映画感想「ターミネーター:ニュー・フェイト」

2019年公開のSFアクション映画。監督は「デッドプール」を手掛けたティム・ミラー。
いわずと知れた「ターミネーター」シリーズに連なる作品で、「ターミネーター」および「ターミネーター2」(以下初代と2)を監督した、シリーズの生みの親といってもいいジェームズ・キャメロンが脚本、制作総指揮として復帰している。また、同2作でサラ・コナーを演じたリンダ・ハミルトンが同じサラ・コナー役で出演。もちろんシュワちゃんことアーノルド・シュワルツェネッガーも登場する。自分はシリーズを一応全部観ていて、気になっていたので今回視聴。

本作は「ターミネーター」シリーズ長編映画としては6作目に当たる。「ターミネーター」といえば初代と2、特に2が傑作として名高い。ハーレーに乗りながらショットガンを片手でぶっ放すT-800(シュワちゃん)の姿を思い浮かべる人が多いと思う。
今回の「ニュー・フェイト」は、シリーズ生みの親が関わること、さらに物語としても2の続編、という触れ込みで注目された。つまり、「ターミネーター3」以降の作品をなかったことにしてしまったのである。確かに以降の作品は権利がキャメロンの手を離れ彼が関わらなかったこともあってか、公開時こそ注目されるがどれも作品としてあまり奮わず終わっている(まあ2が出来すぎなので可哀相な話でもあるのだが)。とにかく、初代と2の流れを組む正統な続編が本作「ニュー・フェイト」という扱いに、今のところはなっているようである。

「ニュー・フェイト」の物語は、若い頃のサラ・コナー(リンダ・ハミルトン)が精神病院かどこかで「世界は滅亡するのよ! 日付も知ってるわ!」と喚いている古い映像から話が始まる。これははっきりいって2からの続きですよという宣言のようなものだろう。そして、2での危機を乗り越えたサラの独白が続く。自分たちは世界を救い、未来を変えたのだ――と。「審判の日(機械が反乱を起こす日)」には何も起こらなかったようであるが、完全に未来からの驚異が消え去ったわけでもなかった。このシーンで起こる出来事はなかなか衝撃的。その事件後、時代はようやく現代へと移り変わる。
今回ターミネーターに追われることになるのは、ダニー(ダニエラ)というメキシコに住む女性。ここに彼女を守ろうとするレジスタンスの女戦士グレースと、ダニーを殺そうとするターミネーターREV-9が、それぞれ未来から素っ裸で送り込まれる。最初に出会った人間から服を奪うのはもはや様式美。

今回のターミネーター、REV-9。
金属の骨格の上に液体金属をまとっている。とにかくしつこい。

グレース、そしてREV-9は、それぞれダニーが務める自動車工場へ向かう。ダニー、そして弟のディエゴも一緒に働いていたが、工場が新しい機械を購入した結果、弟の方だけリストラされてしまう。この辺りは物語の大筋と関係のない話だが、新しく導入されたアーム一本だけできびきび動く工業用機械の姿は、機械が人間に取って代わるというのを暗に示しているように見えなくもない。
この辺りから、敵のターミネーターREV-9がダニーを狙って現れ、そこへグレースも駆けつけバトルへ突入するという、シリーズではお馴染みの流れになる。ちなみにすぐ明らかになるが、グレースは体の一部を機械化した強化人間であり、人間でありながら接近戦でターミネーターとかなりいい勝負をする。一旦はREV-9を足止めし、その間にダニーたちは車で逃走するのだが、相手もすぐ戦線復帰して前面に排土板のついた大型ダンプで次々と車を跳ね飛ばしながら追いかけてくる。この辺りのカーチェイスは完全に2の自己模倣として見ることができるのだが、2より圧倒的に周囲の犠牲者や物などの破壊描写が多く、ハチャメチャ。
結局追いつかれ一気にピンチになるダニーとグレースだが、そこへ予告やCMなどでさんざん流れたサラ・コナーが助けに来るわけである。サラの登場によってなんとかREV-9の追跡から逃れるところまでが、物語の序盤といった感じ。ここだけでかなり「ターミネーター」の面白さが凝縮されており、掴みとしては最高。

颯爽と登場するサラ・コナー。
サングラスをかけ、無言で銃をぶっ放す姿は彼女こそターミネーターであるかのよう。

一難去ったグレースたちは、なぜ助けに来た(敵を見つけたのか)のかと彼女に問う。サラはこう答える。「ターミネーターが未来からやってくると、誰かが自分のところにメールでその座標を送ってくる」のだと。グレースがそれを探知すると、送信主はアメリカのテキサスにいることがわかる。こうして、ダニー、グレース、サラの三人組は、REV-9の追跡を避けながらメキシコから国境を越えてアメリカを目指すことになるのである。
ここからの「敵に追われながらのロードムービー風展開」もまた2を思わせ、なんかこんな感じだったなあと記憶を刺激するのだが、序盤をとにかく「ターミネーター(2)」的なものに寄せつつも、徐々にそこからの脱却や、現代的なアップデートが図られている。
まず、こちらの三人組が全員女性だったり、メキシコからアメリカに密入国するというのは、当時のアメリカの状況やムーブメントを反映しているように感じる。それがうかがえるのは、ダニーがターミネーターに追われる理由だろう。1作目でサラ・コナーが狙われたのは、未来でレジスタンスを率いるジョン・コナーを産む女性だから、という理由付けがされていたのだが、劇中でそれが明かされる前にサラが「連中の狙いはあの子の子宮さ」と吐き捨てるように言っていたのはとても良いフリになっている。
もう一つ特徴的なのは、途中から登場するT-800の立ち位置である。どういう役どころなのかは伏せるが、序盤でのサラ・コナーの立ち振る舞いとは真逆の事が起こっており興味深い。象徴的なのは、我々が知るT-800の容姿にはかかせないサングラスを、彼が掛けようとしてやっぱりやめるシーンである。もちろんこの躊躇は物語的な意味があってのことだが、白髪交じり髭シュワちゃんのサングラス姿が拝めないというのはちょっと残念ではあった。また、名台詞「I’ll be back」をもじったような言葉を口にするのだが、この一言からも、この作品が目指していたものを感じさせる。

そうした変化を組み込みつつも、繰り広げられるのは2以上にサービス満点なアクションシーンの数々である。敵ターミネーターの脅威×絶望的な状況という相乗効果で、単純に見ていて面白く、よく思いつくなと感心するほどシチュエーションも豊富。そして、昔のただひたすら追いかけてくるだけとは違い、自分の力だけでなく様々なものを利用するというREV-9のある種巧妙な戦術も面白い。この辺りのアイデアの量は、2からの正当進化を感じる。
というわけで、アクションの密度と展開が凄まじく、機械が人間のふりをして近づいてくるターミネーターの怖さもしっかりある作品。「ターミネーター」シリーズの肝は、多彩なアクションと機械ならではの戦い方(追い詰め方)なんだなあと思った。2時間ほどがあっという間で楽しめた。

画像:© 2019 Skydance Productions, llc