映画感想「パラサイト 半地下の家族」

2019年、韓国製作のブラック・コメディ映画。ポン・ジュノ監督作品、ソン・ガンホ主演。第92回アカデミー賞で作品賞を含む4部門を受賞した作品で、PG-12指定。Amazon Prime Videoに入ったので視聴。

キム一家は、半地下のアパートに住む貧乏4人家族。仕事の長続きしない父ギテクは肝っ玉母ちゃんチュンスクにどやされながらも内職でどうにか食いつないでいる。その貧しさは相当なもので、ネットは近所のWi-Fiにただ乗り状態、大学浪人の息子ギウや同じく美大浪人中の娘ギジョンは当然予備校なんて通えるはずもない。
あるときギウの友人が家を訪れ、海外留学する自分の代わりに金持ち家族の娘の家庭教師をやらないかと言ってくる。浪人の自分なんか雇ってくれないとギウは躊躇するが、友人の押しや高い報酬もあって大学生だと嘘をついて引き受けることに。妹のギジョンに入学証書を偽造してもらったギウはケビンという偽名を使い、金持ち家族パク家の夫人、そしてその娘にも気に入られ見事働き口をゲットする。
そしてパク家には娘の下に小さな弟がおり、夫人はその芸術的才能を伸ばしたいと考え美術の家庭教師も探していた。ギウは妹ギジョンを、ジェシカという「留学経験のある美術家庭教師」として引き合わせる。ギジョンは「弟さんは心に何かを抱えている」とネットで調べた芸術療法を夫人に語ることで信頼を得、弟の家庭教師として採用される。こうして、自分たちとはまったく住む世界のパク家に潜り込んだキム兄妹は、次に父親、母親をパク家へ引き込もうと画策する……というのが序盤の流れ。

半地下に暮らすキム家の食卓。
極貧オブ極貧だがギテクの気楽さもあり、狭いながらも楽しい我が家感がある。

かなり面白かった。前半は極貧一家キム家が豪邸に住む資産家のパク家へ「パラサイト」していく様子がコメディ要素多めでテンポよく描かれる。このトントン拍子かつだんだん強引になっていく展開を見ていて、自分は「こち亀」に近いものを感じた。その流れでいくと絶頂期の後に待っているのは大転落。しかし本作はただ急転直下ではなく、そこからさらに予測できない展開へと進んでいく。といっても納得感や現実味のある範疇であり、思わず「そう来たか!」と唸ってしまった。会話劇主体の前半、動きのある後半とメリハリがあるのも良い。

主人公の家族が金持ち一家を騙すという前情報から良いイメージはまったくなかったが、実際観てみると印象は違って見える。半地下で暮らすキム家は生活こそ貧しいが、夫婦や親子それぞれの関係は悪くないのだ。子供たちが親の内職に協力するなど生きていくために家族一丸となっている様子も描かれ、決して異常な家族というようには見えないようになっている。この辺りの好感度のコントロールはかなり気を遣っているのではないかと思う。
家族が一人またひとりとパク家へ近づき、それぞれが一流のプロフェッショナルとして振る舞う姿は貧乏暮らしの本性とのギャップで笑える。貧乏家族それぞれが人間味あふれており、特に温和な父ギテクがよかった。楽天的だが負の感情がまるでないわけではないし、あえて計画を立てないという頑なさは過去にそれで相当な失敗をしたのだと想像できる。パク家の主人に対し何度もある言葉を投げかけるのは、同じ人間だと思いたかったのだと思う。単純でなく、いろんな深みを讃えた人物に仕上がっている。

ダメ親父のギテクだが、映画の端々で凄みある表情を見せる。
見た目と役割以上のものが詰まった繊細なキャラクター。

そのほか、天候や場所を使った表現が素晴らしいと思った。キム家の半地下とパク家の豪邸の最大の違いは、家自体の広さもあるが一面芝生の広い庭だと思う。その庭はキム家の状況を象徴しているようで、降り注ぐ陽光の下でギウが芝生に寝転んで本を読むシーンなどはそれをよく表している。そこに大雨を降らせる画を見せることでこの先に訪れる不穏や波乱を思わせ、非常にわかりやすく巧い。物語のクライマックスで庭が使われるのも納得。また小道具の使い方もうまく、特に携帯電話の存在がこの映画ではかなり重要。

というわけで、どう終わるのかまったくわからない、良い意味で「途中から先が読めない」作品。社会派映画という側面もあるが、韓国の貧困状況などがわからなくても充分面白かった。特にとある国のネタはたぶん全世界共通で笑えると思う。貧乏一家のドタバタ劇が徐々に闇を帯びていく様子にも目が離せないし、最後は個人的に清々しい終わりでとてもグッときた。これだけ色々詰まっていればそりゃ評価もされますわ。おすすめ。

画像:Ⓒ2019 CJ ENM CORPORATION, BARUNSON E&A

Amazon Prime Video
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