映画感想「サルタナがやって来る 虐殺の一匹狼」

1970年制作のマカロニウエスタン。ジュリアーノ・カルニメオ監督作品。音楽はブルーノ・ニコライ。
クールな黒衣のガンマン「サルタナ」シリーズ完結編(5作あるらしい)ということだが、日本ではあまり販売されていないシリーズのようである。しかもこの作品だけ、主役のサルタナを演じてきた人物がそれまでと違っているらしい。今作、サルタナを演じるのはジャンニ・ガルコ。
70年というとブーム全盛期から徐々に盛り下がっていく時期であり、全体として陰惨さより娯楽性に舵を切っており、この作品でもその特徴が見られる。

燃える紙幣でタバコに火を付けるサルタナ。
物語的にも偽札なので問題はない。

とはいえ、冒頭では悪徳保安官たちがいきなり市民を脅して撃ち殺すという非道っぷりを発揮している。そこに現れた主人公サルタナが悪漢らを撃ち殺すと、彼らの死体を馬に乗せた状態で収監所へ行き「俺がやった」と自白。何なんだこいつは……という感じだが、これは考えあってのこと。牢屋には犯罪者が入れられ、特にその中のひとりは、悪徳保安官ジムから何かを自供するよう上(牢屋は地面に掘られ、天井が鉄格子になっている)から酸をかけられるなど非人道的な尋問を受けている。
法を遵守すべき保安官などが全員クソみたいな悪党という、なかなか救いのないハードな世界なのだが、これは「正しい」人がいると主人公のアウトローっぷりが際立ってしまうからという配慮によるものだろう。全体を通しての世界観はそこまで陰惨というわけではないと思う。
別の牢に入れられたサルタナは、水をくれと言ったら小便をかけられるという散々な目に遭うが、靴底に隠しておいた吹き矢を使って看守を暗殺し鍵を奪う。牢を出た彼は酸をかけられていたフルという囚人を助け、収監所を脱出する。実はフルがサルタナを呼んだのであり、サルタナは彼の救出が目的だった。

どうして自分を呼んだのかという問いに、フルは語り出す。彼の相棒だったカジノの共同経営者ジョンソンは、裏の仕事として金の換金に手を染めていた。ある日50万ドルの金貨とアメリカドルの換金を見届人として取り持つのだが、大金に目がくらんだジョンソンは取引に訪れたそれぞれの代表を銃で撃ち殺す。紙幣は偽札だったが金貨は本物。銃声を聞きかけつけたフルも狙われ、命からがら逃げ出す。しかし後にジョンソンは殺され金貨も偽札も消えてしまったという。偽札を用意したのは悪徳保安官ジムの弟ジョーであり、金貨の換金を望んだのは苛烈なメキシコ革命派モンコ一味。どちらも唯一の目撃者であるフルが隠したと睨んでいる。金貨を見つけてくれたら山分けにしないかとフルから持ちかけられ、サルタナは承諾する。

と、ここからがこの作品の本筋。消えた50万ドル分の金貨を巡って、主人公と競い合う2つの勢力……という、マカロニのテンプレ的なわかりやすいものと思いきや、金貨を狙う登場人物は前述のモンコ将軍や悪徳保安官ジムのほか、発明家の老人プロンやジョンソンの後家ベラ、眼帯の男オッキオ、ベラのひもの色男や新しいカジノ経営者などかなり多数。これだけキャラクターが多いと話が停滞しそうだが、意外にもテンポがよく、敵の罠や奇襲を、サルタナが看破しさらに奇策で切り抜けていくのはなかなか痛快。
また金貨の手がかりや事件の真相をわりとしっかり追っていくためか、謎解き部分が思ったより機能しており、アクション部分と、ミステリー部分がほどよくマッチしているように感じた。事件の真犯人についてはなんとなく予想できなくもないが、途中まではあれこれ考えながらそれなりに楽しめるものになっている。

また、冒頭の吹き矢だけでなく、爆弾や自走砲台になるカラクリ人形や、この作品の売り文句である「皆殺しオルGUN」という、パイプが機銃になるという悪ふざけもいいところな珍妙兵器などもしっかり登場。特に後者はもはや奇策の範疇を超えているが、マカロニらしいケレン味が炸裂している。

町の大通りで、オルGUNとともに敵を待つサルタナ。このあと地獄のコンサートが幕を開ける。

というわけで、いかにもブーム過渡期のというか、黎明期の傑作あってのパロディやセオリーに沿って作られた感はあるが、お話はそこそこ引きがあるし、大勢のガンマン相手に主人公がオルガン一台で立ち向かうというサイコーにぶっとんだ戦いが見られる作品。
豚のそばで撃たれた人間に敵が言い放った「お前はトン(頓)死しろ!」という台詞がなぜか印象に残った。

画像:© 1970 Devon Film