ゲーム感想「ゼルダの伝説 スカイウォードソードHD」

2021年7月発売のアクションRPG。ハードはNintendo Switch。開発、販売は任天堂で、同社が誇る看板IPのひとつ「ゼルダの伝説」シリーズ作品。元は2011年にWiiで発売されたソフトで、Wii特有のデバイスである「Wiiリモコンプラス」を使い、リモコンを振るとそれに合わせてゲームの中の主人公リンクも同じように剣を振るという、プレイヤーの動きと連動した操作が大きな特徴だった。本作はそのHDリマスター版で、リモコンの代わりに本体から切り離せるジョイコンを使って同じことができる(コントローラーで遊ぶことも可能)。
もう一つの注目点として、本作を含め「ゼルダの伝説」シリーズは数多く展開されているが、本作「スカイウォードソード」はシリーズで重要な役割を持つ伝説の剣「マスターソード」をはじめ、他の様々な作品に共通、継承する設定の元ともいうべき物語が描かれている。Wii版は未プレイだったので、期待してプレイ。

本作の世界観では、人々は空中に浮かぶ島「スカイロフト」に住んでおり、ロフトバードと呼ばれる巨大な鳥に乗って島間を行き来している。地上と空は厚い雲海で隔てられており、ほとんどの人々は地上のことを気にも留めずに生活していた。
主人公のリンクはスカイロフトの騎士学校の生徒で、騎士として認められる鳥乗りの儀式を迎えた日から物語は始まる。無事儀式を終えた後、リンクは幼なじみの少女ゼルダとロフトバードで空を散歩するのだが、その際に竜巻に巻き込まれ、ゼルダは地上に落下してしまう。その日の晩、リンクの目の前に光が現れ、彼をスカイロフトに古くから存在する巨大な女神像の内部へと導く。光の正体は剣の精霊ファイで、ゼルダはまだ生きていることを告げる。
リンクは精霊ファイに促され台座に刺さった「女神の剣」を引き抜き、ファイとともに地上へゼルダを探しに旅立つ、というのが冒頭のお話。

空を翔けるリンクとゼルダ。シリーズを遊んでいる方にとっては、
厳かな雰囲気のまったくない、気の強い幼なじみ的なゼルダは新鮮かもしれない。

公式サイトでも「ゼルダの伝説のはじまりの物語」と宣伝しているだけあり、ストーリーやイベントに力が入っている印象。登場するキャラクターもくどいくらいに個性をアピールしてくる。個人的には、ただの嫌なモブキャラだと思っていたバド絡みの部分はとてもよかった。あとは口の悪いサルベージロボットも好き。
そしてシリーズの伝統というか、その礎となる今回も「音楽」(歌)がキーアイテムとして有効になってくるのだが、印象的なフレーズや、シリーズお馴染みの音楽が流れるシーンなどではその演出に思わずグッときてしまった。

ゲームとしては、ロフトバードに乗って空を飛ぶパートと、そこから地上の各地方へ降下し、降り立った先の大地やダンジョンを冒険する地上パートに大きく分かれる。雲に覆われているせいか、ロフトバードは地上までやって来ないために地上を飛び回ることはできない。
全体的な印象として、パッケージなどから広大な世界を行き来するという印象を受けるが、基本的に空の拠点スカイロフトのほかはいくつかの小島があり、大地は広いものの3つの地方のみ。ストーリーの進行でそれらを何度も行き来するのことになるので、新たな場所に対する興奮や驚きはそれほど感じない。ただし都度謎解きや新しい障害が設けられ、退屈はしない用に作られている。

遊んでいて感じたのは、とにかくシリーズの代名詞ともいえる「謎解き要素」が全面に押し出されていることと、その完成度の高さである。ダンジョン一つとってもプレイヤーが通る道順や謎の提示される順番など、そこで展開されている要素はとにかく考え抜かれている印象。謎を解いて最後までたどり着くとすべてのピースがピタリと嵌まって完結し、ストンと腑に落ちるという無駄のなさで、見事としかいいようがない。
特にヒントの提示が個人的に秀逸だと感した。謎解きに関わる箇所やものなど、デザインや登場を奇抜にするなどして記憶に残るような工夫もされているし、道中で手に入れたアイテムはその使用方法、応用方法まで丁寧に提示してくれる。基本的に謎解きは今あるものでなんとかなるようになっており、ダンジョンであればその中で完結し、どこか別の場所へ行かなければならない場合はそれを知らせてくれる。また、行き詰まったときなど精霊ファイからヒントをもらえるのだが、それも直接的な答えでなく、プレイヤー側の閃きや気づきを促すものに留まっており、自分で解いた感触を得られる。この辺りのさじ加減のうまさは一朝一夕でできるものではなく、長年シリーズで培ってきた職人技の域のように思う。

