映画感想「クリード過去の逆襲」

2023年9月24日

2023年公開のボクシング映画。同ジャンル映画の傑作「ロッキー」シリーズから派生した「クリードチャンプを継ぐ男」「クリード炎の宿敵」に続く、「クリード」シリーズ3作目。主人公アドニス・クリード役のマイケル・B・ジョーダンは今作では監督も努めている。ライバルとなる"ダイヤモンド"・デイム・アンダーソンを演じるのはジョナサン・メジャーズ。ちなみに前作まで登場していたロッキー・バルボアことシルベスタ・スタローンは出演せず、制作に回っている。Amazon Prime Videoにて視聴。

ストーリー

子供時代の話。アドニス・クリードは夜、母親の目を盗んで家を抜け出し、迎えにきた親友であり兄貴分のデイム（ディミアン）と夜遊びにでかける。二人が向かったのはアマチュア・ボクシング・リング。デイムはそこの選手でNo.1だった。試合を勝利で迎え上機嫌な二人。帰宅途中、店に立ち寄ったアドニスは過去に施設で酷い目に遭わされた男を見つけ、積年の恨みとばかりに殴りかかる。
月日は流れ18年後、ボクサーを引退したアドニスは元チャンプとしてジムを経営しながら、妻と娘とともに幸せな生活を送っていた。そんな彼のもとをデイムが訪れる。先週まで刑務所にいたという彼に対し、アドニスはある理由から負い目を感じ「できることはなんでもする」と応える。そこでデイムが切り出してきたのは「ボクシングでチャンピオンを目指す」という、かつて彼が語った夢だった。年齢的にも彼の挑戦は厳しいと思いながら、アドニスは自身のジムに来るといいと声をかけるが……というのが序盤。

かつての親友との再会……なのだが、ぎこちなく言葉をかわすアドニス（左）。
最初から「なんかある」感全開で話は進んでいく。

感想

今作は劇中でロッキーの名前こそ言及されるものの、彼の姿はおろか「炎の宿敵」のその後すら語られない。前作「炎の宿敵」がロッキー・サーガとして素晴らしい着地を見せていたので、正直なところ観る前の期待値はそんなに高くなかった。前2作は「クリード」といいつつも「ロッキー7」「ロッキー8」の側面がどうしても拭えなかったし、観る側もそれを期待している面があった。ところが今作を実際観てみると、ロッキーの世界観でありながらしっかり「アドニス・クリードの物語」として成立していたのだ。
なるほどと思ったのは前作との対比。ロッキーがいる、いないの話でなく、敵となる存在の立ち位置である。「炎の宿敵」で立ちはだかるヴィクター・ドラゴは、アドニスの父であるアポロ・クリードをリングの上で葬ったイワン・ドラゴの息子だ。因縁の相手といえばそうなのだが、これはアドニス本人とは関係ない話ともいえる。しかし今作に登場するデイムとの間には、かつてアドニスが犯してしまった過ちが関わってくるのだ。ヴィクターがアドニスに責任のないある種の「災い」のような存在であるのに対して、デイムは確実にアドニス自身の行動が招いた「報い」である。とにかくこの設定が、今作「過去の逆襲」のドラマ部分をより面白くしていると思った。
デイム役のジョナサン・メジャーズの演技もよかった。20年弱を刑務所で過ごし、かつての夢をまだ捨てきれていない「時間の止まった哀れな男」という側面と、正面きってアドニスを批難こそしないが「お前は俺に借りがあるよな？」と言外に語って力関係を作る「弱者ムーブ」が本当に巧く、複雑な人物になっている。過去の罪滅ぼしのためにアドニスは「アポロがロッキーにかつてしたように」と、周りを説き伏せてデイムにボクサーとして成り上がるチャンスを与えるのだが、これがさらに話を面白くしていく。

親友であり兄貴分だった"ダイヤモンド"・デイム。
アドニスを手玉に取る感じが、強敵感あってよい。

本作がそれまでと明らかに違うのは、先述したが「過去の過ち」がテーマであることだろう。「ロッキー」や「クリード」の1作目などは「掴み取る」話――つまりサクセスストーリーなのだが、そうした華々しい成功と同じように、過ちも誰の身にも起こりうるもの。そういう意味ではやはり普遍的な物語になっている。そのへんはしっかりブレなく、特に最後の戦いは漫画的演出もプラスになって試合というよりリングに立つ二人が救われるための儀式にすら見えた。ベタながら結末にもちゃんと納得感があってよかった。