映画感想「ナイブズ・アウト:グラス・オニオン」

2022年、NETFLIXで配信されたミステリー映画。「世界一の名探偵」ことブノワ・ブランが活躍する「ナイブズ・アウト/名探偵と刃の館の秘密」の続編。主人公のブランを演じるのはダニエル・クレイグ、監督と脚本は前作同様ライアン・ジョンソン。

ストーリー

2020年。世界がパンデミックによるロックダウンの最中、知事、科学者、モデル、インフルエンサーなど、各界で活躍する人物らの元に、巨大ハイテク企業「アルファ」CEOマイルズ・ブロンから謎の木箱が届く。箱には手の込んだいくつものパズルが仕組まれており、それを解くと中にはマイルズが所有するギリシャの孤島への招待状が入っていた。実はこれはマイルズと彼らのお遊びであり、マイルズが「マーダーミステリーゲーム」(殺人事件に見立てた謎解き遊び)を開催する際の恒例行事。だが、今年の参加者の中にはそれまでにない参加者がいた。アルファ社の共同創設者であり、マイルズによって会社を追い出されたアンディことカサンドラ・ブランド。そしてもうひとりは世界一の名探偵として知られるブノワ・ブランである。ブランを除いた彼らは「グラス・オニオン」というバーの常連で友人同士だったがそれは表面上であり、やがてゲームではない本当の殺人が起こってしまう……というのが途中までのあらすじ。

「世界一の名探偵」ブノワ・ブラン。「知的なスリル」を求める老齢の紳士。
慇懃な態度で人を(ときには視聴者をも)翻弄する、食えない人物。

感想

「スター・ウォーズ/最後のジェダイ」の監督として一部で悪名高い、ライアン・ジョンソンのオリジナルミステリー・シリーズ第二弾。まず前作にも共通するが、「視覚的に楽しい」という娯楽性の高さを意識していると感じた。前作「刃の館の秘密」では、まるで「ゲーム・オブ・スローンズ」の玉座みたいに無数のナイフが円を描くように配置された椅子が登場したが、今作ではまず冒頭にギミック満載のパズルボックスが登場する。これがまず単純に見ていて面白い。金持ちの道楽という理由付けがされているので、外連味がありながら非現実さもさほど感じずしっかりワクワクさせてくれる。そして表題の通り、かつて彼らが通ったバー「グラス・オニオン」の名にちなんだ玉ねぎ状のガラス屋根の豪邸が登場する。前作の椅子のように、タイトルを聞いて真っ先に浮かぶシーンとして機能するほど豪華な作り。この辺りの意識的な気配りは流石だと思った。

映画を象徴でもあり、今作の舞台でもある「グラス・オニオン」。
かなり意識的にこういうアイコンを用意していると感じた。

こうしていかにも何か起こりそうな場所に招かれたのは、これまた一癖も二癖もありそうな個性的な人物たち。もちろんミステリーのお約束として、表向きの友情とは異なる利害関係やドロドロした人間模様がある。個人的にはデイヴ・バウディスタ演じるユーチューバーのデュークのキャラクターが好きで、配信で男性の権利や優位性を訴えるという中身も見た目もマッチョイズムの塊なのに、実際は強権的な母親に支配され口答えすら許されないという歪みがよかった。このようにありえない舞台にクセのある人物たち、そして彼らの表向きの関係性と裏の顔という、ミステリーとしてはかなり王道的な引っ掛かりで楽しませてくれる。

参加者たち。時代設定がコロナ禍のため口を覆っているが、そうでない者も。
このあたりで性格や思想を表現しているのもなるほどと思わせる。

そして事件が起こってからの展開も見事。本作は殺人が起こるまでがかなり長いのだけど、そこからさらに新事実が判明していく。この筋書きは単なる「王道」で終わらせない監督らしいギミックであり、物語の全体像が急にガツンと示されることで、やや冗長だった物語の流れのスピードが一気に加速していくのでよかった。本作はさらにそこからライアン・ジョンソンの真骨頂というべき結末へと落ち着く。本作のテーマはこれであるといわんばかりの、色々な意味での破壊が巻き起こるのだ。劇中でマイルズ・ブロンはブノワに対し、自身とその友人たちを「破壊者」であると語るが、その口上はライアン・ジョンソン自身の信念というか本音であるように思えてならない。まるで自分の役割は「壊すこと」であるという宣誓であるかのように、本作は破壊がキーになっており、盛大な破壊によって終わる。

まとめ

というわけで、トリックに頼らない監督の「壊し屋」としての個性が発揮されたミステリー作品。序盤のワクワク感、そして中盤からの展開も見事。好き嫌いは確実に分かれるし、トリックを好む人はミステリーではないというかもしれないけれど、ライアン・ジョンソン監督の「俺は壊すんだ」という鉄の意思のようなものが感じられる一作。

画像:© 2022 Netflix