ゲーム感想「Atomic Heart」

2023年2月に配信された、架空のソビエト連邦を舞台にしたFPS。Mundfish開発、Focus Entertainment販売。現時点でのプラットフォームはPC/Xbox。PS版は4月に発売される予定。

ストーリー

1955年のソビエト連邦。先の大戦以前に科学者ディミトリ・サチノフ博士が「ポリマー」と呼ばれるプラスチック製流状蓄電デバイスを発見(発明?)したことにより、その後20年間でソ連の科学技術力は飛躍的に発達する。労働はすべてロボットに任せ、ソ連の人々は科学と自然が調和した理想郷で繁栄を享受していた。
コードネーム「P-3」ことKGBエージェントのセルゲイ・ナチェフ少佐は、ソ連産業大臣となったサチノフ博士からの任務で3826番施設へと向かう。先の大戦で致命傷を負った彼はサチノフの手によって命を救われた経緯があり、博士には単なる上司部下の枠を超えた恩義を感じていた。しかしP-3を輸送していたドローンが突然不調をきたす。それだけではなく、3826番施設全域にあるほとんどのロボットがおかしくなり、人間に襲いかかってきた。ロボットの制御を狂わせたと思われるのはサチノフの元部下、ヴィクトル・ペトロフ。P-3はグローブに備わった人工知能チャールズとともに、ペトロフを捕らえようと奔走する……というのが導入。

感想

本作については、あまりゲームの情報をじっくり追っていなかったのでなんか急に発表&発売された感があるのだが、古い記事を追っていくと2019年時点ですでに開発が始まっており、そこではインタビューといくつか技術的なゲーム映像を垣間見ることができる。それによるとこの架空のソビエト連邦の土台となったのはスタニスワフ・レム(「ソラリスの陽のもとに」著者)やストルガツキー兄弟(「ストーカー」著者)といったソ連時代のSF作家だそうである。
本作最大の見所はなんといってもその世界観。1955年という時台設定でありながら明らかに現代より進んだ未来感のあるレトロフューチャーなソ連の姿がとにかく素晴らしい。ゲームの物語としても、冒頭で主人公が「チェロメ」と呼ばれるソ連科学の粋を結集して建造された理想郷のような都市を訪れる。一番美味しいところをゲームが始まってすぐにこれでもかと大盤振る舞いしてくれるわけである。ソ連らしい街並みの中をレトロな形状のドローンが飛び回り、工業的な顔立ちの人形ロボットが労働力としてあちこちで稼働している。巨大な建造物や無駄に建てられたモニュメント、人々が手にしている細かい小物に至るまで、いかにも「ソ連っぽい」こだわり抜いたデザインをしているのだ。聞こえてくるのはロシア語の音楽で、クラシック調から電子音のダンスミュージックまで様々。特に音楽に至っては架空のソ連で聴けそうな「良い意味での悪ノリ感」があってとてもよかった。

「チェロメ」の風景。至る所に目を引くデザインのものがあふれている。
個人的にはスクリューやプロペラといった工業的デザインの外連味あるレトロ感にやられた。

ゲームとしての感想は、なんというかFPSRPGの名作「バイオショック」のフォロワーといった印象。マップは小規模な「ラプチャー」(「バイオショック」の舞台)のような閉鎖空間と、複数あるそれらを内包したオープンワールドにパッキリ分かれている。特に狭いなエリアの遊び心地はほとんど「バイオショック」そのまま。FPSではあるものの成長要素があり、プレイヤーのプレイによってスキルの伸ばし方にも差が出る作りになっている。弾薬や回復アイテム、武器、武器アップグレードの設計図のほか、それらの生成に必要な素材、主人公が装備しているグローブのアップグレードに必要な神経ポリマーなどを集めていく。道中の敵をバンバンなぎ倒して進むのではなく、前述の回収をメインに少しずつ攻略範囲を広げてがゲームのメインとなる。
オープンワールドエリアはソ連らしい巨大な構造物などが散見されるほか、メインストーリーには関係のない「試験場」と呼ばれるエリアがある。試験場では通常の戦闘の他に、ゲームのギミックを応用した3Dパズルマップが用意されており、なんか「ソ連版Portal」のようで個人的にかなり面白かった。クリアのご褒美として武器アップグレードの設計図が用意されているが、試験場への扉は基本閉ざされており、それを開けるための手順をそれぞれ踏む必要がある。
遊んでいてなんとなく引っ掛かったのはボリュームに関して。ゲーム全体の総量としては決して少なくはないのだけど、その割り方が大味というか、狭い空間はギュッと遊びが詰まっているが、広いエリアはその広さ相応かそれ以上に薄味……という奇妙な塩梅。メインにしろサブ(試験場)にしろ、一つのエリアの中で「扉を開けるためにエリア内にある4つのエリアでこれらを集める。4つのエリアには別個のステージがあって……」みたいな構造が多く、どのエリアもなかなかハイカロリー。特にゲーム序盤~中盤でそれを強く感じた。
試験場に関しても、一つの場所につき3つのステージ(遊び)がある。もっと遊びを分割して散らしてもよかったのでは、という気がした。収集をしながらじっくり進んでいくタイプのゲームなため、余計長く感じてしまうのかもしれない。またマップが使いづらかったり、音声ログを聞き直そうとしたときに字幕がないといった細かな不便さもある。

ロボットが徘徊しているが人っ子一人いないオープンワールドエリア。
広大な自然に放たれた家畜、整備された道路、ソ連感たっぷりなオブジェなど、シュールな世界。

まとめ

というわけで、圧倒的に独創性のあるグラフィックと音楽が魅力な探索型FPS。「架空のソ連」とか「レトロフューチャー」という言葉にビビッと来る方なら、細かい不満点やゲームの大味さなんか気にならないと思う。それくらい尖っていて、しかもその尖りが鋭い作品。普段高解像度のグラフィック表現にあまり関心がない方だったが、美麗な空想の世界の中を移動できる楽しさを久々に感じられたのでよかった。Xbox game passに加入していればそのまま遊べるのでおすすめ。

レトロフューチャーなソ連と並ぶくらい、ある意味本作で話題のロボット「ツインズ」。
サチノフ博士のボディーガードを務めるのだが、ゲームを進めるととある秘密が明らかに……。

画像:© 2023 Mundfish