映画感想「荒野の処刑」

1975年公開のマカロニ・ウエスタン。監督はこの数年後に「サンゲリア」で有名になるルチオ・フルチ。スプラッター映画の巨匠として名高い監督だが、「真昼の用心棒」を始めマカロニ・ウエスタンもいくつか撮っている。主演はファビオ・テスティ。またマカロニ・スターでもあるトーマス・ミリアンも出演しており、主役よりもパッケージで堂々目立っている。Amazon Prime Videoのラインナップになぜかあったので視聴。原題は「I quattro dell’apocalisse」(黙示録の四騎士)。

ストーリー

スタビー・プレストンはソルトフラットの町についた途端、保安官に目をつけられる。彼はトランプを使ったイカサマ詐欺師として有名だったのだ。スタビーは買収を試みるが失敗。彼が入れられた留置場には、娼婦のエマヌエラ(愛称はバニー)、「死者と友達だ」と語る墓掘り人のバット、酔っぱらいのアル中男クレムがいた。夜、ソルトフラットの町に白い覆面をかぶった集団が現れ、酒場で楽しんでいたならず者たちをほとんど一方的に殺戮する。町中に銃声や絶叫が響く中、素知らぬ顔で耳栓をはめる保安官。これは街の人間による「町の洗濯」で、悪漢や無法者に対する彼らの防衛方法だったのだ。
殺す程でもないと判断されたスタビーたちは、翌朝に馬車をあてがわれて町を追い出される。ぎこちない関係のまま4人は南にあるサンド・シティーを目指すのだが、道中で凄腕の狩人チャコと出会う。「俺も旅の仲間に加えてくれ」と銃をちらつかせ強引に迫ってくる彼を、武器を持たない4人は断れずに仲間に加えるのだが……というのが序盤。

左からスタビー、バニー、クレム、バット。
ソルトフラットから追い出された4人は、なんでもあるというサンド・シティーを目指す。

感想

序盤と終盤で印象ががらりと変わった作品。主人公のスタビーはいかさま師であってガンマンではなく、喧嘩がめっぽう強いわけでもない。この時点でクリント・イーストウッドやリー・ヴァン・クリーフが演じる凄腕ガンマンのような、ニヒルなヒーローのアクション活劇といったマカロニの王道的な話にはなりにくい。また、映画が始まった時点でスタビーにはこれといった目的もなく、そんな中でヒロイン的立ち位置のバニー、気のいい変人バット、どうしようもないアル中のクレムといった個性的な面々と旅をすることになるわけだが、トーマス・ミリアンが演じるガンマンのチャコが登場するあたりから物語が動き出す、といった印象。

トーマス・ミリアン演じる狩人のチャコ。
西部劇にしては格好がヒッピーっぽいと言うか自由過ぎるが、4人と比べると貫禄は十分。

「荒野の処刑」(あるいは「黙示録の四騎士」)というタイトルにしては、留置所に放り込まれるあたりまでは爽やかな音楽の効果もあって全然殺伐感がない。その後の銃撃戦での流血描写で「ああ、やっぱりルチオ・フルチだわ」と思ったが、それは主人公たちの預かり知らぬところで起こり、その町だけで完結してしまう。4人を無理やり一つのパーティーにしてしまった後はロードムービーのようなテイストで話が進んでいき、その合間にも例の爽やかBGMが入るという不思議な感覚。その後も主人公はそこまで活躍しないし、前の話から繋がりもなく別の話が始まるし、微妙だなあ……と最初は思ったのだが、中盤あたりでこれを「連作ホラー」、あるいは「ルチオ・フルチのオープンワールド西部劇RPG」のようなものとしてみると、印象が一気に変わった。
そもそも冒頭のソルトフラットの町からして「住民総出でよそ者を虐殺」という、「閉鎖的田舎ホラー」と捉えるといかにもな話だし、そうした事態に対して主人公はなすすべなく傍観者として生き残る、という立ち位置は西部劇ではなく一話完結ものホラーの主人公の方がしっくりくる。その後起こる人々との関わりや事件も、繋がりがないように見えて当人たちの関係ないところで出来事がつながっていくのは、映画の作劇というよりはロールプレイングゲームのイベントのようにすら見える。そうすると、目下の出来事から全然別の方向へ話が進んでいくのも許容できるというか、一つ一つのエピソードはどれも粒ぞろいで面白いのだ。とくに残虐描写や悪趣味さは流石フルチ先生といった感じ。あちこちで小さなイベントが起こる中で主人公のスタビーの成長、仲間たちとの交流と別れのようなことが起こっていく。そして映画が終わってみると、これはスタビーという銃を持たないいかさま詐欺師が、旅を通して一人のガンマンになる成長物語になっていると気づくわけである。

まとめ

というわけで、一本筋の通ったというよりは繋がりの緩い複数エピソード連作としてみると面白いマカロニ・ウエスタン。マカロニ玄人向けな面白さというか、王道からはだいぶ外れているが見所が詰まっている。ブームも終わりを迎えた1970年代中頃、この暴力表現の強烈さは初期マカロニ作品のようで時代に抗う逞しさを感じた。特にバットのあるエピソードは、これただのホラーだろという悍ましさとわざとらし過ぎるフリでニヤニヤできる。

© 1973 RIZZOLI

Amazon Prime Video
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