映画感想「ユニバーサル・ソルジャー」

1992年のアクション映画。ジャン=クロード・ヴァン・ダム主演。監督はローランド・エメリッヒ。エメリッヒといえば「インデペンデンス・デイ」や1999年の「ゴジラ」(通称エメゴジ) が作品として有名か。 ちなみに本作がハリウッドでの初監督作品。
そしてジャン=クロード・ヴァン・ダムである。80~90年代の人気肉体派アクション俳優であり、マンガみたいな開脚からの美しい飛び蹴りは「ヴァンダミング・アクション」と一部でネタにされた。2000年代から人気は低迷、しかしどこかで吹っ切れたのか、自身の落ちぶれっぷりをネタにした映画を制作したり、最近では自身の落ちぶれっぷりをネタにしたAmazonオリジナルドラマに出演したりしている。本作はそんなヴァン・ダムがノリにノっていたであろう時期のアクション映画である。ちなみに、個人的にかなり好きな作品。

1969年、ベトナム戦争中期。ヴァン・ダム演じる主役のリュック・デュブロー二等兵は、錯乱した上官アンドリュー・スコット軍曹の凶行から現地の非戦闘民を逃がそうとした結果、撃ち合いになり相討ちに。二人の死体は他の戦死者とともに軍に回収、保存され、25年の歳月を経て改造兵士ユニバーサル・ソルジャー(ユニソル)として蘇る。

作戦配備前にレシーバーのカメラチェックを受けるユニソル、GR-44(リュック)。
迷彩服に真顔、片目を覆うレシーバーで「改造兵士」という力技はこの時代ならではかもしれない。

ユニソルは意思を持たず命令に絶対服従し、恐怖も痛みもなく任務を遂行するまさに理想の兵士。公には訓練された特殊部隊ということになっているが、特にベトナム戦争死者の遺体を再利用していることは極秘中の極秘機密だった。
その秘密をすっぱ抜いてやろうと、女性リポーターのベロニカはカメラマンとともにユニソルが待機するトレーラーに潜入取材を試みる。銃で蜂の巣にされたユニソルがなお動いている様子を目撃した彼女らは、驚いた拍子に見つかり捕まってしまう。現場に駆けつけたのは元スコット軍曹のユニソルGR-13と、元リュックのユニソルGR-44。連行せよという命令だったが、GR-13は加減ができずカメラマンを殺害。そのときGR-44(リュック)の脳裏に死ぬ直前の記憶がフラッシュバックし、彼は発作的にベロニカを連れてその場から逃走してしまう。
命令にない行動を取ってしまったリュックは理由がわからず困惑する。彼に記憶がないことを知ったベロニカはニュースの特ダネを掴むために、追ってくるユニソルから逃れながらリュックの記憶を取り戻す手伝いをする ……というのが大まかな話の流れである。

殺した仲間の耳を自分のドッグタグ(認識票)に吊るすイカれた軍曹の描写、 やたらリュックが裸体を披露するシーンが多いなど、この時代らしい悪ふざけやサービスシーンが満載だが、そういったものも含め楽しませようという心意気は伝わってくる。逃走劇にも工夫が凝らされていて、同じことの繰り返しにならず、その出来事によって物語が進行していくなど、意外にも飽きさせない構成になっている。死体というかほとんどぼんやりしたロボットのような受け答えのリュックと、押しの強いベロニカのやり取りで徐々に人間に目覚めていく過程もまあまあ面白い。食べることに目覚め、無表情で口から溢れるほどポテトサンドを頬張るヴァン・ダムを拝めるのは本作だけかもしれない。
とはいえ、逃走劇という流れや機械のような兵士、善側のそれが人間に近づいていくといった要素などは、本作の前年に公開された大傑作「ターミネーター2」 の影響の強さがうかがえるし、構成がしっかりしていれば面白いかというとそれはまた別の話。ヴァン・ダム映画として観ても観なくても、まあなんというかパワー不足な感は否めない。

さて、本作にはもうひとりの主役がいる。冒頭でも登場し、その後GR-13としてリュックを追い続けるアンドリュー・スコット軍曹、演じるのはドルフ・ラングレン。 自分は本作がかなり好きだと冒頭で書いたが、その理由は実はヴァン・ダムよりこのスコット軍曹のキャラクターが好きだからである。
このキャラクターの造型は、実に悪役として優れていると思う。しなやかで主人公然とした筋肉のヴァン・ダムに相対する、重量級の体格と筋肉。軍人としての立場も上で、もちろん強権的。上官らしく「これは命令だぞ!」が口癖。耳をドッグダグに吊るす奇行といい、やたら耳に拘った台詞も多い。そしてこの時代の悪役らしいユーモアあるセリフの数々と、人間の域を踏み越えてしまった残忍さ。 はっきりいって映画の後半は「軍曹無双」といってよく、 ラングレン自身の強面っぷりも相まって、見た目も中身も敵として申し分ない。
また、現代に蘇ったベトナム戦士という設定も面白く、悪のドン・キ・ホーテというか、異なった時代の価値観(しかも狂っている)をそのまま現代で思うがままに発揮するおかしみがある。 スコット軍曹は目覚めても未だベトナム戦争気分で、「攻撃してくるやつは敵、逆らうやつも敵だ」とめちゃくちゃに殺しまくる。リュックが「戦争は終わったんだ」と諭しても聞く耳を持たない。そのあまりに暴力的ともいうべき独りよがりな様子は、恐怖と同時にどこか魅力を感じずにいられないのだ。

萎縮した科学者「スコット軍曹、お話があります」スコット「耳を貸そう」(ドヤァ)
と、自分のコレクション(耳の首飾り)を見せるお茶目な軍曹。

というのが本作を好きな理由の「半分」なのだが、理由のもう半分は、このスコット軍曹役の大塚明夫氏による吹き替え音声が、大変に素晴らしいからである。
前述の通り、スコット軍曹は情緒不安定で残忍な悪役のイカれ野郎である。リュック同様に自我を取り戻してからは、大仰な演説や悪役らしいユーモアだけでなく、 手榴弾を投げながら「フェエエイ!」「ヒョォーウ!」など奇声を張り上げるなどやたらテンションが高い。 吹き替え版では、それらを大塚氏の熱の入った声で存分に楽しむことができるのだ。リュックの頭を車にガンガン叩きつけながら繰り出す本作きっての名台詞「(上官に)『飛べ』と言われたら! (部下は)『どこまでですか』と聞け!」など、理不尽で無茶苦茶なのだけど大塚氏の声でいわれると妙な説得力があり、怖いシーンなのに笑えてきてしまう。とにかくこの大塚氏によるイカれキャラ熱演は一聴の価値があると思う。

というわけで、見る人によってはなんてことない、古い時代の筋肉アクション映画。個人的に思い入れ深く、特にスコット軍曹のキャラクターは、自分の中で確固たる悪役像の一つになっている。もし興味を持たれてご覧になられるなら、上でも書いているが吹き替え版がおすすめ。ちなみに今出回っているソフト版リュックの吹き替えは大塚芳忠氏が担当しており、奇しくも大塚対決が実現している。

画像:© 1992 Studio Canal