映画感想「PIG/ピッグ」

2020年制作のアメリカ映画。主演はニコラス・ケイジで、彼は製作にも名を連ねている。監督はマイケル・サルノスキ。Amazon Prime Videoにて視聴。

ストーリー

オレゴンの森の奥で隠遁生活を送る男ロブは、トリュフブタとともに慎ましやかな生活を送っていた。彼が採る希少なトリュフは若い買付人アミールによって市場へ流れていたが、あるときロブは家を襲撃され、唯一の家族であるトリュフブタを奪われてしまう。ロブはアミールを呼び、盗まれたトリュフブタを取り返すために彼とともにポートランド(オレゴン州最大の都市)へ赴く。アミールはロブのことを「ブタと暮らす変人」くらいにしか思っていなかったが、だんだんその認識が誤りだったことに気づく……というのが序盤。

ニコラス・ケイジ演じるロブ。
珍しくふさふさのヒゲモジャなのに、醸し出す凄味で違和感がない。

感想

近頃はB級映画請負人みたいなイメージがついてしまったニコラス・ケイジが主役をやっているのだが、流石オスカー俳優、やはり彼が主役だと画面が締まる。今作で彼が演じるのは「只者じゃない感」をビンビンに醸している、無愛想で人とほぼ会話をすることがない寡黙な大男だ。若いアミールはロブのことを内心でバカにしながらも接しており、ブタが奪われたことを聞いて「ブタなんて新しいのを飼えば」と応えるが、ロブは聞く耳を持たない。この「周りから舐められている人物が実は……」というのが本作の面白いところで、その手のアクション映画が好きな人にはたまらないものになっている。画面は暗めでダークな雰囲気だし、ニコケイ演じるロブの雰囲気は元軍の特殊部隊出身といわれても納得だし、なんなら殴られる場面もある。
しかし、本作はアクションではなく「料理映画」なのだ。それも決して外しや茶化しでそうしているわけではなく大真面目。ここがいい意味で困惑するところであり、本作最大の特徴といえるだろう。料理映画、と一口にいっても色々なタイプがあるが、とりあえずここで書けるのは「料理が美味そう」という点。それだけ? と思うかもしれないが、料理を扱った作品では極めて重要な要素である。冒頭でロブがブタと一緒に採ったトリュフを使ってタルトと炒め物を作るのだが、まずこれが音も見た目も本当に美味そうなのだ。本作ではパートごとにタイトルが出るのだが、「パート1:田舎風マッシュルーム・タルト」のようにすべて料理のメニュー名になっているのも面白い。物語的にもそれらの料理がキーになっており、やはり料理映画といって差し支えないと思う。

仕事(トリュフ狩り)を終え、収穫品で作ったタルト(ブタにはキノコ炒め)。
画像では伝わらないが、音楽や調理の音もあいまって本当に美味そうなのだ。

この「ブタ捜し」という一見地味な物語を引っ張るために利用されているのが、ロブの正体と彼の過去に迫っていく展開である。ブタを奪われた際に負った傷を治療もせず、血まみれのままでポートランドを奔走するロブと、ロブの名前を聞いて皆が顔色を変えるくだりは観ていて痛快さすら覚える。それでいてそこ一点突破ではない、しっかりとした深みとメッセージ性は、ロブの生き様や暮らしぶりが説得力を与えてくれる。個人的に好きなシーンは中盤の「フィンウェイの店」のくだり。ワインを一気飲みするフィンウェイがたまらない。クライマックスは見応えあるし、エンドクレジットの仕掛けも見事。

まとめ

というわけで、料理を題材に「舐めてたあいつが凄腕の~」の痛快さと、人生についてまっすぐに語った映画。全体的に画面が暗いのだけが少々残念だけど、地味とか色物とかで切り捨てるにはもったいない、まさに色々な素材が調和した逸品。私は字幕版で観たが、吹替版の大塚明夫ボイスも素晴らしかったので是非。

画像:© 2020 AI Film Entertainment, LLC

Amazon Prime Video(字幕版)
https://www.amazon.co.jp/gp/video/detail/B0B6SDPP1L

Amazon Prime Video(吹替版)
https://www.amazon.co.jp/dp/B0B8TLL1XP/