映画感想「女ガンマン・皆殺しのメロディ」

1971年公開の西部劇。監督はバート・ケネディ、主人公である女ガンマンのハニーを演じるのはラクエル・ウェルチ、彼女の師匠役にロバート・カルプ。他に、ガンスミス役としてクリストファー・リー、悪役のひとりエメットをアーネスト・ボーグナインが演じるなど、けっこう有名どころが出演している。まさかAmazon Prime Videoのラインナップにあるとは思わなかったので、見つけて視聴。

ストーリー

エメット、フランク、ルーファスのクレメンス3兄弟は、その近辺で悪党として知られていた。彼らは銀行を襲おうとしたがうまくいかず、自警団に追われ街から荒野へと逃れる。失敗の腹いせに見つけた牧場の馬を盗もうとしたところ、銃を携えた牧場主コールダーが現れ彼らを牽制。しかし、隠れていた兄弟の一人によってコールダーは射殺されてしまう。クレメンスらが家へ押し入ると、そこにはコールダーの妻ハニーがいた。3兄弟は彼女を代わる代わる乱暴したあげく、家を燃やして去っていく。
一瞬にしてすべてを奪われたハニーは彼らに復讐することを誓い、道中で出会った賞金稼ぎプライスに「銃の撃ち方を教えて欲しい」と頼み込む。最初は断られるも、見かねたプライスによって晴れて彼の弟子になったハニーは、復讐を果たすために彼と行動をともにするのだった……というのが導入。

家、夫、自分の体……と、無茶苦茶にされたすべてがおさまったショット。
こういうわかりやすさは本作の良いところであると思う。

感想

久々に見た西部劇。ただしマカロニ・ウエスタンではなく、撮影ロケ地はマカロニと同じスペインだそうだが監督や役者の大半はアメリカ人、しかも制作はイギリスという珍しい作品。テイストとしては当時ブームだったマカロニ・ウエスタン要素に寄せており、さらに女性が主人公で当時のセックスシンボルだった女優ラクエル・ウェルチという、かなりの色物西部劇となっている。
特徴としてはやはり「夫を殺されレイプされ家も失った女が悪漢らに復讐する」というあまりに単純明快なプロットだろう。一応ここにガンマン修行要素が入っているが、マカロニ・ウエスタンだってもう少しひねるんじゃないかと思うくらい、良くいえば余計な要素がなく悪くいえば単調な復讐ものとなっている。まあこれは結局作品としてのフックが主役のラクエル・ウェルチであるというところで、内容を複雑にしてもしょうがないと判断したのかもしれない。実際本作のパッケージは裸の上にポンチョ(というより毛布?)をまとい、そのままホルスターを巻いて生足を晒した大変色気があるものとなっている。ただ作品内では弟子になった途端に師匠から「ズボンとブーツを買え」と金を渡され、ちゃんとズボンの上からホルスターを提げるのでパッケージほど露出度は高くない。
見た感想としては、見やすいがところどころ中途半端な部分が気になった。中でも一番気になったのは、悪役であるクレメンス3兄弟が憎き敵役であるにも関わらず全然かっこよくないという点。冒頭で彼らは白昼堂々銀行強盗を行うが、その計画はよく考えなくても無謀そのものであり、徐々に彼らが大胆なことをやってのける極悪人ではなく頭の悪い杜撰な連中であることがわかってくる。ハニーが銃の扱いに慣れていくその一方、悪漢三人組は珍道中というかドタバタ失敗劇を繰り広げ、そのたびに彼女はこんな連中にすべてを奪われたのかと微妙な気持ちになった。徹底的に人の心のないワルにしたほうがカタルシスがあると思ったし、特に個人的に好きな役者であるアーネスト・ボーグナインの強烈な「顔力」あるシーンがほぼ見られなかったのも非常に残念だった。

それでも全てがそんな感じなのかというとそうでもなく、冒頭でクレメンス3兄弟が銀行に押し入るシーンでの水平二連ショットガンの銃口越しのカメラショットなど面白い見せ方だなあと思った。さらに、ガンスミスがハニーのために作った特注のリボルバーは、撃鉄が銃の背(くの字でいうところの出っ張り)にあるのではなく引き金の下にあるという変わり種銃。鋳造過程もありこういうのはマカロニらしくて良いのだが、この面白拳銃をじっくり見られる箇所がほとんどないというのもまた惜しいところ。

ハニーのリボルバー、の全体が一番よく見えるであろうショット。
トリガーガードの下に指をかける箇所があり、実際特訓の際にもこれを握っているのがわかる。

ストーリーについても、ハニーが挫折しながらもガンマンとして成長するにつれ、師匠の心情が変化していく感じも男女師弟らしさがあってよかったと思う。訓練を受け実戦を経験したハニーが次々と復讐を果たしていくところもそれなりに痛快ではあるのだが、クライマックスだけは……唐突すぎて唖然としてしまった。

まとめ

というわけで、シンプルなプロットと主演のラクエル・ウェルチで押し切った、英国製マカロニ風の復讐西部劇。西部劇の中でも色物の部類だし、気になる部分も多いが最大の売りであるラクエル・ウェルチは色っぽくてよかった。そのラクエル・ウェルチはつい先日(2023年2月)に82歳で亡くなられたそうで、ご冥福をお祈りします。

画像:© 1971 TIGON BRITISH FILM PRODUCTIONS LTD.

Amazon Prime Video
https://www.amazon.co.jp/gp/video/detail/B08H9L8KBK/