映画感想「バッドマン 史上最低のスーパーヒーロー」

2022年公開の、フランスで製作されたコメディ映画。フランス映画版「シティー・ハンター」で監督と主演、脚本を手掛けたフィリップ・ラショー作品。本作でも監督と主演、脚本を兼ねる。Amazon Prime Videoにて視聴。

ストーリー

映画スターになることを夢見る、売れない役者セドリック。警察署長の父親からはまともな職につけといわれ、優秀な妹と比較されている。交際していた彼女とも別れどん底だった彼だが、運良く新作ヒーロー映画「バッドマン」の主役に抜擢される。友人や妹からも祝福され、張り切るセドリック。体を鍛えて臨んだ撮影初日も色々ありながら無事に終わった直後、「父が負傷した」と妹から連絡が入っていた事を知る。気が動転したセドリックはヒーロー衣装のまま撮影用の車に乗り込み病院へ向かうのだが、その道中に車が暴走し事故を起こす。頭を強く打ったセドリックは、自身の名前や過去の記憶を失っていた……というのが序盤。

バッタモン感あふれるヒーロー「バッドマン」。
後ろのバッドサイン? の不格好さも、本編を見ればなるほど納得で突っ込みたくなる。

感想

「シティー・ハンター」同様、ラショー監督が全力でおバカ、下ネタ、ブラック・ジョークをやりきっている。本作のタイトルにもなっている「バッドマン」は、黒い「バッドスーツ」に身を包んだヒーローが「バッドモービル」で街を駆け回り、宿敵であるヴィラン「ピエロ」と戦いを繰り広げるという、名前も設定もDCコミックスの某ヒーローのパロディ。それは映画内でも言及されており、要は「しょうもないパロディ映画のヒーローに選ばれた」という体になっているのだ。そして、記憶喪失になったセドリックは自身の姿や置かれた状況から「自分はスーパーヒーローである」と勘違いするわけである。このパロディをメタ的に扱った設定はひねりが利いている。
基本的にはそうしたシチュエーションコメディの中で、男前のラショー監督が酷い扱いを受けたり下半身を露出したりするほか、女子供や動物が潰されたり吹っ飛んだりとお得意のギャグが全体に散りばめられている。セドリックの親友からして「治験の副作用で幻覚を見る友人」、「その母親と付き合っている友人」という、どうしたらこんな設定思いつくのか頭が痛くなるろくでもなさ。そしてギャグの弾数の多さは流石で、コメディとしては圧倒的に正しい。そんな中でも、自分のことで手一杯だったセドリックが「オレはヒーローなんだ」という自覚(勘違い)から誰かを助けようと奮闘する。また父親との関係改善や親子愛など、ちゃんとした物語に繋がっていっているのは面白いし、その上でその湿っぽさを打ち消すコメディパート(劇中のほとんどだが)のしょうもなさも、一周回って偉いと言わざるをえない。
また、本作のテーマにもなっているアメコミパロディも細かい知識は不要。ネタ元の「バットマン」に拘らず「アベンジャーズ」パロディもやっているが、おおよそ個々の作品を知らなくても「っぽさ」だけで笑える範疇に収まっている。(劇中劇の)役者も内容も二流なのに小道具だけはなぜかガチめに作ってあったり、映画製作であるところを逆手に取ったりと、このシチュエーションでなければできない笑いが込められている。

スーツの小道具(のホロ映像)で自身がヒーローだと勘違いする、記憶喪失のセドリック。
置かれた状況的な自然さと、オーバーテクノロジーな小道具の不自然さに脳がヤラれる。最高。

まとめ

というわけで、アメコミを題材にしたいい意味でしょうもない、しかし満足度の高いコメディ作品。下ネタが大丈夫でラショー版「シティー・ハンター」がツボに入ったのであれば本作も安心して楽しめると思う。ちなみに吹替版の声優がとても豪華なので、吹替版をおすすめ。

Amazon Prime Video(吹替版)
https://www.amazon.co.jp/gp/video/detail/B0B8PGNLGG