映画感想「ガンマン大連合」

1970年公開のマカロニウエスタン。主演フランコ・ネロ、監督セルジオ・コルブッチのマカロニ黄金コンビに、ライバルとして「豹/ジャガー」でも敵役を演じたジャック・パランス、ネロの相棒としてトーマス・ミリアンが出演している。音楽は巨匠エンニオ・モリコーネ。原題は「Vamos a Matar, Companeros」。

冒頭、モリコーネの景気の良いメインテーマが流れ、ベールを手にした女性が駆けつけた先では線路沿いに二人の男が向かい合っていた。一人はトーマス・ミリアン演じるメキシコ青年バスコ、もう一人はネロ演じるスウェーデンからやって来た武器商人ヨドラフ。知った仲である二人は今まさに決闘を始めようとばかりに睨み合い、物語は彼らが出会う少し前まで遡る。
メキシコで暴政を敷くディアス大統領の靴磨きをしていたバスコは、彼から虐げられカッとなったはずみで彼を殺してしまう。そこへ現れたのはモンゴ将軍率いる革命軍。彼は大統領を殺したバスコを気に入り副官に任命し、サン・ベルナルディノという街を陥落させるよう命じる。気を良くするバスコだが、実はこれは他人をおだてて危険な地へ突撃させ、最後の最後で手柄を横取りするモンゴの常套手段だった。
一方、大量の銃器や爆薬を持ってメキシコにやってきたヨドラフは、モンゴ将軍に武器を売りつけようとする。しかし手持ちのない将軍は、「金は金庫にある」と彼にサン・ベルナルディノにある金庫を開けさせようとする。将軍がバスコに街を攻めるよう命じたのはこの金庫を狙ってのことだったが、堅牢な金庫はどうやっても開かない。暗号を知っているのは、非暴力と合法的な政府打倒を訴える知識人のサントス教授のみ。しかし彼はアメリカの砦に囚われており迂闊に手出しができなかった。ヨドラフはバスコとともにサントス教授を連れ戻しに向かうのだが……というのが序盤の流れ。

まず映画が始まって流れるコーラス入りメインテーマが良い。どんどん音階が上がっていく「Vamos a Matar♪ Vamos a Matar♪ Companeros~♪(殺っちまおう、殺っちまおう、同志たち)」の繰り返しと合間のハーモニカ、そしてオルガンの荘厳なメロディ、さらに口笛に獣の鳴き真似に歪んだエレキギターと、モリコーネのマカロニフレーズ全部乗せみたいな楽曲。これは物語の重要なシーンでよくかかるので非常に耳に残り、まさに作品を代表する曲といったところ。

そしてマカロニウエスタン好きの多くが間違いなく気づくのは、監督の2年前の作品「豹/ジャガー」と設定や役者、筋書きが酷似していることだろう。舞台はメキシコ革命時代、情よりも金を取る異邦人ガンマン(ネロ)、その相棒となるのは粗暴で無知なメキシコ人青年(演者は変わっている)、さらにネロをライバル視する慇懃な殺し屋(パランス)と、三者の関係性はほぼ同じ。よほどこの設定が好きなのかなーと思ったが、映画ライターのなかざわひでゆき氏のコラムによると「豹/ジャガー」のときのコルブッチは別の監督の代打として参加したそうなので、もしかするとやり残したことがあったのか「この設定なら俺が最初からやった方が面白く作れる」と思ったのかもしれない。
というわけでコルブッチ度100%の作品である本作では、実在の人物であるディアス大統領を選挙中にバスコが殺してしまっている。「豹/ジャガー」で「マデロってのはどういうやつなんだ?」と鉱山主の兄弟がラジオを聞きながら話していたのとは真逆というか、これは娯楽作品ですよという宣言のようにも受け取れる。

また、人物造形もよりマンガ的というか、娯楽向けされているように感じた。劇中にヨドラフはバスコから「ペンギン」と呼ばれ続ける。これは初めて彼が登場した際、黒のジャケットにクリーム色の帽子、白のスラックスに白のインナーで、かつステッキを手に歩く姿が動物のペンギンから見えたからだ。「豹/ジャガー」でネロが演じたコワルスキーは金に拘る男で、本作のヨドラフもそれをなぞるように金のために奔走するが、相棒となるメキシコ人青年に対してのメンター的要素は抑えられ、出し抜き出し抜かれあう悪友のような関係となっている。

「ペンギン」(ヨドラフ)とバスコの初めての出会い。
ヨドラフは彼をからかったバスコに慇懃な態度で銀貨を手渡すが、これには理由がある。

ジャック・パランスが演じる殺し屋ジョンも暑そうなマントに義手という出で立ちで、さらに隼を手懐け偵察をさせたり他の動物を拷問に使ったりと、「豹/ジャガー」の悪役カーリーと比べても「濃さ」は負けていないどころかパワーアップしている(ヴィジュアルはこちらのほうが好み)。物腰がめちゃくちゃ柔らかく、直接暴力行動に出るシーンは少ないのだが、煙草を吸って咳き込みながら笑うだけでなんか怖さを感じる男を怪演している。義手になったエピソードも強烈で、彼がヨドラフに執着しつけ狙う理由もわかりやすい。

今回のジャック・パランスは義手で煙草が手放せない(幻肢痛の緩和なのか?)。
長めの髪が目にかかるのと終始笑みを絶やさない姿が不気味カッコイイ。

「豹/ジャガー」と異なる部分として、本作のキーパーソンであるサントス教授の存在がある。教授は騒乱のメキシコにおいて、非暴力による革命という理想を掲げる人格者。「豹/ジャガー」においては、革命を主導するのがパコであり、そのパコを指導するのがコワルスキーだったが、本作では(無法な)革命勢力としてモンゴ将軍がおり、バスコを心変わりさせていく人物としてサントス教授がいる。構造的には役割が分散したことでメイン二人、特にヨドラフは活劇部分に専念出来ていると感じた。
作品全体のテイストも後年の作品ということで、ハードな表現とコミカルな部分が適度に入り交ざっている。個人的にはこのシリアスの中にユーモアがある感じが好きで、特に棺を使ったあるシーンはコルブッチらしいセンスで溢れており、小道具の使い方にニヤリとさせられる。そうしたコメディ要素だけが映えるかと思えば、橋を爆破し馬に騎乗したまま人が川に落ちるシーン(もちろんCGなどない時代なので本物)などは迫力があるし、メインテーマが流れる終盤の大人数で繰り広げられる銃撃戦はヨドラフもバスコも倒した敵から武器を奪い、殺しまくり撃ちまくる。お約束の機関銃や、鐘楼など建物が倒壊する様子など、全体的にアクション面はかなり派手で、娯楽作品として見応えがあるものになっている。

というわけで、アクションにテーマソングに物語と、マカロニウエスタンの美味しいところを楽しめる作品。「豹/ジャガー」を観た後なので比較しながらになってしまったが、キャラクターの行動やガンプレイが記憶に残りやすいのは流石コルブッチ。特に本作の結末は「豹/ジャガー」のアナザーエンディングのようで、バスコだけでなくヨドラフの物語にもなっておりかなりグッと来るものがある。

バスコ。最初出てきたときの粗暴&間抜けっぷりからの、
サントス教授に教育され芯のある男になっていく成長ぶりがいい。

画像:© 1970 Tritone Cinematografica SRL.

洋画専門チャンネル ザ・シネマ(なかざわひでゆき氏のコラム記事)
https://www.thecinema.jp/article/708