が地形破壊を推奨しているわけである。
本作は破壊がとにかく気持ちいいということに尽きる。大体の攻撃は繰り出しながら移動でき、スティックを倒しながら正面パンチボタンを連打しているだけでどんどん壁を破壊し掘り進めてくれるので爽快感抜群。床を壊したければ下パンチボタン、上を殴りたければ上パンチボタンと、3方向にそれぞれボタンが割り当てられている。なかなかこういう操作のゲームはないので最初はちょっと慣れが必要だが、とにかく壊すということをゲーム内で繰り返すため大抵の人はすぐに適応できると思う。
またパンチだけでなく床や壁などを掴んで引きちぎるようにして素材を持ち上げることができ、投げつけたり武器として振り回したり、あるいはその素材に飛び乗って床を滑る「破片スケボー」なんてこともできる。
さらにうまいと思ったのがハンドスラップ(手を叩く)で、地中などに埋まった収集物の場所をソナーのように特定したり、散らばった金塊を一気に取得したりもできる。この操作によって闇雲に床や壁を破壊し続けるのではなく、「ソナー→何かの位置を特定→そこに向かって破壊→入手→またソナー…」という流れが出来上がっている。単純だが見事なサイクルで、このゲームで一番楽しい地形破壊をとにかく体験させるようにしていると感じた。

地面の中をパンチで壊して掘り進むDK。特定のオブジェクトではなく、
ほとんどすべての地形を殴って壊せる。すげえ。

本作の壊せる地形は「マインクラフト」のような、いわゆるボクセル(平面のピクセルに奥行きを足した立方体)技術を使ったと開発者インタビューで触れられている。だが見た目はいかにも立方体という感じではなくまるでそういう3Dモデルかのように自然な形で、処理落ちもほとんどない。ここは本当にすごいと思った。
この仕組みによって、特定オブジェクトを除き「地面は乗るもの、壁は越えるor避けるもの」というゲームでは一般的な常識が、本作ではどちらも「壊せる」ものになっているというのは凄いといわざるを得ない。マリオではなくドンキーならではのパワフルさを最大限生かした遊びなのだ。

そんなに何でも壊せてしまうと簡単だし、ゲームにならないんじゃないかというかもしれないが、そこにもちゃんと仕掛けがある。本作の地形は通常のゲームよりもかなり細かく素材分けがされており、序盤こそ破壊の限りを尽くせるものの途中から何も考えずに壊すということができなくなってくる。通常のパンチでは壊せないコンクリートといった素材から、殴るとダメージを受けるイバラや溶岩など、うかつに手を出してはいけないものまで様々。大体の敵は一発で殴って倒せたりできることが多くDKの強さを堪能できる分、「環境」そのものが牙を剥いてくるのである。
そうしたものも、地下世界を進むにつれ使用できるようになる「バナンザ変身」で切り抜けることができる。最初に手に入る変身「コングバナンザ」は先ほど挙げたコンクリートを破壊でき、チャージパンチで広範囲を吹き飛ばすことができる。そのほかのイバラや溶岩も、別のバナンザ変身を使えば対処できる。この変身は本作を代表する遊びの一つでもあり、これもまた爽快感があって気持ちいいのだ。バナンザ変身はポリーンの歌の力によって解放され、変身中は彼女のヴォーカル入りテーマソングが流れる。本作のBGMはどれも素晴らしいのだけど、中でも各バナンザのテーマソングはどれも良曲ぞろい。音楽が聴きたいがために変身したくなる中毒性がある。

本作はこれだけプレイヤーが好きに暴れることができるにもかかわらず、ゲーム自体はそれを内包した作りになっている。遊びを含め、何事もルールという縛りがあるからこそ成立するし楽しいのだけど、本作はルールに従うことを強要されず、逆にプレイヤーがどれだけ好き勝手してもちゃんとゲームのルール内に収まるようになっているのだ。用意されたものを自分の壊したいように破壊できるという面白さ、変身することで破壊行為をさらに加速させる爽快感は、ゲームだけでなくプレイヤーの常識まで壊された気分にさせられる。
あと個人的に面白いなと思ったのが、壊せるものの中にいかにもお地蔵さんのような石像があったり、NPCの一部に「ワレルヤの民」という鉱石でできた種族がいること。これらのものも何のペナルティもなく破壊できるのだが、こうしたちょっと罪悪感を覚えるものをあえて入れつつそれをどうするかプレイヤーに委ねているのも自由度の高さを感じた。
ちなみに、仲間のサルたちなどのNPCに攻撃するとパンチでなくハイタッチしたことになるところなども芸が細かくて好き。

また、ゲームの遊びとしてはとんでもない挑戦的なことをしていながら、ストーリーは非常に王道。個人的にDKとポリーンの絆の描かれ方が押しつけがましくないのも好印象。また過去にシリーズを遊んだプレイヤーへのサービスで溢れており、細かいネタやステージ構成、キャラクターの演出など懐かしさで胸が熱くなった(特に終盤!)。

勝利のダンスをするDKとポリーン。ポリーンはバディとして常にDKの肩の上にいて
いろいろ喋ってくれるので、劇的なシーンなどなくても自然と感情移入できた。

まとめ

というわけで、地形破壊という実験的なゲームデザインを見事に形にした傑作。とにかく地形破壊が革新的で気持ちよさや爽快感がこれでもかと詰まっており、「これに慣れたら他作品で地形破壊できないことに不満を持ちそうだ」と変な心配をしてしまうほど。初代スイッチにおける「ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド」のような、本体買ったらとりあえずやっておけと自信をもっておすすめできるレベルのバケモノ作品。

公式サイト
https://www.nintendo.com/jp/games/switch2/aaaca/index.html

開発者に訊きました:ドンキーコング バナンザ
https://www.nintendo.com/jp/interview/aaaca/index.html