映画感想「戦場のメリークリスマス」

1983年公開の日本映画。大島渚監督作品。日本、英国、オーストラリア、ニュージーランド合作。第二次大戦時の日本軍俘虜収容所が舞台で、実際に俘虜を経験した南アフリカの作家ローレンス・ヴァン・デル・ポストの小説が元になっている。つい先日亡くなられた坂本龍一がメインキャストとして出演していることでも知られる。訃報を知り、「そういえばちゃんと観たことなかったな」と思いAmazon Prime Videoにて視聴。ジョン・ロレンス中佐をトム・コンティ、ヨノイ大尉を教授、ハラ軍曹をビートたけし、セリアズ少佐をデヴィッド・ボウイが演じる。英題は「Merry Christmas, Mr. Lawrence」。ちなみに「俘虜(ふりょ)」というのは第二次大戦まで公式に使われた言葉らしく、現代でいう捕虜のこと。

ストーリー

1942年ジャワ島。レバクセンバタの日本軍俘虜収容所で、早朝にハラ軍曹がロレンスを大声で叩き起こす。「ついて来い!」と怒鳴られついていった先には、俘虜を犯した朝鮮人軍属カネモトとその被害に遭った俘虜デ・ヨンがいた。ハラはカネモトを痛めつけ、彼が切腹するところを見せようとロレンスを呼んだのだ。しかしその切腹は騒動を聞きつけたハラの上官であるヨノイ大尉によって止められる。
その一件の後、ヨノイは陸軍少佐のジャック・セリアズの裁判に立ち会う。自身の生死が決まる裁判でなお反抗的なその姿にヨノイは魅せられ、拷問によりぼろぼろになったセリアズを自身の俘虜収容所で引き取ることにする……というのが物語の序盤。

若き日の教授が演じるヨノイ大尉。
シュッとした頬がいかにも青年将校といった感じで似合っていると思う。

感想

名作とは知っていたが思った以上に凄い作品だった。本作は戦争映画に区別されるが実際の戦闘を描いた場面はなく、捕虜収容所を舞台とした事件や交流がほとんど。女性も登場せず男だけの世界で繰り広げられる群像劇という尖り具合なのだが、実際観始めるとこれが釘付けになった。まずとにかく演技、それも教授やたけしやデヴィッド・ボウイなど、職業俳優でない面々の異質さが目を引くのだ。とくにビートたけしが演じるハラ軍曹がよかった。ヨノイに叱責されるシーンなどではハラという人物の気質がよく顕れているし、ただ暴力的かと思えば人懐こくロレンスに話しかけ、さらに中盤で重要な役割を果たすというキャラクター的にも良い役回り。

カネモトに切腹を強要したところをヨノイに見つかり、言い訳をするハラ。
親に目を合わせない仕草が子供みたいでなんかすげえなあと思った。

坂本龍一扮するヨノイ大尉も、繊細で神経質な役柄としてハマり役であるように感じた。丸刈り頭の細面でとくに二重瞼に妙な色気というか妖しさがある。セリアズ役のデヴィッド・ボウイはとにかく精悍な顔立ちが美しく画になる。三人とも漠然とした「俳優」らしさというものよりも素が混ざったような生々しさがあり、それが戦時下の捕虜収容所という過酷な状況下というシチュエーションとうまくマッチしているように感じた。
そんな彼らに対しロレンス役のトム・コンティは、本職の俳優としての落ち着いた演技を見せてくれる。ただ彼のカタコト日本語は相当聞き取りにくく、最初はかなり脱力してしまった(だけど徐々にクセになってくる)。そんな彼ら全員が殴る、殴られるといった体当たり演技をしており、そこだけでも見応えという意味では十分にあると感じた。

「こんな恥辱を受けてなぜ自決しない?」「俘虜になるのは時の運だ。恥ではないよ」
ハラの問いに答えるロレンス。良いシーンなのにひどいカタコト日本語でかなり台無しなのはご愛嬌。

そしてなんといっても音楽だろう。誰もが知っている名曲「Merry Christmas, Mr. Lawrence」が映画を二段階くらい引き上げていると思う。私は原曲のイントロに雪っぽさを感じるのだが、静かな曲調ながらジャワ島のジャングルでかかっても違和感どころかそこに雪を降らせるようなパワーがあり、ストーリーのじわじわとした空気とも合っている。このテーマソングは冒頭でハラとロレンスが移動する場面ですぐに聴かせてくれるのだが、この時点で本作がただものでないという雰囲気がビンビンに伝わってくる。私は40年後に観ているからこそこんな感想なわけだが、公開時これを観た人はその衝撃をどう受け止めたかが気になった。
ヨノイ、ハラ、セリアズという三者に比べるとロレンスは寛容な人物として描かれる。彼は日本人と日本文化を理解したいという思いからハラやヨノイらにしっかりと正面から向き合い、彼らの文化を同胞や捕虜たちに説明し、逆に自分たちの価値観をハラたちに伝える。ロレンスは双方の仲をとりもつ橋渡し役であり、ときに板挟みになる。ある種イロモノ感のあるたけしや教授らに比べると役どころとしても個性という面で一歩引いた位置づけながら、異なる価値観を持つ者同士の交流というテーマだからこそロレンスの存在は大きいと感じた。特に粗暴なハラとの関係は人種や立場を超えた絆のようなものを感じさせる。ヨノイとセリアズの関係は、セリアズの掴みどころのない立ちふるまいや言動に心を惑わされかき乱されるヨノイがど直球にBL的で驚いた。そんなセリアズが一番ヒロイックな役回りであり、やることが実に意外(有名だが)なことで……というのも面白かった。

セリアズ。いつ見てもバチクソにかっこいいデヴィッド・ボウイのご尊顔。
実は決死の覚悟をしたときの表情なのだ……。

正直、映画を観ている途中では終盤に近づくまでどこに向かうかがまったくわからないのだが、最初のシーンと最後のシーンの重ね合わせの上手さは本作のまさに白眉。登場人物二人の立場やふるまいの逆転、交流の中で得たものが噛み合い、最後のハラの笑顔にいたるまで何度もイントロをリフレインしながらフェードインするテーマソング、映画が朝に始まって夜に終わるという部分など、監督の演出、演者の演技、音楽すべてが噛み合い、本当に構成が美しいと感じた。

観たことなくても知っている、あまりにも有名なラストシーン。
呼び止めるときに大声で怒鳴るのがまたいいんだ……。

まとめ

というわけで、豪華キャストらの体当たり演技と極上の音楽を堪能できる異色の戦争映画。淡々としたストーリーながらもしっかり最後まで心を掴まれ、ラストシーンの本当の味を名曲とともに楽しむことができる。そして改めて坂本龍一氏のご冥福をお祈りします。

画像:© 1983 大島渚プロダクション

Amazon Prime Video
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