ゲーム感想「エルデンリング」

2022年、フロム・ソフトウェア開発のオープンワールド・アクションRPG。「ダークソウル」シリーズや「ブラッドボーン」「SEKIRO」など、硬派で高難易度ないわゆる「死にゲー」ジャンルを確立したフロム・ソフトウェアが満を持してリリースした大作。発表時、海外ドラマ「ゲーム・オブ・スローンズ」の原作小説「氷と炎の歌」の作者、ジョージ・R・R・マーティンが設定構築に関わることでも話題になった。プラットフォームはPS4/PS5/PCなど。自分はPC(Steam)でプレイ。

永遠の女王マリカを崇め、途方もなく巨大な黄金樹が中心にそびえる狭間の地で、その根源であるエルデンリングが砕けてしまった。マリカの血を受けたデミゴッドたちは砕けたエルデンリングの欠片である大ルーンの力に溺れおかしくなり、結果「破砕戦争」が起こって人も大地もぼろぼろになってしまう。その後「褪せ人」と呼ばれる、目から祝福を失い土地を追われた流れ者たちに、再び祝福による導きがもたらされる。デミゴッドを倒し、大ルーンを集め、エルデの王となるために、彼らは黄金樹を目指す。
上記があらすじというより世界観のバックボーンだが、プレイヤーもそうした褪せ人の一人として朽ちかけていたところを祝福によって蘇り、狭間の地を冒険することになる。祝福が何かとはしっかり語られないが、どうやらこの世界にはそうした力が人やものに宿るらしい。祝福は至る所に存在し、回復やレベルアップ、敵のリスポーンなど、「ソウル」シリーズでいう焚き火の役割を果たす。

本作のコアとなるシステム、キャラクタークリエイション、アクション、レベルアップなど、ほとんどそれまでの「ソウル」シリーズや「ブラッドボーン」を継承している。一方で移動の操作感やステルス要素は「SEKIRO」に近く、思った以上に動かしやすい。特にジャンプを使った戦法は、地を這うような攻撃をうまく躱すと大きなリターンを取りやすく、戦闘をより奥深くしている。また特定の新要素となるキャラクターをCPUとして召喚する「遺灰」は、敵の攻撃をひきつけてくれるのでだいぶ助かる要素。
冒険を進め「霊馬」を手に入れると、フィールドなど騎乗したまま戦うことができ、いつもとは違ったひりひり感が味わえる。騎乗戦は早駆けによってヒットアンドアウェイ戦法がやりやすく、単純だが強い。もちろんダンジョンなど馬に乗れない場所も存在し、そういったところではシリーズの醍醐味をしっかり味わえる。

ゲーム開始直後、重装備に身を包んだ騎士(ボス)が闊歩している。もちろん勝てない。
茂みに隠れてやり過ごすことを実践させる、良い遊び心。

本作はオープンワールド・ゲームの自由探索的面白さを残したまま、そのフィールドを丸ごと「ソウル」シリーズ風に塗り替えたようなマップ構成になっている。フロム作品、特に「ソウル」シリーズに連なる高難度アクションRPGは、死と隣り合わせの戦いを繰り返しながら迷路のようなマップを攻略していくという、息が詰まるような緊張感と密度の濃さが魅力。同時に導線はある程度制御され、目の前の危険な場所や強ボスを倒さない限りは先に進めない状況が多く、際限なく苦境を「強いられる」部分の強いゲームでもあった。一方いわゆる「オープンワールド」はプレイヤーは好きにどこにいってもよく、辛いと感じたら別の場所へ行けばいいし、やりたくないイベントや戦いたくない敵とは戦わなくていい。
そんな2つのゲームが組み合わって構成されているのが本作である。一見真逆の要素のように思えるが、これが思いの外成立している。本作は他のオープンワールドに引けを取らない広さになっており、序盤から主人公が進むべき方向も特に強要されない。目の前の難所が辛いと感じたら別の方向へ歩を進めることもできるし、見つけたダンジョンをスルーすることもできるのだ。
驚愕したのがその密度であり、マップの至る場所が「ソウル」シリーズと同じくらいの意味と要素を持っている点だ。敵の配置から茂みや柱などの遮蔽物、高低差を利用した攻防にまた行く手を遮る断崖など、どこを取っても考えられた上で設計されているように感じる。それはシリーズ特有の「常に死の危険にさらされる緊張感」による作用も大きいだろう。隙を見せたら即死しかねない状況は、何もない場所にすら意味を与えるし、敵との戦闘を有利に進めるために前述の細かな地形を把握しようとし意識せざるを得ないのである。

