ゲーム感想「Twelve Minutes」

2021年8月配信のアドベンチャーゲーム。開発ディレクターはロックスターやubi softなどで活躍したLuis Antonio氏がつとめ、 Annapurna Interactiveが販売する。本作はいわゆるループもので、家に帰宅した直後から12分を延々繰り返しながら、自分や妻のサラにふりかかる危機を回避し、ループから脱出するのが目的。ジェームズ・マカヴォイやデイジー・リドリー、ウィレム・デフォーといった有名俳優が人物の音声を担当している。

物語は、主人公のアーロンがいつものように自宅のアパートメントに帰宅するところから始まる。妻のサラが迎え、好物のデザートを作ってあるからあとで食べましょうなんて言ってくれる。そんな幸せな時間は、ある人物の来訪で無残にもぶち壊されてしまう。最悪の出来事が起こった直後、主人公はまた部屋に戻った状態に戻っていた。さきほどと同じように妻のサラが迎え、好物のデザートを作ってあるからあとで食べましょうなんて言ってくれる。自分がタイムループしていると悟った主人公は繰り返す時間からの脱出を試みるが、そのなかなか酷い目に遭う運命から逃れられず、さらに妻が隠している秘密や来訪者の目的などそれまで知らなかった様々なことが明らかに……と、狭い空間を舞台に、いかにもループものらしい筋書きになっている。

本作は室内を真上から見下ろしたトップダウン式のゲームとなっている。国産ゲームではあまり採用されない視点だが、海外ではわりと昔からよくある形式。部屋の中にはアクセスできるものがたくさんあり、手にしたアイテムを置いてあるものに使用して変化させたり、人物に見せることでそれに関連する情報を手に入れたりすることが可能。できることの幅はかなり広く、中にはゲームのクリアとは何ら関係のないものもある。限られた時間の中で対策を練ったり、ループの中で手に入れた情報を使って新たな分岐を作り出していく。こうしたアクションは、会話中や特定のシチュエーション以外なら自由に行うことができ、それを行ったタイミングでも結果は変化する。これだけで、家の中という空間でありながら膨大な選択肢の数になっている。
ゲームはコントローラでプレイもできるが、マウス操作の方が気になる場所を調べたりアイテムの使用などにおいて断然遊びやすいと思う。

ゲームの進め方によっては、妻とダンスを楽しむこともできる。

有名俳優が声を当てていることからも想像できるが、本作は非常に「映画的」なゲームである。といっても長いムービーやイベントシーンを垂れ流すわけでもないし、そもそもゲーム画面的にはほとんど見下ろし視点であり、人物の顔を映すというような映画らしい画もほとんど出てこない。にも関わらず映画的だといえるのは、元々「ループもの」というジャンル自体が同一シチュエーションを繰り返すためにゲームと親和性が高いということと、ループものであるがゆえに「結果(ストーリー)の変化」こそゲームプレイによる最大報酬、という式が成立するからだろう。
このゲームにおけるゲームプレイは、ループもの映画にありがちな「試行錯誤」そのものである。最初はできることやアクセスできる物が多すぎてどれをどの順番で捌いていけばいいのかわからず戸惑うが、ループを繰り返すうちに、部屋に入ったらまずこれをやるべきというルーティンができていく。この成長過程は、ループに嵌って最初戸惑っていた主人公の動きが徐々に洗練され、後半で無駄なことを一切しなくなるという映画の展開そのままであり、追体験として非常に優れているといえる。
こういう作品は良くも悪くもストーリー次第なところがあるが、本作は重要な情報や事実にたどり着くたびに出来事や人物に対する見方が変化したりと、かなり手の込んだ作りになっていてサスペンスとして非常に楽しめる。また、それまで積み上げてきたルーティンとは別にまったく新しい方向から真実に迫っていくことを余儀なくされることもあり、狭い自室で繰り広げられる物語にしては多彩な展開が繰り広げられる。「ループからの脱却」という主人公とプレイヤーの目的が同期しながら進行するため、没入感はかなり高い。まあ、それゆえに着地のさせ方にはちょっと賛否があるのもわかる。全体としては非常に質が高かったと思う。

というわけで、映像が映画的なのではなく体験が映画的な作品。ゲーム自体はこれ見よがしなヒントというものは少なく、難易度は高め。しかしこれ以上に映画らしいゲームというのもなかなかなく、著名ゲームクリエイターの小島秀夫氏が絶賛(下記リンク参照)というのもうなずける。
ただ一点、ゲームプレイ時間が5~8時間と短めのわりに価格は3000円弱と非常に強気な部類なので、よほどプレイしたいという人でなければセールなどのタイミングを待つのがよいと思う。xboxゲームパスに加入していれば無料でプレイできるとのこと。

画像:https://www.igdb.com/games/twelve-minutes/presskit

PC(Steam)
https://store.steampowered.com/app/1097200/Twelve_Minutes/?l=japanese

Xbox
https://www.microsoft.com/ja-jp/p/twelve-minutes/9p55tjkcl1bc#activetab=pivot:overviewtab

スリラーADV『Twelve Minutes』を小島秀夫氏が絶賛。監督をうならせた、死のループを繰り返す12分間(Automaton記事)
https://automaton-media.com/articles/newsjp/20210821-173148/