映画感想「野獣暁に死す」

1968年公開のマカロニ・ウエスタン。イタリア制作、監督はトニーノ・チェルヴィ、主演モンゴメリー・フォード。目玉として、悪役であるフェゴーを「用心棒」の卯之助や「二百三高地(80年版)」で乃木希典を演じた日本の俳優、仲代達矢が演じている。最近マカロニ・ウエスタンを観ていなかったところ、Amazon Prime Videoにあったので視聴。

ストーリー

刑務所の独房で、ビル・カイオワは木彫りの模造銃で早撃ちの練習を4年間もひたすら繰り返していた。彼はジェームズ・フェゴーという男に騙されたあげく無実の罪で服役していたのだ。刑期を終えて開放された彼は、信頼できる仲間がいる小屋を尋ねる。彼から大金を受け取ったカイオワは、凄腕で知られる4人のガンマン「巨漢のオバニオン」、「散弾銃使いジェフ・ミルトン」、「色男バニー・フォックス」、「いかさま師フランシス・"コルト"・モラン」を金で雇う。仲間を手に入れたカイオワは、フェゴーを追って彼が強盗団を組織師暴れ回っているネバダを目指す……というのが序盤。

感想

邦題の「野獣暁に死す」はどう考えても仲代の代表作の一つ「野獣死すべし」からとってつけたことがうかがえるだろう。前半の仲間集めパートはかなり淡々と物語が進行していく。復讐に囚われた主人公は口数少なく「殺しが静かにやってくる」のサイレンスを彷彿とさせるくらいまるで機械のように人間味がない。序盤は掛け合いをしてくれる人もおらず、シルエットはかっこいいのに正直主役としてとっつきにくさを感じた。

黒いコートに緑のマフラー。マカロニ・ヒーロー然としつつもお洒落な出で立ちのカイオワ。
無口過ぎるのがもったいない。

ならば彼が集めた仲間たちが話を盛り上げるのかと思いきや、最初に仲間になる清潔好きな巨漢のオバニオン以外、ちょっとしたエピソードで特徴づけられてはいるもののそれほど個性が際立っているようにも感じなかった。四人目に仲間になるモランだけはちょっとした事件を起こすが、基本的にはモブ感が強いので、「アベンジャーズ」系の仲間たちとのワチャワチャを期待するとかなり肩透かしを食らう。
なら作品として微妙なのかというと、その分といってはあれだが仲代達矢が目立つようになっている。風貌や仕草などマカロニ・ヴィランとして取り立てて特徴があるわけではないのだが、くっきり二重瞼の整った顔立ちは欧米人たちの中にいても馴染んでいるし、何なら表情の演技は誰よりも巧い(日本人だから贔屓しているかもしれないが)。悪役っぽく振る舞っているが、どこか野卑になりきれない品の良さがあるのも興味深い。ただ、初登場時のマチェーテを振り上げたときのポーズと叫び声はかなりバカっぽく見えてしまう。

部下を従えて歩くフェゴー。役者の顔力は周りから頭一つ抜けている気がする。
(マチェーテを抜くところ以外)カッコイイ!

また本作はそれ以外にも西部劇としては異色のシーンがある。後半、主人公ビル&仲間たちとフェゴー率いるコマンチ族強盗団が森の中で戦うのだが、その戦い方が西部劇らしい派手な銃撃戦ではなく、かなり徹底したゲリラ戦法なのだ。主人公がこうした戦法で単身敵のアジトに乗り込むような展開は他作品でも見かけるのだが、本作のそれはまるで「ランボー」か「アサシン・クリード」かと突っ込みたくなるようなステルスプレイである。各キャラクターの特徴を利用した大味な奇襲から、拳銃に布を巻いて火薬の発火を隠したり音を抑え距離をごまかしたりといった拘り演出まで、それまでの盛り上がりに欠ける描き方に比べると明らかに熱が入っている。
とはいえ全体として、外連味重視なマカロニ作品の中ででは相当地味であることは否めない。ただまったく説明のなかった大金も後半で出処が明かされるなど一応物語としては筋が通っており、クライマックスでの勝利の理屈が繋がってくるとじんわりとしたカタルシスはある。

刀、ではなくマチェーテを構えるフェゴー。
なぜかこのシーンだけ時代劇のような劇伴が流れるのがシュール。

まとめ

というわけで、我らが仲代達矢の怪演とチームでのステルスキルを楽しむ作品。作品として見るとやはり全体的な盛り上がりは今ひとつといわざるを得ないが、一応前述のようなこの作品なりの見所は用意されている。でもまあどちらかというと珍作の類で、最初に見るマカロニ・ウエスタンとしてはおすすめできないかな……。

Amazon Prime Video
https://www.amazon.co.jp/gp/video/detail/B0CGP53NJL/