映画感想「西部悪人伝」

1969年のマカロニウエスタン。リー・ヴァン・クリーフ主演。フランク・クレイマー(ジャンフランコ・パロリーニ)監督作品。
黒スーツのニヒルな風来坊、サバタが活躍するシリーズ一作目。この作品が作られた頃はマカロニウエスタンも後期で、初期~最盛期の頃とは全体の作風が変わっている模様。それまでは復讐やアンチヒーローといった暗く暴力的な要素がつきものだったが、人気に陰りが出てきた頃からそういった要素とは別の路線が現れ始めた。
今回のサバタはまさにそれで、復讐、因縁といったものをほとんど排除し、単純にキャラクターやアクションを楽しませる娯楽作品として際立っている。

西部の街ドハディで、ある夜銀行強盗が発生し、軍の資金10万ドルが盗まれる。偶然その街に居合わせたサバタは、銀行強盗たちを探し出して襲撃し、金庫を取り戻して街に帰還。感謝をする兵隊と、微妙な表情を見せながらも礼を述べるステンゲル男爵ほか数人の街の名士たち。瞬時に事件のからくり(彼らが黒幕であること)を察知したサバタは、彼らの証拠隠滅を妨害して証拠をおさえると、ステンゲル男爵たちを強請ろうとする。しかし男爵たちは逆にサバタを殺そうと暗殺者を雇って次々と差し向ける……というのが物語の流れ。

「悪人から強請る悪人」であるサバタの性質は「荒野の用心棒」の名無しのようにクールでニヒル。黒いスーツガンマン姿での登場はもはや彼の正装といっていいくらい目に馴染む。だがこの映画最大の特徴は、敵も味方も秘密兵器的な武器や曲芸的な技を持っており、さらに機転を利かせた戦い方を仕掛けることだろう。
サバタは装弾数の少ない護身用の銃のグリップに銃口を仕込んだデリンジャーや、飛距離にロングバレルを切り替えるといったカスタム武器で、相手が「もうあの銃に弾は入っていない」「あの距離からじゃ外れるだろう」と油断したところを仕留める。

仕込みデリンジャーを見せるサバタ。西部劇らしからぬ、スパイ小道具のよう。

サバタに惚れ込み行動をともにする浮浪者のカリンチャは、ぼさぼさの頭を掻くふりをして背中からナイフを取り出し敵に投げる。その相棒で無口なインディオ(吹き替えではネコ)は軽業師で、名前通り猫のようにしなやかに動き回る。そして、色男でヒモをして暮らしているバンジョーは、バンジョー(楽器)に仕込んだライフルで敵を欺きつつ倒す。

転がりながら、バンジョーに仕込んだ銃を使うバンジョー。実用性はともかくワクワクする。

これらの他にも奇抜なギミックや技、奇襲の数々で魅せつつ、サバタがどうそれらを切り抜けていくかという対処の仕方で最後まで楽しませる。
特に敵の親玉ステンゲル男爵は絵に描いたような悪役で、貴族然とした出で立ちや振る舞いや、不遜で自信に溢れ、独特の美学を語り、秘密兵器や頭を使って敵を陥れる。ここまで野卑な感じがしない敵は、自分が今まで観た他のマカロニ映画ではあまり見ないタイプのように思える。良い意味でコミック的。

ステンゲル男爵。「生死を賭けた戦いこそスリリング」
みたいなことを言いながら、しっかり初見殺しの戦法を用意している。

というわけで重苦しくない、奇抜なアイデアと個性的なキャラクター満載の軽妙なマカロニウエスタン。荒唐無稽というとデタラメ、メチャクチャといった悪いイメージがつきまとうが、その裏に潜む無茶苦茶がゆえの楽しさをきちんと見せてくれて新鮮でした。

画像:© 1969 Alberto Grimaldi Productions