映画感想「アヴェ・マリアのガンマン」

1969年公開のマカロニ・ウエスタン。フェルディナンド・バルディ監督作品。主演はレオナード・マン。Wikipediaによると本作のストーリーはギリシア悲劇「オレステス」の物語が元になっているとのこと。無料期間がギリギリのタイミングでAmazon Prime Videoにて視聴。

ストーリー

メキシコ国境。負傷しながらもテキサスへと逃げる一人の男がいた。男の名はラファエル。手負いの彼はたどり着いた牧場で一人の若者に助けられる。若者は母マリアと12年ほど前にここに移り住み、母はすでに他界、今は一人で牧場を営んでいた。話を聞き終えたラファエルは「ありがとよ、セバスチャン」と呟く。「なぜ俺の名を?」と問い返す若者=セバスチャン。だがラファエルはその場で答えない。実はセバスチャンは12年より前の記憶を失っていたのだ。翌日、セバスチャンが目を覚ますとラファエルの姿はなかった。彼は街の酒場で追手に見つかりリンチを受けていたのだが、そこへセバスチャンが助けに駆けつける。助けられたラファエルは、セバスチャンの出生の秘密、そして12年前の事件について語る。
セバスチャンが母だというマリアは実母ではなかった。彼の本当の親はメキシコ将軍のフアン・カラスコとその妻アンナ。しかし12年前、アンナは情夫トマスとともにカラスコを暗殺し、トマスがカラスコの地位を乗っ取ったというのだ。ラファエルはカラスコの使用人の子供であり、セバスチャンとは幼馴染だった。父の仇であるトマスと母アンナはメキシコのオクサカにおり、そこには生き別れの姉イザベルもいる。忘れていた記憶を思い出したセバスチャンは、ラファエルとともに復讐へと旅立つ……というのが序盤。

流れ者でもなければ皮肉屋でもない、どっちかというと世間知らずのセバスチャン。
マカロニでは珍しいタイプの主人公かも。

感想

「オレステス」の物語を簡単に説明すると、ミュケーナイの王アガメムノーンが妻クリュタイムネーストラーとその情夫アイギストスによって命を奪われ、姉の手引きでミュケーナイを脱出した王の息子オレステースが謀殺された父の敵討ちを果たすというもの。
本作は最初に彼らがどんな素性の人物なのかをおそらく意図的に隠しており、ストーリー紹介部分で若干ネタバレ気味になってしまったのだが物語の導入なので仕方がない。ただ事件の回想シーンのお祭り騒ぎはかなり豪華で、土埃塗れで髭面のラファエルやセバスチャンらの年端もいかない少年時代が描かれる。そのシーンが終わって現代に戻ってくると、それまでの素性の知らない男同士だったのが実は同じ惨劇を経験した身分の違う親友の間柄になっている、というのは素直にグッとくるものがあった。

野性味溢れるメキシコ男ラファエル(左)と、物憂げで整った顔立ちのセバスチャン(右)。
回想が終わるとセバスチャンが急にお坊ちゃんっぽく見えてくる不思議。

本作で拘りを感じたのは、ディティールというか映画の背景部分。たとえば、セバスチャンが無言で鉄串に刺した肉の塊を差し出すとラファエルも何も言わずそこから一部分をナイフで切り取って食べるという交流が成立していたり、テキサスの酒場でラファエルが酒代を硬貨で支払うのだが店主はそれをテーブルに軽く叩きつけたりなど。前者は二人の食文化が共通していることを暗に示しているし、後者も確証はないが硬貨が本物か(あるいはメキシコの硬貨がよくわかっていない)を確かめるためにやったことだと推測できるのだが、こうした説明のない動き一つ一つが本作特有の拘り部分だと感じた。ラファエルが酩酊するシーンで流れるスパニッシュ・ギターの音色とフラメンコも結構本格的で耳に残るし、本作のメインテーマもエンニオ・モリコーネをオマージュしたような、口笛を主体としたいかにもマカロニらしい曲で全体的な雰囲気もよい。気になる点としては、セルジオ・レオーネを意識したと思しき人物のアップがちょっとくどい、というか寄りからグッと入る上に余韻がないせいか忙しない印象になったのは残念。
物語の大目的は先述したとおりだが、劇ベースということもあってなのかとくに悪役の複雑な感情がそれなりに示されている。トマスとアンナのそれぞれの想いなどは結構面白かったし、イザベルに言い寄っていた男のある行動も心情を考慮すれば理解できた。ただラファエルはともかくセバスチャンの感情が伝わりにくく、画面の迫力のわりにいまいち感情移入しにくかったかも。最後の最後に判明する事実も個人的には蛇足。あとは倒すべき悪役のトマスより彼の片腕的立場であるフランチェスコの方が出番も顔の迫力もあり、ボスより目立っていたのは嫌いじゃないけどどうなの、と。嫌いじゃないけど。

ラファエルとセバスチャンを追跡する強面男フランチェスコ。
これはお爺さんを脅すときに彼の眼鏡をひん曲げているシーン。

まとめ

というわけで、細かい所作や文化描写が目を引いた復讐の物語。背景やディティールへの拘りは個人的には嫌いではないし、設定やシチュエーションも熱いのだけど、主役の魅力やお話の盛り上がり的にもう一つ二つ要素が欲しかったところ。

画像:© 1969 Rewind Film S.r.l.- Licensed by Rewind Film – Rome, Italy.

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