【ネタバレ有】まだ語りたいネタバレ有感想「仮面ライダーBLACK SUN」

先週大きなネタバレのない範囲で観た感想を書いたが、内容についてあまりにモヤモヤしていたので今週はネタバレありでその原因と思われる部分について言及していきたいです。「仮面ライダーBLACK SUN」を観た人向けの文章になります。

まず最初に述べておきたいのは、ちゃんと「最後まで観たくなる」内容だったこと。私にも途中で観るのを止めた映画やドラマ、遊ぶのを止めたゲーム、読むのを止めた本、漫画などは当然ある。大量のコンテンツが氾濫した現代において、最後まで受け手を引っ張りついてきてもらうだけでもすごいことなのだと思う。もちろん10話で完結する内容ということがわかっていたからということもあるが、観ている最中に退屈だとはそれほど感じなかったし、純粋に「この後どうなるの?」と続きが気になった部分もある。画的に、設定的にカッコイイと感じるところも多かった。
ただやはり、終わってみると「あれ?」というかスッキリしないのだ。今回はそう感じた理由を整理するという形で書いていきたいと思う。

信彦と二人の友情の描写について

まず気になった点が、南光太郎と秋月信彦、特に信彦についての描き方である。信彦は1972年のゴルゴム闘争から2022年の現在まで、ずっとゴルゴムに幽閉されていた。「ヘヴン」という創世王のエキスと人間を混ぜたゼリーのような食料で若さを保ち続けており、光太郎と50年ぶりに出会ったとき「老けたなあ」と呟く。闘争に挫折し50年を生きてきた光太郎と違い、当時の若さを保ったままの姿の信彦は、現代において怪人解放運動の続きを行おうと怪人たちを扇動しその指導者となる。「くたびれたオッサンになった自分(光太郎)と、姿も意思も若々しいままのかつての親友」というこの対比は非常に良いし、光太郎がかつて背を向けた戦いに再び向き合わなければならないという宿命を思わせる装置としては、これ以上ない設定だといえる。
という感じで信彦はまさに現代に蘇った革命家なのだが、1972年当時の彼はどうだったかというとそこまで怪人解放運動に入れ込んでいるようには見えないのだ。実際は「五流護六」(当時の団体名)の女性メンバーであるゆかりに惹かれている描写の方が強めに感じた。だから50年後に信彦が怪人たちの前で革命を高らかに叫んでも、ほぼ同時にそうした過去も描写しているため、「そんなキャラだっけ?」と今一つ納得がいかなかった。堂波真一が馬鹿にするように言った「ゆかりの色仕掛けに騙された」という言葉はかなり的確に信彦を表している。拡声器で学生たちに演説していたビルゲニアぐらい、革命に情熱を注ぐように描いていれば別だったように思う。あるいはゆかりに影響を受けて、彼女の弔い合戦的に行動をおこしたと読み取ることもできる。事実、最初に光太郎に再会した彼の目的は「光太郎とともにゆかりの意思を継いで創世王を殺す」だったし。ただ、そのゆかり自体が五流護六において掴みどころのないミステリアスな女性として描かれているため、そんなに看過されたかもやはりわかりづらいのだ。
物語の中盤、怪人たちを戦闘員として鍛え上げてゴルゴム党本部に突入した信彦と怪人たちだったが、怪人たちは警察隊によって銃撃され、ほぼ壊滅させられてしまう。捕らえられた信彦は、堂波真一からゆかりが祖父堂波道之助のスパイだったことを知らされる。彼女の語る「怪人も人間も命の重さは同じ」という言葉はその後回り回って和泉葵にまで受け継がれていくため、この設定はちょっと無常……というか勿体ない。失意を抱え脱出した信彦に残ったのは、人間に対する怒りと憎しみだった。スズメ型怪人、俊介の変わり果てた姿を目の当たりにして真の力に目覚めた信彦はゴルゴム党本部へと舞い戻り、かつて袂を分かち人間の下につくことを選んだ三神官やその他幹部たちに「いつまで人間に媚びへつらう? 俺は、怪人が人間の上位存在となる世界を作る」と訴え、そのままゴルゴムを乗っ取ってしまう。ゴルゴムの頭領となった信彦――もといシャドームーンは、こうして物語の最後の敵として光太郎――ブラックサンに立ちはだかるわけである。流れとしては良い。ただ光太郎との死闘の末に倒れた彼が漏らすのは、「五流護六」時代――つまり彼と光太郎にとっての青春を懐かしむ言葉なのだ。「みんないなくなっちまった……」ともういない彼ら彼女らの名前を呟くが、そのうち二人くらいは信彦自身の手や意思で手にかけており、夢破れた革命家のように「したかった」というのは伝わるのだが、描き方がちぐはぐに感じてしまい、ストンと腑に落ちなかった。

「五流護六」時代の光太郎に関しても、信彦以上に明確に何がしたい人物かはっきりとわからない。光太郎は信彦といつも一緒にいるらしく、彼にくっついて五流護六の集会に参加し、信彦同様ゆかりに彼も少し惹かれつつ、やはり怪人解放運動に対しては冷めた態度である。ゆかりを巡っての三角関係をにおわせる描写はあり、それがドラマに発展こそしないが現代での戦いの中で信彦への言い返しとして「どうしてゆかりを守れなかった!?」というようなことを光太郎が叫ぶなど、一応二人の関係に亀裂を及ぼしてはいる。
五流護六の中ではこれといった主張もなく、流れで怪人解放運動に参加した若者として描きたかったのかもしれないが、個人的には革命に熱中できないながらも信彦との「友情」をもっと描くべきだったと感じた。二人の友情は彼らの幼少期にはそれなりに伝わってくるのだが、「五流護六」時代にはつねに一緒に行動してはいるものの二人の信頼感や友情を感じさせる場面はあまりなく、それは現代編でも同様である。現代編の二人はたまに行動をともにするのだが、それは利害が一致しているからであり、友情が理由には見えない。戦うときも「やめろ信彦! お前とは戦いたくない」みたいなセリフもなく、すっかり擦れたオッサンになってしまった光太郎は喧嘩上等で信彦にも殴りかかる。最終局面においても「同じライダー同士、しかも幼馴染の親友」という設定にも関わらず、どうもそのあたりの熱さは今一つ感じられなかった。

