映画感想「リトルトウキョー殺人課」

1991年のアクション映画。マーク・L・レスター監督作品。ドルフ・ラングレン主演。
最近遊んだ「ゴースト・オブ・ツシマ」というPS4のゲームが大真面目にちゃんと日本を描こうとしていたのを見て、「そういえばすごい映画があったな」と思い出した作品。
どれくらいすごいかといえば、監督があのアーノルド・シュワルツェネッガー主演「コマンドー」を撮った男であり、そこに極真空手の使い手でもある筋肉俳優ドルフ・ラングレン、そしてブルース・リーの息子、ブランドン・リーが出演している。さらに日本文化を取り扱ったポリス・アクション・ムービーとして一部で有名なのである。まあ、「コマンドー」の名前が出た時点で内容の想像はつくだろうし、最大の見所といえば、劇中で描写される「日本文化」が噴飯もので滅茶苦茶なところなのだが。

本作はロサンゼルスにある日本人街「リトル・トウキョー」を拠点に暗躍するヤクザ「鉄の爪」を壊滅させるため、ケナー刑事(ドルフ・ラングレン)とその相棒となった新人のジョニー刑事(ブランドン・リー)が奔走する、所謂はみだしバディコップものである。
冒頭のクレジットから、真っ黒なバックに全身にモンモンの入った男(顔は見えない)のひきしまった体と、その人物が刀を構えて演舞する姿だけを延々映すという「ヤクザ&カタナ」のパワープレイのあと、日本人街「リトル・トウキョー」の町並みが映る。実際の日本ではないため日本的情緒を求めるのは実は酷なことではあるのだが、日本語のネオン看板で装飾しているもののやはり他のアジア人街とそう区別はつかない。
そこで背中にライジングサンがデザインされた革ジャンを着たケナー刑事が、違法賭博っぽいことが行われている格闘技場に忍び込むところから物語は始まる。ターザンスタイルでリングに乱入したケナーは、そこで試合をしていた格闘家二人をぶちのめし元締めを逮捕しようとするが、同タイミングでかち込みにきたヤクザ集団と銃撃戦になる。元締めは拉致され、ヤクザには逃げられてしまう。
このときヤクザを率いたスキンヘッドの役者の日本語がとても流暢で驚くのだが、この俳優はトシロー・オバタ(小幡利城)という日本の武闘家。他に流暢な日本語を喋る主演キャストは「誰一人」いない。
翌朝、日本というよりチャイナタウンな見た目の食堂で、女将さんとケナーが日本語でやりとりをするのだが、どちらもカタコトなのでコントを見ているようである。幼い頃日本に住んでいたという設定のケナーは、ヤクザとのやりとりで日本語をしゃべることがあるのだが、シーン的に緊張感があるにも関わらずセリフが「オヤブンハダレダ」「ホントノコトヲイエー」など、イントネーションガタガタで迫力も何もあったもんじゃないので、観ている側は一気にずっこける。当然だが、場にいる役者は大真面目である。
このあとも、白粉を塗った女性二人がまわし姿で相撲を取り、客はそれを見ながら女体盛りの寿司を食べるという娯楽施設「盆栽クラブ」や、女性つき銭湯「暁大衆浴場」といったエロ要素、さらにセップクは女性が恥辱を受けたときに行うといった説明や、闘魂と書かれた鉢巻に変な黒法被という謎の勝負着など、間違ったというか意図的に魔改造したような日本文化がほぼ最後まで登場。音楽も、80年代に流行ったシンセサイザーサウンドに三味線っぽい音色でメロディーを奏でている。

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銃を構えるケナー刑事の勝負着。独特なセンスである。

製作者がどういうつもりでこの映画を作ったのかはわからないが、この映画が作られた1991年はインターネットもない時代である。「スシ、ゲイシャ、フジヤマ、ハラキリ」といった古典的でステレオタイプなイメージがつきまとって当然だし、国内ではバブル崩壊が始まっていたというが、世界的な印象としてはまだ経済的に台頭していたことだろう。
この映画の悪役は「鉄の爪」というヤクザであり、日本からやってきた。リトルトウキョーを根城に、アメリカでドラッグビジネスを展開しようと目論んでいるという設定は、日本が欧米に対する侵略者的位置づけだった当時の世情にわりと則しているのではないかという気がする。
そして、主人公の刑事たち。ケナー刑事は、実は幼い頃日本にいて日本で育った過去があり、日本文化に精通している。新米のジョニー刑事は、日本人の母親を持つ日系二世。だが日本文化に疎く、興味もない。
かたや見た目こそ白人でありながら武士の心を持っており、かたや日系人だが心は生粋のアメリカン。白人の巨漢が、見た目アジア人に日本文化について説明をするという見た目と逆転したやり取りはひねりが利いていて面白い(まあ、その日本文化が滅茶苦茶なのだが)。
ケナーが主役でクールなのに対し、ジョニーはお調子者で軽口をいう相棒というお約束の設定で、ケナーが怒りに我を忘れたときなどジョニーが彼を諌めるなど、現在なら「ベタ」として認識されているバディものとしてのお約束、ツボを押さえており、ここもまた楽しめるポイントだろう。そして、ケナーとヤクザのボス、ヨシダにはある因縁がある(けっこう序盤でわかるけど)。

アクション映画としても、CGを使わない生の炎や爆発がふんだんに使われており迫力があるし、80年頃の作品に見られがちな「不謹慎な軽口、ジョークの大喜利」も楽しい(個人的にこれがけっこう好物である)。格闘戦よりも銃を使ったアクションが多い気がするが、銃撃戦のさなか、ドルフ・ラングレンが腕力だけで車を持ち上げて起こし銃の盾にしたりするなど、筋肉俳優としての見せ所もある。
そして、クライマックスはもちろん刀同士による文字通り「真剣」勝負である。剣戟自体は一応ちゃんとそれっぽい。なぜそこで都合よくマジモンのポン刀を持っている、などと考えてはいけない。ちなみに、この接近戦勝負への持っていき方は「コマンドー」ほぼそのまんまである。決着がついたあとの敵のオーバーキルっぷりは必見。

刀を構えるケナー刑事。かっこいいところはかっこいいから困る。

というわけで、いわゆる「なんちゃってジャパン映画」に「日本人街」というワンクッションが置かれ、さらに弾みがついておかしくなった作品である。おおらかな時代の、かつ筋肉アクション映画に勢いがあった頃のものなので、そういうものとしてご覧頂きたい。
また、ほとんどウソ間違いだらけの日本文化な中で、ケナーが自分で建てたという日本家屋(にはとても見えないが)に入るときに「靴を(脱げ)」というやり取りがある。当たり前も当たり前ですごく些細なことなのに、ほかがひどすぎて感覚が麻痺していたのか「まともじゃん……」とちょっと感動してしまった。
総じてまともではないです。面白いけど。

画像:©1991 Warner Bros.

リトルトウキョー殺人課(Prime Video)
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