アニメ感想「ザ・カップヘッド・ショウ!」(シーズン1)

2022年2月にNETFLIXで配信されたアニメーション作品。もとは2017年、StudioMDHRが開発した2Dアクションシューティングゲームで、1930年代のアメリカン・アニメーション映画に色濃い影響を受けたグラフィックや音楽が特徴で、インディーズゲームとしては驚異のヒットを飛ばした作品。本作はそのゲームのアニメ化となっている。この作品見たさにネットフリックスしたので視聴。

ケトル爺さんの家に住む、お調子者でいたずら好きな兄のカップヘッドと、怖がりだが思慮深い弟マグマンの兄弟は、お互い喧嘩もするが基本的には仲の良い兄弟。二人は楽しいこと、ワクワクすることが大好きで、魔法の島インクウェル島を舞台に騒動を巻き起こすのだった。
ある日二人はケトル爺さんの仕事をすっぽかし、町にあるデビル遊園地で遊び回っていた。カップヘッドはスキーボール(要は玉入れ)のゲーム機で天才的な腕を発揮し周りの注目を集めるのだが、実はこの遊園地はデビルが魂を集めるために作ったもので、目の前のスキーボールも集金ならぬ「集魂」装置のひとつだった。それに気づいたマグマンがカップヘッドを止めようとするが、その拍子にスキーボールは失敗。カップヘッドは魂を取られそうになる。装置に吸い込まれかけた彼の魂を引き止めて無理やり戻したマグマンだが、以来カップヘッドはそのことでデビルに目をつけられてしまうのだった……というのが1話。

第1話のデビル遊園地での一幕。観客にはゲームに出てきたキャラクターも。
とにかく画と動き、音楽のすべてがアメリカン・アニメーション要素100%といっていい出来。

実はゲームのストーリーは二人がデビルのカジノで夢中になるあまり魂をかけた大勝負で負けてしまい、見逃してもらう代わりに逃げ出した他の債務者の魂を取り立てるよう命じられるという流れになっている。動機からして世界観をよく顕しているのだが、設定こそ違うもののアニメーションもその空気をしっかり継いでおり、なんでもありのドタバタ劇が魅力となっている。

ゲームが評価された一因として驚異的なグラフィック・クオリティとそれを盛り上げる音楽が挙げられるのだが、本作はそれを完全に踏襲している。まさしく本アニメーションはゲーム版「カップヘッド」クオリティであり、同時にアメリカン・アニメーション作品そのもの。個人的にはディズニーのショート作品や、ワーナーの「ルーニー・テューンズ」、MGMの「トムとジェリー」などが思い浮かぶが、それらに全く引けを取らないクオリティとなっており、正直「ゲームのアニメ化」という情報がなければいつ作られたものなのかわからないぐらい完全に馴染んでいる。
その拘りは、当時を思わせるフィルムの傷が入るなど細かい部分はもちろん、キャラクターの動きやコミカルな表現も見ているだけで面白く、ネタを拾っていくとキリがない。本作は1話10分程度となっているのだが、その一つ一つがとても濃厚で10分とは思えないほど楽しませてくれる。この充実感といい本作はこれだけで成功しているといえるのだが、改めてゲームのグラフィックの(いい意味での)やばさも際立つという、おまけつきである。ちなみにwikipediaによると、ゲームを開発したStudioMDHRのモルデンハウアー兄弟はフライシャー作品やウォルト・ディズニー作品などから影響を受けているそうで、本作の舞台となるインクウェル島の名称はフライシャーの作品およびスタジオ名から取られていると思われる(フライシャーも兄弟で活動しており、兄のマックス・フライシャーはあの「ロトスコープ技法」を発明したすごい人)。

また、作品内容が絵柄とは裏腹になかなか過激でブラックなところもツボを押さえている。悪戯レベルの悪意から明らかな理不尽まで含め、コミカルなキャラクターたちが相手を出し抜きあいながら繰り広げるドタバタ劇というのはアメリカン・アニメーション作品でもよく見られた流れで、本作でもそれはしっかり発揮されている。個人的には、彼らがダウンしたときなどカップの中身(ミルクらしい)を地面にぶちまけたり、殴られたときなど瀬戸物が割れる音がするといった表現が好き。また日本語吹き替えのクオリティも高く、どのキャラクターの吹き替えも役と非常にあっている。ミュージカルシーンも違和感がなく、どこを取っても隙がない。

また、うまいと思ったのは、本作がゲームの宣伝として機能している点だ。作品のアニメーションとゲームグラフィックが全く遜色ないことはさんざん触れたが、実は2022年6月末にゲーム本編の追加コンテンツが予定されている。本アニメーションのシーズン最終話で登場する「ミス・チャリス」はそこで初プレイアブルとなるのだが(これもかなり癖のあるキャラクターだ)、アニメでも謎を残したまま次シーズンへ続く流れになって終わっている。

カップヘッドたちとミス・チャリス。こちらも奔放で癖のあるキャラクター。
(初というわけではないが)お披露目の方法としても面白い。

というわけで、まさに古き良きアメリカン・アニメーション・スタイルそのものであり、かつゲームグラフィックがそのままアニメになった作品。内容のクオリティも素晴らしい。アニメーションは36話を3シーズンに分けて配信予定だそうで、2022年3月現在1シーズン12話のみ配信されている。この作品を視聴したいがためにNETFLIX契約してよいレベルだし(自分はそれ)、こっちを見た後でゲームを購入してもいい。たぶんどちらでも「うわ、(画のクオリティが)まんまだ」と驚かれると思う。ただしゲーム自体はかなり高難度なので、アクションが苦手な方は注意。

画像:© 2022 NetFlix Production