映画感想「ガンズ・アキンボ」

2019年、イギリス、ニュージーランドのアクション映画。「ハリー・ポッター」のダニエル・ラドクリフ主演、ジェイソン・レイ・ハウデン監督作品。殺し合いを中継する闇サイトに過激なコメントをした主人公が、そのサイトをする組織に襲撃され、両手に拳銃を固定され、殺し合いの選手にされてしまうというお話。「スイス・アーミー・マン」を観た流れで視聴。

主人公マイルズは冴えない青年で仕事はゲームプログラマー。会社ではマッチョな上司にいじめられ、仕事内容にも不満。彼女のノヴァとは別れたばかり(でもマイルズは未練タラタラ)。気弱な彼のストレス発散は、ネットの掲示板やコメント欄に攻撃的な書き込みをすることだった。
この世界では犯罪者同士に殺し合いをさせ、それを生中継する闇サイト「スキズム」が流行し社会問題となっており、マイルズは酒の勢いも手伝ってそこでも大暴れ(もちろんコメ欄で)。それがスキズムを運営する組織の怒りを買い、マイルズは家に押し入られ拉致されてしまう。目が覚めると、彼の両手には拳銃が握られ、直接ボルトやビスで固定されていた。そこにスキズムからメールが届く。「連勝中の殺し屋『ニックス』と戦い、24時間以内に彼女を殺せ」――元恋人に助けを求めようとしたマイルズだが、そこへ「スキズム」の対戦相手であるニックスが現れ、彼はそのままスキズムの見世物として戦うことになるのだった。

目覚めたマイルズの両手は拳銃のグリップに固定されていた。
動画だとあまり見えないけど、静止画でまじまじ見るとなかなか痛々しい。

アキンボとは本来「肘を曲げ両手を腰に当てた」ポーズのことだが、西部劇で2丁拳銃のガンマンが左右のホルスターに手をかける様子に似ていることから、2丁拳銃という意味も含むそう。聞き慣れない言葉だがゲームなどでたまに使われることもある。ポスターやパッケージでは両手に銃を持つという攻撃的なポーズを取りながら本人は実にイヤそうな顔をしており、そのギャップがこの作品を象徴していて良い。

本作はネット漬けのオタクが主人公ということで、まずは冒頭から随所にゲームのような演出や表現がされているのが特徴。マイルズの両方の銃の段数がゲームのUIのように表示されたり、キャラクターが吸入器や薬物などを吸ってハイになったときに回復、あるいはパワーアップしたような演出が入ったりと、わかりやすくゲームらしい表現が差し込まれる。
ニックスに襲撃され命からがら自宅から逃れた彼の格好はシャツ+パンツの上にガウン、足は虎足スリッパと、ゲームのアバターにありそうな変な格好そのままだったりと、全編にわたってそうしたネタがちりばめられている。かといって実在するゲームのこれというパロディは少なく(無理やり当てはめることはできるが)、ほとんどはあくまで「っぽい」レベルにボカされており、何のネタかわからなくても問題ないと思う。

また、殺し合いが軸になっているので暴力描写、人体破壊描写はかなり過激。そもそも、この映画最大の売りである「銃を固定されちゃった」はもちろん、凄腕の女殺し屋ニックスが犯罪者の巣窟に単身乗り込んで殺戮するシーンなども、血飛沫や肉片が飛び、体があらぬ方向へ曲がるなどなかなかのもの。内容もぶっ飛んでいるのである。また、ニックス役のサマラ・ヴィーウィングの邪悪な笑みは相当仕上がっていて最高。

マイルズを狙う凄腕の殺し屋、ニックス。
まあこの映画らしい、やりたい放題でぶっ飛んだキャラクター。

そして、本作の面白さはそうしたゲーム表現や過激な描写だけではなく、ネットの世界だけで意気がっていた男がそれを完全に取り上げられた状態で戦わなければならない点にある。「拳銃を両手に固定される」羽目に遭ったマイルズは、手で行うおおよそのことができなくなってしまう。着替えはできないし、トイレでまともにおしっこもできない。何より彼にとって最悪なのは、パソコン操作やスマホが満足に扱えなくなることだろう。心の拠り所を完全に奪われたマイルズは、現実で敵と向き合い打ち破ることを余儀なくされるわけである。ゆえに最初はひたすら逃げ回っていた「何もない」彼が、徐々に立ち向かうことを覚え「戦う男」へと変貌していく様子が痛快に映るのだ。それは心地よい一方で、そのたびに劇中のスキズム視聴者たちが沸き上がるところも同時に見せてくるので、「今きみはこいつらとシンクロしているんだぞ」という皮肉も同時に突きつけてくる。またネットと現実を同列に扱うようなスキズム組織のボスの振る舞いは、これから先の時代の犯罪者マインドをけっこう捉えているんじゃないかと思った。

というわけで、バイオレンスと不謹慎マックスなアクション作品。話の流れ自体は途中で大体想像できるものの、初めから終わりまでハイテンションで突き抜けていくのでダレる場面がない。劇中でのけじめのつけ方も含めてクール。こういうド直球B級アクション映画は今後も作られていって欲しい。最後に、ダニエル・ラドクリフがキレ散らかすシーンホント好き。

画像:© 2019 Supernix UG (haftungsbeschrankt)