ドラマ感想「マンダロリアン」(season1~2)

ディズニープラスで配信された、ジョージ・ルーカス原作のSF大作「スター・ウォーズ」シリーズのスピンオフ・ドラマ。日本ではシーズン1が2019年12月末から、シーズン2が2020年10月31日から配信された。現在、シーズン3も制作中のようである。製作総指揮をジョン・ファヴローが務める。
「スター・ウォーズ」(以下SW)といえば、2019年末にエピソード9「スカイウォーカーの夜明け」が公開され、一旦は完結したシリーズということになっている。その「スカイウォーカーの夜明け」と同時期に世に放たれたのが、このスピンオフというわけである。

本家シリーズとの違いの一つに、フォースの力やライトセイバーを扱うジェダイがメインではない点が挙げられる。「マンダロリアン」とは、いうなれば「マンダロアの民」といった感じで、主人公の属する集団の名前。顔の見えないヘルメットにジェット・パックをつけたその風貌は、シリーズを知る人であればハン・ソロを付け狙う賞金稼ぎボバ・フェットを思い浮かべるだろうが、マンダロリアン(マンドーとも呼ばれる)もボバと同様に賞金稼ぎである。
マンダロリアンはお金とは別にベスカーという金属を求めており、これが報酬代わりになることもある。彼はベスカーをマンダロリアンのアーマー職人のところに持っていき、自らのアーマーを強化するのだ。良いアーマーを持っていることは、強い戦士としての勲章代わりでもあるわけである。
全身にベスカーアーマーをまとった姿は中世の騎士甲冑のようでもあり、さらに職人が鎧を鍛えるシーンなどは非常に宗教というか儀式めいている。実際マンダロリアンには人前でヘルメットを取らないという掟が存在する。この古風さとSFのミックス具合が大変ツボであるし、流れ者の賞金稼ぎというのも西部劇、もっといえばマカロニ・ウエスタンっぽいのだ。

マンダロリアン(マンドー)。無骨なアーマーとマントの組み合わせがたまらない。

そもそも西部劇っぽいというのは、これは元々のSWの世界観に根ざしたものでもあるように思う。ルーク・スカイウォーカーはフォースなど使えない青年だったし、相棒のハン・ソロは賞金稼ぎで、ジャバ・ザ・ハットのようなギャングの元締めを相手になんとか生き延びようとしていた。ジェダイという名称が「時代劇」から来ているのも有名な話で、いろいろ混ぜ込んだジャンル・ミックス作品として秀逸だったわけだが、物語がフォースの光と闇の話に移り、さらにエピソード1~3辺りのジェダイが大活躍する展開がウケたことで、そちらの比重が大きくなっていった気がする。
「マンダロリアン」は映画のエピソード6「ジェダイの帰還」の直後で、ダースベイダーやパルパティーンを倒し、銀河帝国が滅んで少し経った頃の物語である。そういうわけでジェダイはほとんどおらず、知名度的にもそういう連中がいたらしいという伝説や噂のレベルにとどまっている。
ジェダイがいないSWというと地味と思うかもしれないが、ライトセイバー剣戟が見せ場になりがちな本編より、自分の力だけでなく脇役や非戦闘員たちと協力して障害を乗り越えていく部分にスポットが当たっているのだ。SWは登場する星系であったり種族であったりに実に細かな設定が存在し、ファンによってオンライン百科事典が作られるほどで、「マンダロリアン」はそうした設定や情報をよく活かしているように思う。もちろん、それらの知識も作品内での説明で理解できるようになっているので、知らないと楽しめないということもない。

またメインキャラクターも本編に劣らず魅力的。まず、ベビーヨーダこと「ザ・チャイルド」。このザ・チャイルドはフォースを使えるものの幼児なのでほぼ無力。しかも銀河中の悪いやつから狙われており、腕利きの賞金稼ぎである主人公マンドーの弱点ともなっている。

ザ・チャイルド。とにかく仕草がかわいい。

幼児らしく何でも口に入れてしまう困ったやつだが、クールなマンダロリアンの決め画みたいなカットの後にこいつが映るとそれだけでオチがつくという、この作品のマスコット的存在でもある。「マンダロリアン」は宇宙「子連れ狼」なのだ。このザ・チャイルドを安全な場所まで連れて行くというのが、物語の目的となる。
あと、個人的に好きなのはSeason1序盤で登場するIG-11というドロイドで、こいつも何かというと自爆したがる困ったちゃんである。古めかしい見た目に反し、ぶったまげるようなガンプレイを見せてくれるのがいい。こいつの活躍シーンだけは何度も見直したくなる。
敵の親玉ギデオンを演じるのはジャンカルロ・エスポジート。海外ドラマ「ブレイキング・バッド」のガス役などで有名なおじさんなのだが、他の役のイメージの強さか衣装のせいか、この人だけ妙にコスプレ感が強い。そして、特にSeason2では映画本編や別媒体で登場したキャラクターが出てくるなど、コアなファン向けのサプライズもある。

ドラマ自体は1話大体40分前後ぐらいで、大筋はつながっているものの基本は1話完結仕立てになっている。それぞれが面白く、エピソードによってはぐっと西部劇に寄せたものや、背景美術や筋書きも含めて時代劇っぽい話もある。その融合っぷりも絶妙で、それぞれのジャンルの魅力が感じられつつもしっかりとSWになっている。
これのためだけにディズニープラスに加入してもまったく後悔しないクオリティー。ディズニープラスは環境によってHDCP対応の機材が必要だったりセキュリティーソフトの設定変更が必要だったりと、ちゃんとした状態で視聴するのにちょっと面倒な手順がいるサービスなのだが、それでもおすすめしたい作品。
個人的には公開初日に観た「スカイウォーカーの夜明け」で受けた衝撃をだいぶ癒やしてくれた作品でもある。

画像:© 2019-2020 Lucasfilm Ltd

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