映画感想「夕陽の用心棒」

1965年公開のマカロニ・ウエスタン。監督ドゥッチョ・テッサリ。主演のモンゴメリー・ウッドはジュリアーノ・ジェンマの芸名。先日観た「シルバー・サドル 新・復讐の用心棒」がジェンマ最後のマカロニ作品なら、こちらは彼が初主演をつとめたマカロニ作品。音楽は巨匠エンニオ・モリコーネ。Amazon Prime Videoにて視聴。

ストーリー

テキサスの町で保安官をつとめる男の元に「エンジェルフェイス」ことリンゴ(ジェンマ)が正当防衛により無罪放免されたという連絡が入る。己の信念を貫く男リンゴは敵を作りやすく、ベンソンの弟と揉めた結果彼を射殺していたのだ。早速ベンソン一家がお礼参りに向かうだろうと踏んだ保安官はすぐさま彼らを追うが、すでにベンソンらはリンゴに返り討ちに遭った後だった。リンゴは正当防衛を主張するが、保安官は裁判を受けさせるため事務所の牢屋に彼をぶち込む。
同タイミングで、国境を超えてメキシコからやって来た盗賊団が街の銀行を襲撃、手際よく警備隊を奇襲し銀行から金を持って逃亡する。逃げる際の銃撃戦で負傷した盗賊団の首領サンチョは、荒野にある牧場へたてこもる。そこは元少佐クライドが経営しており、彼の娘ルビーは保安官の婚約者でもあった。牧場の守りは固く町の人間だけでは突破できず、軍隊を突入させても婚約者含め人質の大半は犠牲を免れない。
保安官は悩んだ結果、盗賊団に顔が割れておらず腕が立つ男としてリンゴを潜入させ、人質解放させようとするのだが……というのが序盤の流れ。

感想

ジュリアーノ・ジェンマがこの作品のヒットで有名になったというだけあって、とにかく彼の演じるリンゴというキャラクターが立った作品。エンジェルフェイスの異名を持つだけあって、甘いマスクでニコニコしているが銃の腕前は抜群。「目も手も悪くなるから」という理由で酒は飲まず、ミルクを好む。どんな相手にもへりくだらず、飄々とした態度を取り続ける。特徴的なのは、彼が凄腕のガンマンでありながら悪漢サンチョたちの一団に潜り込む際に銃を持たずに挑むところだろう。まあ当然彼らを油断させるためなのだが、ガンマンが銃なしでどうするのかというと、彼は話術で相手とやり合うわけである。レオーネの「ドル箱三部作」でクリント・イーストウッドが演じた「名無し」と比べると、同じニヒルでも口数が多く優男的な面が目立つ点で差別化もされていると感じた。

保安官事務所の牢屋に入れられたリンゴ。手にしているのはミルク。
飄々としながらどんな状況でも慌てず己を貫く男。

本作は牧場に陣取ったサンチョ一味との駆け引きや攻防がメインで、とにかくリンゴが活躍しまたピンチにもなるので話がわかりやすい。首領のサンチョは西部劇作品にありがちな絵に描いた「悪いメキシコ人」。リンゴの口車に乗せられる間抜けなキャラクターのように描かれるが、最初の銀行強盗での抜かりのなさや、リンゴの話に乗りつつも彼を完全には信用せず罠を張るなど、用心深さや頭の良さを兼ね備えた人物。彼が人質を殺していくそのやり方にいちいち悪意があり、顔の強面感もあって残忍さを強調させる。
また、彼がサンチョの信用を得るのと同様に人質のルビーからの信頼も得なければならない、というのもお話を引き立てる要素になっている。ルビーは本作のヒロインで、山賊たちにも怯まず気丈に振る舞う芯の強い女性。当然、サンチョたちの信用を得ようとするリンゴを敵視する。面白いのはこの点で、リンゴのキャラクターの特性上、彼が本当に保安官側の味方なのかわからないところ。だからルビー視点での用心深さにも意味がある。
他にも、ルビーの父親で牧場主のクライドは落ち着き払った老紳士だがなぜかサンチョ一味の女ドロレスにぞっこんになってしまうなど、最後はどうなるのかといった要素が複数用意されており飽きさせない。もちろん最終的にはリンゴは銃を手に取り敵と見えるわけだが、そこで相手を倒す最後のショットもケレン味があって面白かった。

右からリンゴ、ルビー、クライド、ドロレス。
掴みどころのないリンゴのほか、脇役らの感情や同行にも注目しやすい気がした。

まとめ

というわけで、ヒーローが活躍する小気味よいマカロニ・ウエスタン。ダークさはそこまで強くないものの、終始エンタメに徹しているしそれなりに緊張感もある。とにかくリンゴというキャラクターを楽しく、格好良く見せようという意思が感じられ、しかもそれは成功していると思う。
似たようなキャラクターでジェンマ発案、主演の作品「暁のガンマン」があったが、彼は自分を有名にしたこの作品がイメージにあったのではないか、と今になってふと思った。

画像:© 1965 MEDIATRADE.

Amazon Prime Video
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