映画感想「スターシップ・トゥルーパーズ」

1997年公開のミリタリー・SFアクション映画。ポール・バーホーベン監督作品。主演はキャスパー・ヴァン・ディーン。原作はロバート・A・ハインライン「宇宙の戦士」。作品に登場する強化防護服(パワードスーツ)のアイデアや、特に日本で出版されたときの表紙デザイン画が後の日本のSFロボット作品に多大な影響を与えたという話が有名なのだが、今作は原作にあったパワードスーツは登場しない。ちなみに原作は未読。先日「トゥモロー・ウォー」という映画を観て、なんか無性にまた観たくなったので視聴。

ポール・バーホーベンといえば、「ロボコップ」や「氷の微笑」「トータル・リコール」などを手掛けた巨匠。特に目を覆いたくなる描写やドギツい表現は2016年制作「エル ELLE」まで健在。本作はそんな作風の監督が作った、巨大な昆虫型生物と人類が戦うSF戦争映画であり、内容についても容赦がない。

映画が始まると、いきなりコマーシャル映像のようなものが流れ始める。内容は軍に入隊しようというプロバガンダもの。この世界では民主主義が崩壊して以降、軍事政権によって運営されているのだった。そして、宣伝は現在地球連邦軍が戦いを繰り広げる現場リポーターからの生中継へと変わり、人類の敵である巨大昆虫型生物「バグ」が兵士を食い殺す壮絶な場面を映す。このあとリポーターも襲われるのだが、カメラクルーはその場面を必死に映し続ける。もはやギャグであり同時にちょっと引いてしまうのだが、これは「ロボコップ」でも使われたバーホーベン的手法。滑稽なシーンを広告や宣伝の形で見せるのは、「この枠内で繰り広げられるのはフィクションで狂った世界だから、一歩引いた目で見てね」というメッセージなのだ。

その後シーンの変化とともに時間が1年遡り、主人公のジョニー・リコが登場する。彼はハイスクールの授業で担任のラズチャック先生から市民と一般民の違いについて講義を受けていた。人類は市民と一般民に区分けされ、一般民に選挙権はなく市民になるには兵役につき軍に奉仕しなくてはならない。主人公のリコは進路に悩んでいた。彼の彼女カルメンは卒業後は軍に入隊、しかも成績優秀者のみがなれる航空機のパイロットに進路が決まっている。超能力を持つ友人のカールに至っては、軍の中でも選ばれた人材しか入れない情報部に。一方リコはスポーツ優秀ではあるのだが学業は芳しくない上に、両親ともに一般民で軍に入ることを反対されていた。結局彼はカルメンを追って軍に入隊することを選び、父親から勘当を言い渡される。しかし彼が入れる場所は、バグと最前線で戦う最も危険な歩兵隊しかなかった。

「俺たち、離れ離れになってもずっと友人だ」と、手を取り合うリコ、カルメン、カール。
卒業式直後の超お約束なシーン。この後3人は後に再会するのだが、そこがまたしびれる。

表面上リコの動機は「女の尻を追いかけて」ということになっているが、軍に入り国家に奉仕するという空気が出来上がっている点や、リベラルでありながら父権的な親への反抗など、複数の要素が多分に含まれていることがうかがえる。
バグとの戦争前の描写はこの後も続き、訓練所で鬼軍曹にしごかれたり、リコのスポーツ仲間だった女性が彼を追って歩兵隊に配属志願したり、エースというお調子者と友情が芽生えたり、学生時代にスポーツで戦った相手がカルメンと同じパイロット科で恋敵になったり、遠距離恋愛で気持ちに変化があったり、とんでもミスで除隊しそうになったりと内容盛り沢山。ここのくだりはリコの成長ドラマ、青春ドラマとして本当によく出来ていて最高なのだが、原作をなぞっているにしろそうでないにしろ、この後ぐっちょんぐっちょんの血みどろ展開になると思うとこのクオリティの高さがむしろフリのようで笑えてしまう。
ちなみにこの世界ではほとんど完全な男女平等が実現しており、軍要職も性別関係なし、スポーツも男女混合なら兵舎のシャワールームも男女同じ空間で裸になる。ここの撮影エピソードが「若手俳優たちが裸になることを恥ずかしがるので、『恥ずかしくないよ!』と監督自ら全裸になった(なろうとして止められた、という話も)」と面白く、バーホーベンはやっぱりぶっとんでいるなと思う。

もちろん、肝心の昆虫型巨大生物「バグ」との戦闘も最高である。SFXの巨匠フィル・ティペットが実力を遺憾なく発揮した、バグたちのアクションや大群で押し寄せる描写、銃撃で節足がちぎれ飛び体液が飛散する表現などは、1997年というのを抜きにしても迫力がある。さらに素晴らしいと思うのは、映画を通して次々といろいろな種類のバグが登場する「クリーチャーの見世物ショー」になっている点。これは個人的にモンスターやクリーチャー映画でとくに重要視している部分である。こういう作品の何が楽しいのかって、「どんな化け物が出てくるのか」という興味や想像に対して、動きだったり捕食方法だったり生態だったり予想できない驚きを提供してくれるからなわけで、本作のそれは見た目と動き、そして体液を撒き散らすやられ様で十分に満たしてくれる。

突如襲来した巨大な新種バグを倒し、自慢げな顔で振り返るリコ。
ひどい体液描写は観ていると途中から麻痺してきて、ビールかけみたいな感覚になる。

というわけで、「巨大な昆虫型生物と人類が白兵戦で戦う」というどこをかじっても悪趣味なB級映画の味しかしないのだが、主人公リコの学校&新兵ドラマとして面白く、もちろんクリーチャー映画としても一級品の名作。実際はこんな世界もこんな戦争も御免こうむりたいし、監督もそう思って作ったのだろうが、それでも死地をくぐり抜け仲間と絆を深めていく姿には抗いがたい高揚感と魅力がある。ベイジル・ポールドゥリスの、男臭く勇猛な音楽も素晴らしい。
ちなみに、サンドロット開発、ディースリー・パブリッシャー販売のゲーム「地球防衛軍」シリーズは、本作のコンセプト、凄惨ながらどこか能天気なノリをほぼそのままゲームにしたものである。
クリーチャーが好きorゲーム「地球防衛軍」が好きで、人体破壊表現やグロ描写、巨大昆虫(型生物)がうごめく画などが大丈夫であれば、たぶん大満足な作品。ちなみにソフト版吹き替えではプロバガンダのナレーションを武田広氏(「タモリ倶楽部」などで聞いた方は多いはず)が担当しており、うさん臭さが10倍増しぐらいになる(褒め言葉)のでおすすめ。

画像:© 1997 Touchstone Pictures and Tristar Pictures