映画感想「黄金の棺」

1967年に公開されたマカロニ・ウエスタン。監督はマカロニといえばこの人、セルジオ・コルブッチ。主演ジュリアン・マテオス。Amazon Prime Videoで視聴。最近アマプラでマカロニ・ウエスタン作品(それも自分があまり知らない&観ていない)がたくさん配信されているので個人的には嬉しい限り。

ストーリー

南北戦争終結直後。未だ南軍として戦争を続けるつもりの男ジョナスは、息子ナット、ジェフ、ベンとともに大金を積んだ北軍の馬車を襲撃する。奇襲は成功し、まんまと金を手に入れた彼らはそれを適当に見つけてきた南軍大尉アンブローズ・アレンの棺の中に詰め、偽物として用意した戦争未亡人とともに棺を故郷へ埋葬するという体で北軍たちの捜索をやり過ごそうとしていた。
しかし未亡人役として雇った娼婦のキティはまるで役に立たず、あげく金に目がくらんでそれを持ち逃げしようとしてジェフに殺されてしまう。なんとしてでも金を故郷へ持ち帰り南軍を蘇らせるという計画を遂行したいジョナスは、町へ行き未亡人役の女を連れてこいとベンに命令。ベンは子供たちの中ではただひとり異母兄弟であり、唯一良識ある男だった。町に着いたベンはそこでカードいかさまを行い客から金を巻き上げる女クレアを見つける。結果騙す形で未亡人役として彼女を連れてくるのだが、やがてベンとクレアは心を通わせていき……というのがストーリー。

現金輸送隊だけでなく、人数不足で募った仲間を「家族でないから」という理由で殺すジョナスたち。
目に見えてイカれてるようにも描かれず、ただただ冷酷(ベンは斥候役で襲撃に参加せず)。

感想

流石コルブッチ、といった作品。本作は67年公開(Wikipediaによると日本では未公開)で、ちょうどマカロニ・ウエスタンブームの頃に世に出たことになるのだけど、いわゆるヒーロー的なガンマンが登場しない。それでも飽きさせず面白いのは、「大金を隠した『黄金の棺』をバレずに故郷まで運ぶ」という犯罪ロードムービー的な側面と、家族関係がもつれていくというダブルでヒリヒリしたサスペンス感によるもの。現金輸送隊30人あまりを惨たらしく殺したジョナスたちは当然お尋ね者になり、捜索隊と出くわすたびに「遺体を運ぶんです」と嘘をつく。これには暗に「お前ら(北軍)に殺された人間だ」という意図があり、人道的な北軍の部隊は追求しづらいのだ。その点でジョナスの作戦は実に巧妙なのだけど、回を追うごとに彼らの行く手を阻むのは北軍だけでなくなり、状況も危うくなっていく。このハラハラ感は実に引きがあってよい。
また現金輸送がうまくいくかという外側からの危機に対し、内側からの危機となるのが彼らの家族関係である。一家はジョナスによって支配されており、いい年をした男たちが全員父親である彼に従っている。コルブッチらしくキャラクター造形はとてもよくできており、ジョナスは「家族で団結が必要だ」といいつつも愛情ではなく結局は自分の目的のために息子たちを手駒として使う強権的な父親、ナットは少々人物が掴みづらいが比較的父親に従順、女好きで後先考えないジェフはトラブルメーカーで問題を起こす。先に紹介したベンはもっとも視聴者が感情移入しやすく、実質的な主役といえる。ちなみに息子たちは自分たちから望んでというわけでもなく、父親が抱く野望(南軍再興)に執心してもいない。
ここに前任のキティとは比べ物にならないほど有能なクレアが加わることで、現金を運ぶ旅は俄然面白くなっていくわけである。現金輸送を阻む者たちだけでなく、兄弟同士、あるいは兄弟と父親の対立というピンチが続く。ある時点での出来事でその後の結末は容易に予測できてしまうのだが、そうとわかっていてもなお最後まで飽きさせない工夫に満ちている。個人的に、ずっとベン視点で物語を追っていたのが最後の最後でそれがジョナスへと切り替わる瞬間がたまらなく切ない。マカロニ・ウエスタンらしい無常観を味わうことができる。

ベンとクレア。登場人物の中で唯一まとも、というか好感が持てる二人。
ジョナス一行のミッションと同時に、この二人が自由と平穏を手に入れられるのかも見どころ。

まとめ

というわけで、マカロニの巨匠によるサスペンス・ロードムービー的な作品。アクションは全体的に少なめだが冒頭の輸送隊襲撃などでは激しい銃撃戦を披露してくれるし、カッコいいガンマンが出てこなくても西部劇は面白いんだぜと見せつけてくれる。後は細かいところだが、冒頭で北軍兵士たちが南軍帽をかぶったベンに普通に話しかけることで戦争が終わっていることを示しているのもよかった。こういう気づきポイントを用意してくれるのも心憎い。

画像:© 1966 Studio Canal

Amazon Prime Video
https://www.amazon.co.jp/gp/video/detail/B09P9MG8Q1/