映画感想「ゴールデン・リバー」

2018年のアメリカ・フランス・ルーマニア・スペイン、ベルギー合作の西部劇。パトリック・デウィットの小説「シスターズ・ブラザーズ」の映画化。主演はジョン・C・ライリーとホアキン・フェニックス。共演にジェイク・ギレンホール、リズ・アーメット。監督はジャック・オーディアール。Amazon Prime Videoにて視聴。

あらすじ

1851年、ゴールドラッシュ最中のオレゴン準州。イーライ(ジョン・C・ライリー)とチャーリー(フェニックス)の「シスターズ兄弟」はその地域で名の知られた殺し屋の兄弟だった。二人は雇い主である「提督」から次の依頼を引き受ける。標的は炭鉱夫ウォーム(リズ・アーメット)という男で、すでに連絡係のモリス(ギレンホール)が先んじて彼を尾行し、兄弟に伝言を残すよう手配していた。
あるとき監視を続けるモリスに、「君、前に会ったよね」となんとウォームの方から話しかけてくる。受け答えをするうちに親しくなった二人。命を狙われていると吐露するウォームは「自分は拷問されるだろう。なぜなら自分は化学者で、川で採れる金を見分ける方法を発見したからだ」と明かし、さらに「暴力によらない社会共同体を作りたい」と理想を語る。それまでの人生に疑問を抱いていたモリスは、提督そして兄弟を裏切ることを決意し、ウォームと行動をともにすることに。連絡を絶ったモリスの裏切りを察知した兄弟はそれでも二人を追うのだが、二人の間でも将来のことですれ違いが起こり始め……というのが大まかな流れ。

標的であるウォームに話しかけられ、偶然を装いながらも食事に誘うモリス。
観察眼に優れる彼に自身すら気づかなかった本音を見抜かれ、徐々に心変わりしていく。

感想

良い映画でした。本作品はゴールドラッシュ時代のアメリカを舞台にした西部劇なのだけど、アクション主体ではなくロードムービーに近い内容。追う側と追われる側、4人の男たちの内面に焦点をあてており、個人的に主役となるシスターズ兄弟、というか特にイーライの人物描写に心を掴まれた。冒頭で情け容赦なく敵を撃ち殺すところを見せたと思えば、女性からもらった香水つきスカーフを肌見放さず持ち歩き、チャーリーの言葉の使い方を細かく指摘したり、チャーリーとの待遇の差に不満を漏らしたりと大柄で強面な容姿に似合わず繊細で神経質、そして実は優しいというギャップが良い。一方、チャーリーの方はいかにも西部男らしい粗暴な男で、悪の世界で成り上がることを夢見ている。イーライに指示を出し殺し屋兄弟の舵を取るのはチャーリーであり、提督に信用されており依頼を受けるのも彼だけ。
最初作品を観ている限りでは「逞しく頼れる兄チャーリーと、意外と繊細で面倒くさい弟イーライ」だと思っていたのだが、実はイーライの方が兄である(自分はすっかり勘違いしていた)。これは中盤ではっきり言及されるのだけど、そこまでわからないようにあえてそう見せていたのではないかという節がある。そんな対照的な性格の兄弟だが深い絆で結ばれており、細かいシーンひとつひとつからもそれが伝わってくるので、知らず知らず殺し屋兄弟に感情移入してしまう。ウォームのモリスの関係性はシスターズ兄弟のそれよりもう少しホモソーシャル的で、理想に燃える男とそれに心酔する二人の優男の逃避行。どちらも全体的にブロマンスな感じが漂っている。

追うシスターズ兄弟、そして逃げるウォームとモリスは、当然だがある時点で合流する。そこからはまあある程度予想はできるもので、物語としてそこまで劇的というわけではないのだけど、4人が揃って事に当たる様子は観ていて非常に心地が良い。なんというか全員それまでの立場やしがらみから束の間解放されのびのびしており、青春映画のような趣きがあるようにも感じた。ここでのシーンの結末は非常に唐突で、普通の映画なら「えっ」と思うようなもの。だがそれは納得できるものとして描かれているし、全てを忘れたキラキラした瞬間の儚さのようなものすら感じられ、アクションで魅せる西部劇とは違った感慨を抱かせてくれる。兄弟のシーンでのさりげない銃描写も良い。

銃を構えるチャーリー(横にいるのはイーライ)。1851年なので銃はおそらくコルト・ドラグーン。
1発の装填が面倒なパーカッション式だが、戦いの場ではシリンダーごと交換していた。なるほど合理的。

まとめ

というわけで、アクションに頼らない細かな描写と掛け合いで魅せる西部劇。おおよそ2時間の物語で非常にゆっくり淡々と進んでいくのだが、不思議と長さを感じずに観ていられる。個人的にはとにかくイーライのキャラクターが好き。途中メイフィールドの町のサルーン(酒場兼宿屋)の女性に頼み事をするのだけどその内容がとってもアレという、豪快に酒を煽ってお姉ちゃんを侍らせる弟との落差がたまらなく最高。
ちなみにwikipediaによると映画のロケ地はマカロニ・ウエスタンの撮影でおなじみスペインのタベルナスなど。まだ西部劇が撮れるほどには自然が残っているんだということがわかって嬉しかった。

画像:© 2018 Why not Productions

公式サイト
https://gaga.ne.jp/goldenriver/

Amazon Prime Video
https://www.amazon.co.jp/gp/video/detail/B07ZZCN722/