映画感想「ニューヨーク1997」

1981年公開のSF映画。監督は「遊星からの物体X」「ゼイリブ」などが有名なSF映画の巨匠ジョン・カーペンター。主演はカート・ラッセル。ほかにマカロニ・ウエスタンでおなじみ眼光鋭い眼力俳優リー・ヴァン・クリーフ、そしてこちらは顔力が個性的過ぎる俳優アーネスト・ボーグナインも出演している。ボーグナイン成分が欲しくなったので何かないかと持っているソフトから選んで視聴。原題は「Escape From New York」。ちなみにゲームクリエイター小島秀夫氏の代表作「メタルギア」シリーズの元となった作品としても知られる。

ストーリー

1988年。アメリカの犯罪増加率は400%を超え、政府はニューヨーク市のマンハッタン島全体を収容所にした。島はコンクリートの壁で覆われ軍と化した警察が常に監視し、橋と水路には地雷が設置されている。内部の管理は囚人たちに自治させていた。
共産圏との第三次大戦が平和的終結に向かいつつある1997年、アメリカ大統領が乗った専用機がテロリストによりハイジャックされ、マンハッタン島に墜落した。大統領は脱出カプセルに入り無事だったが、囚人たちによって囚われてしまう。大統領は世界サミットでエネルギー問題に関する宣言が録音されたテープを所持しており、それを提出しなければ今後の世界情勢がどう転ぶかわからない。刑務所の監視を行う警察署長ホークは、ある男に声をかける。男の名はスネーク・プリスケン、元特殊部隊中尉だったが銀行強盗で終身刑が言い渡され、ちょうどマンハッタン島に収監されるところだった。ホークはスネークへ「罪を帳消しにするから、大統領とテープを24時間以内に取り戻して来い」という取引を提示。スネークは渋々それを呑むが、抗毒薬として動脈に注射したカプセルにはホークの指示で24時間で溶解する毒が仕込まれていた。こうして、スネークは文字通り命を賭けて24時間以内に大統領とテープを奪還するために島に潜入するのだった……というのが導入。

感想

久しぶりに見直したが、2時間足らずながらもやはり面白い作品。
冒頭のクレジットで流れる、今の感覚からするとレトロなシンセサイザー音楽は監督による作曲だそう。音楽家として自作の劇伴までやってしまうのはすごい。本作は画面だけでいうと、決して潤沢な予算で作られた大作とは決していえないのだが(google検索すると600万ドル)、それでもその設定とそれを伝える見せ方で大作SFに引けを取らない説得力がある。これは今見ても感想は変わらなく、演出の工夫の賜物だと感じた。象徴的なのが、冒頭で脱獄者をヘリで攻撃するシーンでの停電したマンハッタン島の摩天楼。アルカトラズ刑務所をさらにスケールアップさせ、囚人による自治という聞こえはいいが事実ただの無法地帯にしてしまうという設定は、おそらく当時のアメリカ人にとって相当斬新だったのではないかと思われる。自由の女神の足元に、武装警察がガッチガチの監視体制を敷いているという皮肉も面白い。

オープニングでの停電したマンハッタン島。
見知った風景と設定の組み合わせでリアリティあるSF背景に見せている。

また、本作は無愛想でニヒルな主人公、タイムリミットがある世界の命運がかかった任務に一人で挑むというヒロイックな状況、そして任務に挑むにあたり支給される武器などなど、このいかにも男の子が好きそうなものを詰め込んだな、という感じが素晴らしい。個人的には特にこの装備品の中に手裏剣が含まれているのがポイントが高い(ちなみにちゃんと使う)。キャラクターも強烈で、アイパッチをつけた主人公スネークはもちろん、リー・ヴァン・クリーフ演じる警察署長ホークも激渋でかっこいいし、今回観直すきっかけになったアーネスト・ボーグナインは、マンハッタン島内でタクシードライバーをするキャビーを演じている。本作ではコミカルな癒し系的役回りとして顔芸を披露してくれる。

見づらいが後ろからスネークに銃をつきつけられているキャビー。
NY市が収容所になる以前からタクドラやってるらしいので、罪人ではなさそう。

本作の根底にあるのは「命の軽さ」であり、これが世界観に凄みを与えていると思う。本作に出てくる人物の多くがスネークや人間の命を軽んじ、また取るに足らないものとして扱う。マンハッタン島の囚人を支配するデュークはもちろん、そもそも警察署長のホークもスネークが逃げられないように毒カプセルを注入するし、救助対象である大統領ですらクライマックスでとんでもない行動に出てスネークの命を危険に晒すのだ。
かといって全員がそうというわけでもない。特にマンハッタン島で出会うマギーの選択に関して、スネークはある種の敬意を抱いているように見える。それ以外の、他人の命を軽んじるそういう人間が出世して地位を得ているのであり、スネークが終始苛立っているように見えるのはそうした連中と社会に対する怒りであるように感じた。だからこそラストシーンのあの問答(そして痛快さ)だし、無精髭にアイパッチのこの主人公がまともでかっこよく見えるのだと思う。

無愛想でニヒル、権威に屈しない反骨精神を持ったダークヒーロー、スネーク。
冷徹でダーティ、だからこそ終盤のあるシーンで彼が見せる表情がまたたまらない。

まとめ

というわけで、工夫を凝らした設定とアイデアが秀逸なSF作品。主人公が世界を支配する権威に迎合しない姿勢、また過去があまり語られない点にどこかマカロニ・ウエスタン的な要素を感じなくもない。また、スネークが潜入する際、グライダーによって降下する場所がワールドトレードセンタービルの屋上というのも、今見るとなかなか感じ入るものがあった。

最後に、リー・ヴァン・クリーフ演じる警察署長ホークのご尊顔。
ポジション的にはスネークをこき使う立場だが、相変わらずかっけえ。

画像:© 1981 STUDIOCANAL S.A.