映画感想「13人の命」

2018年、MGM制作のアメリカ映画。洞窟に遊びにいったサッカーチームの少年たちとコーチの計13人が大雨で洞窟が水没し閉じ込められてしまった実際の事件「タムルアン洞窟の遭難事故」を元にした映画。実際に救助にあたった洞窟ダイバーのリック・スタントンをヴィゴ・モーテンセン、相棒のジョン・ヴォランソンをコリン・ファレルが演じる。監督はロン・ハワードで、アマゾンオリジナル作品。

あらすじ

2018年6月23日、タイ北部のチェンライ県。地元サッカーチームの少年たちは、夜に開かれるチームメンバーの誕生会前に「冒険しよう」ということでタムルアン洞窟の中へ足を踏み入れる。付き添いとしてサッカーチームの若いコーチも同伴し、その数は13人に。しかし彼らが洞窟に入ったあと、急な悪天候による大雨に見舞われてしまう。
夜、誕生会に集まった少年らの親たちが心配し洞窟を訪れると、少年らの自転車を止めた先は水没し、とても生身で行き来できるような状況ではなかった。少年らが閉じ込められた事件は世界中に伝わり、世界中から救助のための支援やボランティアが集まってくる。イギリス洞窟救助協会に所属する元消防士のリック・スタントン、その相棒でITコンサルタントのジョン・ヴォランソンも政府から打診を受けタイに向かうのだが、その時点ですでに遭難から数日が経過していた……。

感想

このタイの少年サッカーチーム遭難事故の話はなんとなく当時ニュースで見聞きし、そんな大変なことになっているのかと思ったのを記憶している。結果だけはなんとなく知っていたのだが、それがわかっていても非常に面白い作品だった。まず凄いのは、この作品で描かれたことのほとんどが実際に起こったことという点だろう。まさに事実は小説より奇なりなのだが、ただ事実を並べただけの内容では当然ない。事件が発生するまでの導入部分は短く、わずか10分で少年らは洞窟に閉じ込められることとなる。しかしその短い時間での見せ方がとにかく巧いのだ。タイの雄大な自然や一面に広がる農地、少年らの団結力と信頼、仏教が根付いた国ならではの文化や風習がさり気なくも丁寧に描かれ、まずそれが新鮮なものとしてスッと頭に入ってくる。

洞窟へ向かうサッカーチームの少年たち。
からかったりふざけあったりしながらも、健やかに育っている感じが伝わってくる。

さらに子どもたちが洞窟の奥へと入っていく際に「第3チャンバー」「丁字路」「パタヤビーチ」といった洞窟のポイントポイントの名称がテロップとして表示されるのだが、それがその後ダイバーたちを苦しめる要所要所のポイントの「先見せ」となっているところも面白い。情報を情報と思わせずに視聴者にしっかり伝えるという高度な事が行われており、その巧さだけで結構心を掴まれてしまった。

基本的に物語で主役的な立ち位置となるのがダイバーのリック・スタントンなのだが、作品全体のスタンスとしては群像劇で、閉じ込められた13人やそれを救うためにあちこちから集まった多くの人全員にスポットがあたるようになっている。個人的には、暗闇に閉じ込められ食料もない12人の子どもたちをまとめていたコーチの方法も実に仏教国タイらしく、興味深かった。他にも、雨水が洞窟に侵食するのを防ぐためボランティアの青年が洞窟のある山の上に即席のダムを作るのだが、その水はどこか――というか、近隣の水田地帯に流す以外の選択肢がない。そのことを農家たちに話さなくてはいけないシーンも良かった。やることも立場もバラバラだが、各々の願いは皆同じ。必ずしも個人の頑張りではなく、そこが強調されているのが本作の良いところの一つだと思った。

また、この救助の困難さを伝えるギミックとして、洞窟の途中に取り残された作業者に酸素ボンベをつけて入り口へ誘導するシーンがある。そこは入り口からすぐの場所なのだが、作業者は水中でパニックになり大暴れしてしまう。大の大人が、ごくごく短い距離ですらそうなるのに、洞窟の奥の奥にいる子どもたちがそれに耐えられるとは思えない。これが後々最大の障害として立ちふさがってくるわけである。実際にどう対処したのかは本作を観ていただきたいのだが、それを実行していく過程も手に汗握る作りになっている。
それ以外でも、洞窟内を潜水して移動するときの音の迫力や、鍾乳石に阻まれた視界などとにかくリアルで、月並みだが本当に潜っているような気分にさせてくれるのもよかった。

潜水シーン。広い場所以外でロングショット使わない、
被写体に近い閉塞感ある映し方など、うまく緊張感を演出している。

そして、劇中で救助にあたるリックが心情を語るシーンがあるのだが、ダイバー側にかかるプレッシャーや人命救助の現場のリアルを物語っており印象深かった。一ついいことが起こるたびに現場は歓喜に包まれるが、対照的にリックは悲観的になり反発する。これは彼が天邪鬼というわけではなく(そんな性格に描写されてはいるけど)、絶望的な状態からわずかでも光明が差すというのは、事にあたる立場の人間にとって半ば強制的に最高の結果を求められることになるからである。成功すれば称賛されるかもしれないが、失敗すれば間違いなくその責任を咎められるし、なにより自身の関与が招いた結果として心に深い傷を残す。そうした当たり前だがハードな現実に改めて気づかされた。

まとめ

というわけで、実際の事件を扱いながらも事の行く末のみならず、関わった人々の奮闘を描いた作品。変に誰かをヒロイックにせず、故意に誰かを悪者にもしないクレバーな目線ながら、最初は軋轢があった者たちが最終的には目的をひとつに力を合わせる様子など熱い展開なども見られ、2時間があっという間に過ぎていく。人助けのために人はこんなにも団結できるのだという、人間の強さや美しさを描いた良作。結果や詳細を知っていても面白いと思う。

画像:© 2022 MGM Pictures Inc.

Amazon Prime Video
https://www.amazon.co.jp/dp/B0B4593GYF