ただその反面、メインストーリーやダンジョンの攻略などほぼ一本道でカッチリし過ぎていて、作り手が用意した答え以外の解法がほとんどなく窮屈だとも感じた。今作に限ったものではないが、この一つの正解だけで緻密に構築された芸術品のような謎解きは、2017年の「ゼルダの伝説 ブレス・オブ・ザ・ワイルド」とは別の、ある意味で対極の極北に位置するものだと思う。同じ謎解きを主体にしたゲームでありながら、「ブレス~」は解法が無数に存在し、攻略も自由度が高い。そもそも「ブレス~」は「ゼルダの『当たり前』を壊す」というコンセプトの元に作られた作品といわれている。どちらが正しいというわけでもないが、「ブレス~」の自由度が高く開かれたゲームデザインを含めて考えると、本作「スカイウォードソード」は、まさにそれまでの「当たり前」が煮詰まったような作品といえる気がする。

そして、今作の肝ともいえるジョイコンを使って剣を振るジャイロ操作について。
一応最後までジョイコン(ジャイロ)操作でゲームをやり通したのだが、結局最後まで狙った方向、狙ったタイミングで剣を操ることは「完璧には」できなかった。たとえば「上から下に剣を振り下ろしたい」ときなど、ジョイコンを上に振りかぶるのが自然な動作だが、その振り上げた際の動きを感知してしまい下から上への斬り上げが出てしまう、といったことが頻繁に起こる。ゆっくりと振り上げると感知しなかったり、もしくは振り上げずその位置からジョイコンを振るなど対処方法もあるのだろうが、そういった不自然な動作を強要されるのは直感操作とは言い難いように思う。

剣の振りについて、縦横斜め8方向に各2パターン(振り下ろしと斬り上げ)、さらに突きや回転斬りがある。
なかなか種類が多く、狙って出すのが難しい……!

特に一部の、主に人間型の敵との戦いでは大抵こちらの剣攻撃を受け流してくるので、なかなかダメージを与えられない。ここでも「ゼルダ」シリーズ的な謎解きがあり、狙った方向やタイミングで剣を振る必要があるのだ。これは「ゼルダ」の文法だけで戦える巨大なボスに比べ、かなり難易度差があったように思う。
また、照準を合わせるアイテムは頻繁にジャイロの向きをリセットする必要があったり、ロフトバードやビートルなど、ジョイコンの向きだけでなく旋回(正面に向けたまま、ねじるように傾ける)操作との使い分けもわかりにくい部分があり、全体として独自性や爽快感、楽しさと同じくらい、難しさや煩わしさを感じた。
人間型の敵との剣戟など、こちらが直感的に操作できれば確かに面白そうなのはわかるのだが、剣で突破しようとするより、盾による弾き主体で戦ったほうが圧倒的に楽だと思う。もちろんまったく遊べないレベルではないし、なんだかんだ思い通りの斬り方ができると楽しいので、精度の高い動きができる方なら楽しめるだろう。

というわけで、「ゼルダ」シリーズ全体の世界観を形作る物語と、「ブレス~」へと繋がる直前の「当たり前」が凝縮された作品。とはいえ剣操作など新しい遊びへの挑戦も見られ、なんだかんだで当たり前どころか尖っている気もする。とにかく謎解きの構築とバランスが素晴らしいのでおすすめ。「ブレス~」のなんでもありな謎解きが合わなかった人、物足りなかった人なんかは、もしかするとしっくりくるかもしれない。

画像:https://www.igdb.com/games/the-legend-of-zelda-skyward-sword-hd/presskit

公式サイト
https://www.nintendo.co.jp/switch/az89a/index.html