世界観については根幹に関わるのであまり触れないが、やはりフロム節の効いた奥行きのあるものになっている。「ソウル」シリーズに連なるフロム作品は、元々イベントで多くを語らずに情報を散りばめていくスタイルで、設定の考察や深堀りができることでファンが多い。作り込まれたマップ背景、装備や道具、スキルなどのフレーバーテキストなどから物語を想像していく楽しみが、折れそうになる心をぎりぎり繋ぎ止めてくる。
最初はオープンワールド的な広大さに圧倒されていると、徐々にいつものフロム作品で垣間見せる異常な世界が眼前に広がり、その段階の上げ方もよくできている。もちろん自由度があるので、プレイヤーによってはいきなり狂気の世界へ突入してしまうことになるかもしれない。マップの広さだけではなく敵の種類も豊富で、特に「ブラッドボーン」で顕著だった、異形度高めのクリーチャーによる見世物ショー要素が強いのも個人的にはたまらない。
また他のプレイヤーが残したメッセージを読むことができたり、他プレイヤーの世界に侵入し戦ったりするシリーズならではのオンライン要素も健在。自分は侵入プレイはほぼせずに遊んでいるが、謎解きのヒントや待ち伏せの場所を教えてくれるメッセージに何度も助けられた。

風光明媚な大地から朽ち果てた世界などロケーションも多種多様。
しかし地上のどこにいても、世界の中心にある巨大な黄金樹を眺望することができる。

遊んでいて思うのは、この「広さ」は決してオープンワールドに寄せるためにそうしたのではなく、本来「ソウル」シリーズが目指していた正当進化なんだろうという点。それまでのシリーズのスケールアップといえばそれまでだが、緻密なマップ構成や敵配置をオープンワールドと遜色ないレベルにまで広げたというのは、それを構築するコストを考えると狂気の沙汰としかいいようがないのだが、見事に達成している。プレイしてみれば、想像以上の広さに圧倒されるはずである。これは誇張ではなく、行動範囲の果てを目指して未踏地域を横に進む以上のものが仕込んであるのだ。自分はプレイしていて思わず笑ってしまったほどである。
結果ボリュームはとんでもないことになっており、ブログにアップする頃には終わるだろうと踏んで書き始めたのだが、実はこの文章を書いている時点でクリアできていない(かなりいいところまではいっていると思うのだが……)。まあ、ネタバレ記事ではないのでご容赦いただきたい。

というわけで、それまでの緻密に作られた世界をそのままオープンワールド級にまで広げたまごうことなき「ソウル」シリーズ作品。気を抜けば死に至る世界を少しずつ開拓し、秘密を暴いていく感覚と強敵を倒す達成感など、まさにフロム作品の醍醐味がそのまま詰まっていながら、順序を無視して自由に冒険ができるいいところ取りの大作。反面、オープンワールド要素に過度な期待を抱くといつもの「ソウル」過ぎて心が折れるかもしれない。しかし広大なスケールのダークな世界観を闊歩するだけで楽しく、「ソウル」シリーズに触れるには最も入りやすく、同時に最も贅沢だとも思う。

画像:© 2022 From Software

PC(Steam)
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