映画感想「ライトハウス」
2019年のスリラー映画。ロバート・エガース監督作品。主演はロバート・パティンソン、ウィレム・デフォーの二人で、作中はほとんどこの二人しか登場しない。灯台施設だけで居住者のいない小さな孤島が舞台となっている。ウィレム・デフォー目当てで観たのだが、なかなか強烈な作品だった。Amazon Prime Videoにて視聴。
ニューイングランド沖の孤島。灯台と従業員が寝泊まりする施設以外には何もない小さな島に、二人の男が赴任するところから話は始まる。ひとりはそれまでこの灯台の管理をしていた、ウィレム・デフォー演じるベテラン灯台守のトーマス・ウェイク。もうひとりはロバート・パティンソン演じる新人の若者、イーフレイム・ウィンズロー。
ウェイクはウィンズローに設備の掃除といった雑務の大半を威圧的に指示しつつも、灯部屋の仕事だけは自分のものだと言って近づけさせなかった。不気味な霧笛が鳴り続ける中での過酷な労働に、ウィンズローは徐々に疲弊していく。ある夜仕事を終えた彼は波打ち際の先に人らしきものが浮かんでいるのを見つけ、海に入る。そこで彼は人魚を見たのだが、気がつくといつものベッドの上にいた。自分は疲れのあまり幻覚を見たのか? わからないウィンズローにはその後もパワハラだけでなく不吉な現象が襲いかかり……というのが序盤から中盤の流れ。
まずはとにかく、2019年の作品でありながらおおよそ100年前の黎明期の映画作品に限りなく近づけて仕上げている点である。画面がモノクロであるというのは見る前からわかるものの、映画が始まってすぐに気づくのはその画面比率。アスペクト比16:9に慣れてしまった我々からすると限りなく四角に見えるのだが、実際には1.19:1というトーキー(音声映画)登場時のごく短い期間に使われた規格となっているそう。
さらに、本作はカラーで撮ったものをデジタル加工でモノクロにしたのではなく、最初から白黒用の35ミリフィルムを使って撮影されている。その拘りは画面だけなく劇伴にも現れており、管楽器によるおどろおどろしい恐怖映画的音楽満載となっているのだ。
1.19:1という窮屈な画面も手伝って、作品内容もとにかく息が詰まる陰鬱さと偏執的な空気に溢れている。主演二人の演技がとにかく凄まじく、特にウィレム・デフォーは無神経で下品で本当にイヤなパワハラ野郎、しかし酒が入ると陽気で気さくな男になるという面倒で扱いづらい人物を怪演している。「この野郎、ぶっ殺してやりたい」と感じる部分と「なんだ、実はイイ奴じゃん」と思う部分のバランスが絶妙で、観ていると本当にサイコパスを相手にしているかのようでこちらの精神にもダメージが入るほど。新人灯台守のウィンズローを演じるロバート・パティンソンも、心をすり減らし狂気に陥っていく過程を見事に演じている。目の窪んた感じ+モノクロな分、こちらの方が画的に怖さを感じた。
ウィンズローの置かれた環境は、ウェイク以外には誰も存在しない。ということは、自己の置かれた社会で振る舞う際、判断基準となるのは唯一の他者であるウェイクしかおらず、それは歪んだ鏡を見続けて自分を矯正していくということに等しい。閉鎖されたコミュニティ、あるいは限られた人物や限られた思想だけと交流するということは多かれ少なかれこういう危険を孕んでいる、ということに気づかされた。そういう意味で、本作は怖い。単に昔の映像を再現しただけでなく、怖さそのものを描いていると思った。
というわけで、芯に迫る怖さと、100年前の映像を再現しにかかった怪作。もはや作品を観ること自体が「体験」といってもよく、その点は素直に凄いと思った。個人的には後に残る怖さがぶっ刺さってしまった作品だが、鬱屈した男の妄想や暗い欲望など、見たくない(見せたくない)部分をガンガン観せてくるので、そういう意味で他人におすすめしにくい作品。
ちなみに、映画パンフレットにはホラー漫画家の伊藤潤二氏の描いたあらすじ漫画が載っているそうで、これはちょっと見てみたかった。
画像:© 2019 A24 Films LLC
Amazon Prime VIdeo
https://www.amazon.co.jp/gp/video/detail/B09ZJF135Z/
映画アスペクト比の変遷史(動画&全訳)
https://www.gizmodo.jp/2013/07/post_12640.html
『ライトハウス』伊藤潤二の「あらすじ漫画」に海外ファン熱狂 ─ 「完璧な人選」「日本行きの航空券を」
https://theriver.jp/lighthouse-junji-ito-reaction/
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