映画感想「サッドヒルを掘り返せ」

2017年公開のドキュメンタリー映画。1966年公開の傑作マカロニ・ウエスタン「続・夕陽のガンマン/地獄の決斗」のラストシーンのセットである「サッドヒル墓地」の復元に挑んだ有志のファンの記録を、映画撮影当時の裏話を交えながら描く。監督ギレルモ・デ・オリベイラ。前々から存在は知っており、ようやく視聴。

あらすじ

ドキュメンタリーなのであらすじ……ということもないが、作品の冒頭は以下の感じ。
まず、世界的に有名なスラッシュメタル・バンド「メタリカ」のライブシーンが流れる。メタリカはライブのオープニングに「続・夕陽のガンマン~」のテーマ曲の一つ、「黄金のエクスタシー」を流すことで有名。そして直後に画面は暗転し、次のようなテロップが入る。
「1966年ブルゴスにスペイン陸軍が5000もの墓を建設、だがそこには誰も埋葬されていなかった……」
寡作でありながらどれも名作といわれるセルジオ・レオーネ監督の中でも傑作と名高い「続・夕陽のガンマン~」の中で登場するこの「サッドヒル墓地」は、丘の裾野に中心の円形に敷かれた石と石組みの仕切り、そしてそこを中心として同心円状に木製の十字架が連なっているセット。丘の上から見下ろしたときのその広大な景観は非常に美しく象徴的なのだが、ブルゴスのミランディージャ渓谷に作られたこの巨大な映画遺産は、映画撮影後にそのまま放置され、時代とともに人々から忘れ去られ、やがて雑草と土に埋もれていった……。

感想

本作の構成は、「続・夕陽~」公開50周年に向けて、「サッドヒル墓地を復元しよう」と動き出した有志のファンたちの軌跡と、マカロニ・ウエスタン史に欠かすことのできない本作に対する評価や、撮影時の秘話やオフショットなどが含まれている。映画について語る面々は、「続・夕陽~」の音楽を担当したエンニオ・モリコーネを始め、レオーネやコルブッチなどのマカロニ作品の美術を担当したカルロ・シーミ、「メタリカ」のギターヴォーカルのジェイムズ・ヘットフィールド、映画「グレムリン」「ピラニア」などの監督ジョー・ダンテなど様々。

右からレオーネ監督、クリーフ、ウォラック、イーストウッドの主演3人。
こうした貴重なオフショットのほか、ロケ地スペインの美しい自然もたくさん収められている。

インタビューはそうした関係者や著名人だけでなく、当時軍から撮影に駆り出されたスペイン陸軍兵たちからも集められている。撮影時のスペインは、これは本作でも語られるがフランシスコ・フランコによる軍事独裁政権下であり、そんな中で軍の兵士を1000人動員して撮影のセット建設や、南北戦争を再現したシーンでのエキストラとして使ったのだからすごい話である(これは作品内でも語られるが、簡単にいうとスペイン側の外貨目当てだったかららしい)。皆年老いたお爺ちゃんになっているが、嬉しそうに当時のことを話すのが印象的だった。軍に入ったのにあてがわれた仕事が映画の手伝いやエキストラ出演なのだから、それは楽しかっただろう。

そうしたエピソードとともに、「墓地の復元」という壮大な計画を進めるファンたちの証言が同時進行していく。メインとなるのはミランディージャ渓谷近くに住む地元のメンバーたち。彼らは子供時代から土に埋もれたロケ地を探し回るほど「続・夕陽~」の大ファンで、丘から見下ろしたときにその特徴的な同心円の名残を見つけ、歓喜したという。その後、映画で「汚いやつ」トゥーコを演じた俳優イーライ・ウォラックが亡くなった2014年に墓地(のあった場所)で追悼集会を開き、そこで「サッドヒル文化連盟」を設立、来る映画公開50周年に向けて、サッドヒルの復元プロジェクトを思いつく。SNSを使ったボランティア集めや、資金調達のために墓碑に支援者の名前を書くというアイデア(想定の100倍近く応募が来たらしい)など、劇的ではないがその工程は淡々と、しかし着実に進んでいく。マカロニ・ファンの自分は荒れ地だったサッドヒル「跡地」が、段階を経るごとにどんどん映画で見た「墓地」の様相を成していくさまを見ているだけで楽しかった。
素晴らしいのは、それ(復元)をやる動機がただ「好き」というそれだけで形成されている点にあると思う。映画で使われた敷石を「神聖な石」と呼ぶなど、彼らはとにかく映画にリスペクトしており、著名人たちもただ「好き」だから語っている。そういった感情は「人生に影響を与えたものの一部になりたい」「永遠なものへの憧れだろう」と分析されており、「何かが好きだからやる」という純粋な動機への賛美が感じられる。サッドヒル墓地が復元された際のセレモニーは思わずこみ上げるものがあった。

プロジェクト創設者である「サッドヒル文化連盟」の4人。
嬉しいサプライズありのセレモニーが終わり、やりきったという満面の笑顔。

まとめ

というわけで、マカロニ・ウエスタンや「続・夕陽のガンマン~」ファン向けのドキュメンタリー。作品を知らない人には退屈かもしれないが、それでも商売っ気や演出がほとんど感じられない、ただ愛と情熱で満たされた眩しさは伝わると思う。「芸術は宗教、映画館は教会。人はちょっとした聖なる体験を求めている」というセリフが印象的だった。

画像:© 2017 Zapruder Pictures