映画感想「ジャンゴ&ジャンゴ コルブッチとマカロニ西部劇のレガシー」

2021年のドキュメンタリー作品。マカロニ・ウエスタン監督として有名なセルジオ・コルブッチについて、彼の熱烈なファンを自認する映画監督のクエンティン・タランティーノ、また実際にコルブッチの元で助監督を努めたルッジェロ・デオダート、「続・荒野の用心棒」を筆頭に、コルブッチ作品で主役を演じた俳優フランコ・ネロなどがその作品や人物像を語る。ネットフリックスで視聴。

セルジオ・コルブッチは1927年、ムッソリーニのファシスト政権下で生まれた。タランティーノによるとセルジオ少年は幼い頃ムッソリーニの少年合唱団に所属しており、イタリアを訪問したヒトラーを間近に見たらしい(ホントかな?)。ただ、彼の親は形だけの不真面目なファシストだったようである。映画に関わったのは新聞や雑誌媒体の記者、評論家としてが最初であり、そこから制作側へと移行していく。最初から西部劇一本だったのではなく、イタリア語版Wikipediaなどを見るとかなりジャンルもばらばらで、かつその数も多い。1966年の「続・荒野の用心棒」(原題:Django)のヒットで名を知られるようになり、その後も「豹/ジャガー」「殺しが静かにやってくる」「ガンマン大連合」といった作品を撮り続ける。マカロニ・ブーム以後はコメディ作品へ活躍の場を変えていき、1990年に心停止でなくなっている。同じジャンル出身のセルジオ・レオーネとは友人の間柄で、本場西部劇やアメリカへの憧憬を込めた大作志向のレオーネとは逆に、一貫して娯楽作品、B級ジャンル作品を手掛け続けた。

本作品は基本的にインタビュー形式で、まずタランティーノのインタビューから始まり、彼が饒舌にコルブッチについて語り出す。一番最初にぶっこんでくるのは、タランティーノ自身の作品「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」について。主役のリックがコルブッチの作品に出演するエピソードがあるそうなのだが、その詳細をイメージボードを交えて語るのだ。おそらく実際の作品にはないシーンにも関わらず、コルブッチとの出会いから別れまでやたら詳細でそれらしく聞こえ、彼のコルブッチに対する敬愛ぶりが伝わってくる。
タランティーノ本人も「ジャンゴ 繋がれざる者」(これは明らかな「続・荒野~」のフォロワー作品である)や「ヘイトフル・エイト」といったマカロニ要素の強い西部劇作品を手掛けており、造詣の深さと分析についてはなるほどといったところ。

続いて、実際にコルブッチと面識のあるルッジェロ・デオダートやフランコ・ネロは、コルブッチとの思い出や制作の裏話を語る。ルッジェロの「セットのあっちとこっちで別の映画を撮っていて、馬が逃げて隣のセットに飛び込んじゃった」といったエピソードや、「続・荒野~」のエキストラがサマにならなくて誕生したという赤覆面集団の話などは当時の制作風景が浮かんで面白い。
彼らのインタビューの合間合間に映画作品のワンシーンや、撮影する監督本人の映像などが挿し込まれる。ルッジェロが言うには、コルブッチ自身は皮肉屋でユーモア好きで、彼の作品に見られるやり過ぎバイオレンス描写はサービス精神からだったようである。

「コルブッチ監督、死と暴力の多い作品ですね」
というインタビュアーに対し、
「僕はローマ人なのでね。家のクローゼットには(暴君)ネロの骨があるかも」

マカロニ・ウエスタンにつきまとうバイオレンスさやゲテモノ感は、コルブッチの功罪のような気がしなくもないが、彼の作品に見られるドギツイ表現や社会や集団が見せる暴力性は多感な時期に第二次大戦を経験しているからだろう。ただ、主人公も決して英雄や善人ではないところも皮肉が効いているというか、単純に善悪で割り切らない姿勢はむしろ誠実に思える。ドキュメンタリー内でマカロニ・ウエスタンブーム時であろう当時のインタビュー映像があり、中高生ぐらいの子どもが「西部劇の殴り合いが好き」「嗜虐的な血や戦いが好きだ」と興奮しながら語っていて、まあ熱狂具合は伝わってくるけども流石に苦笑いもしてしまった。彼らはどんな大人になったのだろうか。

また、彼の映画人生においてやはりセルジオ・レオーネの存在は結構大きかったのではないかとも思った。同じファーストネームでかつ友人同士でありながら、相手は世界的に有名な監督。「僕は気にしてないよ」といっても強がりに聞こえてしまう(先述したタランティーノが語る「ワンス・アポン・ア~」の裏話も、主役がコルブッチをレオーネと勘違いするエピソードだった)。自分が見たコルブッチ作品でも、レオーネを模倣したなと思ったシーンは「豹/ジャガー」のように明らかに意図的とわかったし、彼がジャンル作品に拘り続けたのは本人の気質もあるが「同じ道はいかない」という意地もあったんじゃないかという気がしてならない。

というわけで、とにかくコルブッチ作品ファン、マカロニ・ウエスタンファン向けの内容で、好きな人には満足できる内容。終わりにモリコーネの「Vamos Matar Companeros」とともにコルブッチの撮影風景が流れるのだが、カメラを向けられた監督がまあいい笑顔をしていて、ユーモアで笑わせる監督とは別の一面が垣間見える。またマカロニ作品が見たくなった。

正面からカメラを向けられ、ちょっと落ち着きなく照れ笑いするコルブッチ。
撮られるのは苦手なようである。

画像:© 2021 Nicomax Cinematografica S.r.l., R&C Produzioni S.r.l, MarguttaStudios S.r.l., Greater Fool Media S.r.l e Cinecitta S.p.A.