ドラマ感想「仮面ライダーBLACK SUN」

2022年、Amazonオリジナル作品として配信された特撮ヒーロードラマ。「仮面ライダー生誕50周年記念企画作品」ということで、1987年にTV放送された「仮面ライダーBLACK」のリブート作品となっている。西島秀俊と中村倫也がそれぞれ南光太郎(ブラックサン)、秋月信彦(シャドームーン)を演じる。監督は「日本で一番悪い奴ら」「孤狼の血」などを手掛けた白石和彌。

あらすじ

1972年に起こった怪人解放運動、通称「ゴルゴム闘争」の結果、ときの総理大臣堂波道之助により「人間と怪人の共存」が宣言されてから50年――怪人たちは日々人間たちから差別され虐げられ、共存とはとてもいい難い状態が続いていた。
反怪人団体と差別撤廃を求める者たちのデモが衝突する中、かつて闘争に参加していた南光太郎(西島秀俊)は、怪人が警官によって銃で射殺されても気にする素振りも見せず無言でその場を立ち去る。借金の取り立てなどで食いつなぎ、廃バスの中で生活する光太郎が受けた次の仕事は、なんと殺しの依頼だった。標的は、人間でありながら怪人との調和を訴え、活動家として国際社会からも注目される14歳の少女、和泉葵。光太郎は彼女をつけ狙うが、そこへ現総理大臣、堂波真一の命令を受けて葵を拉致しようとクモ怪人が現れる。クモ怪人より先に葵を手にかけようとした光太郎だが、葵が「キングストーン」を持っていることに気づくとそれを止めてバッタ型の怪人「ブラックサン」に変身し、圧倒的な力でクモ怪人を倒してしまうのだった……というのが第1話。

デモ同士の衝突と警官による射殺に騒然となる中を、我関せずで立ち去る南光太郎。
正義の味方らしからぬ擦れ具合。カッコイイ。

感想

「仮面ライダーBLACK」は1987年から放送されたTV番組で、続編となる「仮面ライダーBLACK RX」含めて最後の昭和仮面ライダー(「RX」は平成にはみ出してはいるけど)といわれている。未就学児だった私は内容をほとんど覚えていないがおそらくリアルタイムで見ており、BLACKよりもライバルとして出現する世紀王シャドームーン(元祖悪役ライダーといって良い、ライダーと同格の敵役)の方がカッコよくて好きだったと記憶している。本作でもシャドームーンはもちろん登場するし、他にも「ゴルゴム」「創世王」「キングストーン」といった設定やワードのいくつかは形や役割を変えて使われている。

学生運動をモチーフにした、1972年の「ゴルゴム闘争」頃の信彦と光太郎。
物語は1972年と2022年を行き来しながら語られるのだ。

見所としてはリブート作品ということで世界観設定に大きく変更があり、あらすじでも書いたような人間と怪人の間に生まれる差別に軸が置かれた、ダークで現実の社会問題を前面に出した世界観が挙げられる。ゴルゴム闘争に関わった怪人の一部は三神官としてその後「ゴルゴム党」という政党を作り、現総裁、堂波真一(道之助の孫)を補佐している。現実に近づけたかなり大胆な変化にもとれるが、「BLACK」においてゴルゴムは「政財界にパイプを持つ闇の組織」であり、その部分をガッツリ掘り下げた結果と考えると面白い。
そうした世界観に合わせてか、ブラックサンやシャドームーンの怪人形態も昆虫そのもの肌感や節足などを強調した「コワキモ格好いい」デザインになっており、かなり格好良い。個人的には途中に登場する創世王の造型が本作随一といっていいくらい素晴らしい出来。また戦闘シーンも血飛沫や臓物、部位切断などかなりハード。とはいえそうした描写の多くはCGではない「特殊撮影技術」なので、個人的に不快感を感じるほどではなかった。

クモ怪人に後ろから掴みかかるブラックサン。
そのまま首を……と、ヒーローの戦い方ではない。見た目もグロテスクで生々しい。

描写はハードながら、アクションや殺陣自体は良い意味でも悪い意味でも「特撮」らしく、映像的迫力よりは「お約束の動き」に振ったという印象が強く感じられる。ドラマ面では演じる俳優たちの演技が素晴らしく、全体的にかなり熱量が伝わってきた。光太郎役の西島秀俊はくたびれたうだつの上がらないイケオジ具合が最高だし、光太郎の親友、秋月信彦を演じた中村倫也も線の細さの中に凄味がある。堂波総理大臣役のルー大柴や、反怪人団体の井垣役である元キングオブコメディの今野浩喜もそれぞれの雰囲気を出しながらも役柄的な冷酷さが出ておりよかった(井垣がよく言う「ぶぁ~か言ってる!」は結構耳に残る)。

そろそろ肝心なストーリーについての話になるが、正直なところ終わったけどモヤモヤが残るものだった。よく考えると納得がいかないというか、人物がそれをする理由に「なんで?」と思うところが多い。本作は各人物が敵になったり味方になったりの移動が激しく、それだけで人物の理念と行動に一貫性がないように感じてしまった。また、差別問題の描き方も一見ど直球に描いているようでその本質的な部分はぼんやりしているというか、怪人がゴルゴムを立ち上げるという動機以上の役割を感じられなかったのは残念。
盛り上がる部分がないわけではなく、光太郎が初めて変身するシーンなどは格好いいし、そもそも彼の失意と力強さが混同した佇まいが、どこかマカロニ・ウエスタンのよそ者(主人公)っぽくて格好いいのだ。

まとめ

というわけで、色々と惜しいところもあるのだけど、一気見してしまうくらいには楽しんだ作品。ヒーローやデザインが格好いいというところで満足度はあるのだけど、設定面などで挑戦的過ぎたのかなとも思う。今後もこういう「大人向け仮面ライダー」は作って欲しいところ。

画像:© 2022 石森プロ・東映,「仮面ライダーBLACK SUN」PROJECT

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