真正面から組み合う光太郎と信彦。
めちゃくちゃカッコイイ画だけに、過去の因縁をもっと盛り上げてほしかった。

もう一人の主人公、葵の主張について

二人とは別に、本作には真の主人公というべき和泉葵の存在がある。製作者は「BLACK SUN」を「BLACK」のリブート作品として描きつつ、彼女の物語にしようとしている。葵は怪人差別と戦う若き人権活動家であり、まさにグレタ某よろしく「世界にもの言う少女」として国連に招聘され持て囃されている14歳の中学生。ゴルゴム闘争から50年後の日本社会とはびこる怪人差別を描くための目線として彼女は機能しており、それは過去編において主役だった光太郎や信彦と、それに感情移入し、今の現代を形作った「オトナ」たちを見つめる新世代の目線でもある。葵の身近には俊介というスズメ型怪人の友人がおり、彼女自身も両親の教育によって怪人も人間も変わらないという思想を持っている。光太郎がゴルゴムの怪人と戦うように、葵が戦うのは差別という大きな敵なのだが、その意思を試されるがごとく彼女には数々の試練が襲いかかる。育ての親は怪人に殺され、友人の俊介も人間に殺されてしまう。さらに父親は無理やり怪人にさせられ、葵自身も改造手術を施され怪人にさせられたあげく目の前で母親を殺される。それまでは怪人との平等を謳う「人間」だった彼女自身が怪人になってしまうというのはなかなか皮肉が効いていて良い展開だと思う。まさに悲劇のヒロインのような経験をした彼女は、外から見えるより実際はもっと悲惨であり、当事者として差別と戦い続けると宣言するわけである。擁護者、庇護者側から戦士としての覚悟を決めた……とそれだけなら良かったのだが、彼女はビデオ通話で画面(を見ている人々)を睨みつけ、まるで視聴者に「現実の差別や理不尽と戦え。実際に行動せよ」訴えかける。これは流石にど直球すぎてお仕着せがましさを感じた。まあそういう感情を狙ったフックとしては機能しているのだろうけど。それを言葉で語らず主張するのが創作なのでは、と心の何処かで思ってしまった。

怪人という立場への疑問

そもそもが「怪人が差別されている」という設定が歪だったのではという気がしてならない。「BLACK」と「BLACK SUN」で怪人の扱いは異なっており、実は「BLACK」においては暗黒結社ゴルゴムが選んだ優秀な人間を怪人にし、怪人だけの社会を作ることを目的としている。つまり怪人になれるのは選ばれた人間だったのだ。ところが、本作ではいつの間にか日本に存在していた、差別される対象としてしか描かれない(実際は第二次大戦前、旧日本軍の人体実験によって造られた生体兵器なのだが、それを知るのは一部の人間のみ)。
だが、実際のところ怪人は人間より優れた能力を持っているし、何よりヘヴンがあれば人間よりも圧倒的に若さを保つことが可能なのだ。見た目もずっと怪人のままというわけではなく、人間と変わらない姿を取ることができる(でもなぜか人間から怪人だとバレる。体臭?)。そうした性質を考慮していくと、堂波真一の怪人を売り物としてしか考えず、怪人の力と若さになんの魅力を感じないのは私には不自然に思えてしまう。劇中ではニックだけが怪人になることを望んでいたが、他の人間の誰一人、怪人の若さや力を自分のものとして手に入れたいとは思わないようで、それも不思議だった。
怪人を「選ばれた人間」として描き、与党(ゴルゴム党)の政治家や上級国民はみんな怪人になってて力と若さを手に入れ、重税で国民を苦しめたりヘヴン製造工場に強制連行したりしているみたいな世界観の方が、堂波にカツカレー食べさせたり某副総理似の人を出したりするよりある意味ど直球にやりたいことができるし、何より「BLACK」に近い設定だしでよかったのではなかろうか。最後は国会議事堂を舞台に総理大臣と殴り合いでもしてくれたら言う事はないのだが、無理か。

どこかで見たことがある気がするカット。
モノマネとして完成度が高くて好き。

まとめ

まとめとしては、やはりやりたいことを詰め込みすぎた気がする。光太郎と信彦、ゴルゴムとの因縁や、創世王を巡る怪人の悲劇の連鎖を描ききったとはいい難いし、葵の物語としても、差別がテーマにしてはその辺りの描き方もちょっと乱暴で一方的な印象。ヘヴンに関していえば、元ネタは明らかに「ソイレント・グリーン」なのだが、これも設定以上の役割がないのが勿体なかった。おっと思わせる要素、ポテンシャルを感じさせる部分がありながら、期待した方向、自然な方向にドラマが進まない。そういう意味で「惜しい」作品だと思った。

画像:© 2022 石森プロ・東映,「仮面ライダーBLACK SUN」PROJECT

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