ゲーム感想「違う冬のぼくら/BOKURA」(アーリーアクセス版)

2023年に講談社ゲームズから配信された2人プレイ専用パズル・アドベンチャーゲーム。ゲーム開発者のところにょり氏制作で、講談社ゲームクリエイターズラボ・第1期受賞作品。知人に「こういうの出たんだけどやる?」といわれたので「OK!」と応じてプレイ。一応、2023年2月時点ではアーリーアクセス版となっている。またプレイする際には相手とボイスチャットできる環境が必須となる(現状ゲーム内機能にはない)。

ストーリー

会社帰りの青年は、揺れる電車の中でふとある冬の出来事を思い出す。それは10歳の頃、一緒によく遊んでいた「彼」との冒険の記憶だった。
あの頃、各々の置かれた環境に鬱屈したものを抱えるぼくと親友の彼は、あるとき会話の流れから家出を決行する。鬱屈の矛先は山の上に建てられた町長の像で、町を睥睨するそれを破壊することを目標に山頂を目指す二人。ところが高い崖を降りた先で鹿の死体を見つけたところから異変が起こり、気がつくと親友は親友の姿をしていなかった。親友の姿だけでなく、目に見えるあらゆるものがそれまでのものとまったく違う姿かたちをしているのだ。親友と会話をしていくと、どうやら片方は自分たちの姿が動物に、もう片方はロボットに見えているらしい。崖を引き返すこともできず、二人は異なる世界を通してお互い会話しながら奥へと進んでいく……というのが導入。

家出をする「ぼくら」。静かな山中を二人で協力して進んでいく。
温かみのあるドット絵が良い感じ。

感想

面白かった。パズルゲーム自体はサイドスクロールで、移動とジャンプ、物をつかむ、垂れ下がった鎖を登るといった直感的でわかりやすいアクション。デフォルメされたドットグラフィックもとっつきやすい。パズル自体も難しいアクションはそこまで必要としないのだが、ここでこのゲーム独自の「見えているものが違う」という要素が立ちふさがる。ストーリーでも触れたが、プレイヤーそれぞれが見ている画面はまったく異なっており、片方は一見ファンシーな動物の世界、もう片方は荒涼としたSFのような世界になっている。
取り組むパズルは同じでも、オブジェクトが違う(ゲームが進むと地形までも変化する)ので、たとえば「そのサイコロをこっちに持ってきて」「サイコロ? どれのこと?」という齟齬が生まれるのだ。ここでプレイヤー同士が「そっちだと何が見える?」とか会話をすることで認識をすり合わせていく必要がある。この会話はゲームの中の「ぼくら」がやっていることとまったく同じという点は非常に巧いと思った。本作はかなりナラティブの比重が高く、パズルの合間合間に入るイベントシーンは長め。物語にしっかり没入させるため、キャラクターとの一体感を高めるこの仕掛けはお見事。

さらにゲームが進むごとに「ぼくら」は別れて行動する場面もあり、そこで得る情報がまったく変わってきたり、さらに片方にしかできないことや片方にしか見えないものなどが増えたりする。ゲームが進行していくとパズル自体も複雑になっていくのだが、それ以上に「認識のすり合わせ」の難易度があがっていくのだ。これはこのゲームならではの体験であり、本作でしか味わえない楽しさだと思う。
また、個人的には余計な要素がないこともすごいと感じた。何を味わってほしいかを製作者が理解しており、それに関係ないものは徹底的に排除されている印象。プレイ時間としては4~5時間程度で、物語の尺もちょうどよく、それでいてしっかりと心に残るフックがある。パズルの解法自体はけっこうカチカチだが、そこへ至るまでのプレイヤー同士のやり取りは千差万別で、後半になるにつれうまくいくと力を合わせて解いた達成感が得られる。価格以上にすごいゲームだと思うのと同時に、閃きだけでなく対話と忍耐が試され、決して誰とでもクリアできる内容でなかったなーということもしみじみ感じた。

「ぼくら」の片方が見ている世界(私はこっちをプレイ)。
ニッコリした動物でかわいいんだけど、この後起こる表現はなかなかエグかったりする。

まとめ

というわけで、インディーズらしい一点突破でありながら、無駄のないゲームデザインと他にはない体験を味わえるパズル・アクション。ゲーム自体もとっつきやすいし、片方がソフトを買っていれば、もうひとりはフレンドパス(デモ版)をダウンロードすることで、コードを入力することで遊べる親切設計。ちなみに私は相手にソフトを買ってもらい遊びました(ありがとう!)。最初にどっちの「ぼく」を選ぶかの選択があり、選んだ方によって見える世界とパズルでの立場が変わるので、もう一度立場を変えて遊ぶこともできる一粒で二度美味しいという面も。ちなみに冒頭で書いたようにアーリーアクセス版なのだが、内容自体はほぼ完成している印象。何が追加されるのかがわからないが、「あれ」の結末がどうなるのかも気になるし、正式リリースされたら購入して違う方の「ぼく」でも遊んでみたい。色んな人にやって欲しいゲーム。

画像:https://store.steampowered.com/app/1801110/BOKURA/

PC(Steam)
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