ゲーム感想「Loop Hero」

2021年3月5日配信。Four Quarter Team開発、Devolver Digital販売。
発売後1日で15万本→1週間で50万本と凄まじい売上を更新しており、インディースタジオとしてはホームラン級のヒットといえるだろう。ドット絵の非常にレトロなヴィジュアルで、この時代にこれだけ売れるというのは非常に夢のある話である。もちろん、本作はヴィジュアルのゲームというわけではない。

本作はローグライトゲームである。ローグライトの定義は深く掘り下げると説明が膨大になるので端折るが、要するに毎回ゲームプレイが変わるランダム性と、高いリプレイ性を持ったゲームという感じである。そして、本作はそのジャンルとしてのシステムを、違和感なくストーリーや世界観と紐付けている。
あるとき空は闇に包まれ、やがて地上をも飲み込んでしまった。主人公(ヒーロー)は記憶をなくし、暗黒の世界をさまよっている。ただひたすら目の前の道を進んでいく。道はループしているようで、何度も同じ焚き火に出くわす。そして世界は旅立つ度に形を変えているようだ。しかし焚き火の周りには、難を逃れた人々がわずかながら集まり始めていた。皆は記憶をなくし、世界がかつてどんな形をしていたのか憶えていない。主人公は焚き火を拠点として施設を建設し、集まった住民たちの力を借りながら世界をまっとうな姿に戻すために奮闘する、という感じ。
「不定形の世界」という設定は個人的に好きなのだが、闇に包まれた状態というのがレトロゲームにありがちな真っ黒画面の説明になっているのはなるほどうまいと思う。

ゲームプレイは拠点フェーズと遠征フェーズが主になる。拠点では、遠征から持ち帰った素材を使って施設を建造、強化が可能。施設の有無やレベルによって、新しいクラス(職業)のアンロックやポーションの所持数増加、また遠征フェーズで使うカードが増えるので、非常に重要である。
そして遠征フェーズでは、ヒーローが拠点を離れて実際に冒険していく。ここで大きな特徴として、プレイヤーはヒーローをほぼ操作しないという点が挙げられる。ヒーローは自動で道を進み、道中に敵が入れば自動で戦闘に入り、勝手に攻撃をする。
ではプレイヤーは何をするのかというと、主には道中で手に入れた装備やトレイト(スキル)などの選択と、敵を倒したときに得られるカードを、地形に配置していくのである。この地形に配置していくというのが、このゲーム最大の特徴といってよいと思う。遠征を始めたての頃は、道以外ほとんどなにもない漆黒の世界が広がっている。そこに山や川、森や村などを配置していくことで、徐々に世界が広がっていくのだ。

遠征時のゲーム画面。
最初は道の上にスライムが蠢くだけの、何もない世界。

この配置作業は、メタ的な観点でいうとマップチップを置いてゲーム画面を作っていく面白さがある。真っ黒だった世界がゲーム画面らしくなっていくのは楽しいし、その中で小さいキャラクター(ほとんど敵なのだが)が動く姿は非常ににぎやかに見える。

そして遠征終盤。
道には様々なモンスターが溢れ、周囲は山河や森、砂漠に囲まれている。

この作業にどんな意味があるのかというと、一つには置いたカードによって、ヒーローのステータス増強や何らかの効果をもたらすことがある。山を隣接して配置すれば最大HPが上昇し、林を置けば攻撃速度が上昇する。もう一つは、道やその隣(ロードサイドという)に置くカードによっては、そこに別種の敵が登場するようになるという点。
この辺りのゲームルールが秀逸で、ステータス上昇などプレイヤーの利になるカードだけ使えばいいと考えてそれを実行しても、それらのカードにはある程度の枚数を配置すると、特殊なモンスターが登場する地形が自動で配置されるという条件がついていることが多い。また種類の異なる敵は選んだクラスによって有利不利があり場合によって死のリスクも高まるが、倒したときに得られる素材が異なったり、落とす装備品の質がよかったりとメリットがある。なので、ただひたすら出てきたカードを置いていくと酷い目に遭いかねない。自分の能力やカードを置く場所、タイミングなどを考慮必要があるだろう。
得られるカードは遠征前の画面でデッキとして選択することができる。選ばなかったカードは遠征中に出てくることはないが、選んだカードもどのタイミングでどれが出るかは当然ながらランダムなので、こんな感じの地形にしたいと思っていてもその通りにことが運ぶとは限らない。さらに、道は遠征の度に変化し、主人公の能力も、それまで置いたカードも当然リセットされる。
また、遠征中は戦闘中以外いつでも拠点に戻ることができる。その際、拠点のそば以外では手に入れた素材や道具の何割かを失うが、戦闘でやられるとその割合が高くなるので、状況によっては撤退も考える必要があるだろう。この辺の駆け引きもプレイヤーを悩ませる要素で、自動行動するゲームながら常に画面を見て状況を把握し、先のことを考える必要がある。
遠征をクリアするには、カードを配置してある程度世界を構築(ゲーム中左上のメーターで確認できる)すると出現するボスを倒すこと。そこで一応のクリアとなり、次のチャプターがアンロックされる。ボスはチャプターごとに異なり、またチャプターが進むごとに全ての雑魚敵に新たな能力や行動が付与され、強くなっていく。

このゲームの何がそんなに凄いのかと考えてみると、ユニークなゲームデザイン、ついもう一回遊んでしまいたくなるリプレイ性というのはもちろんあるのだが、個人的にはビジュアルのレトロさだったり、物量の少なさをゲーム性で補う、あるいは逆手に取っている点にある気がするのだ。
本作のすべての要素を発見したわけではないが、機能の一つである「図鑑」の空欄部分から推察するに、地形に置くカードの種類や敵の種類というのは、いわゆる普通のRPG、もしくはデッキカードゲームなどに比べると決して多いとはいえないと思う。敵のバリエーションなど普通のゲームでは大いに越したことはないが、このゲーム遠征におけるゲームプレイにおいては敵の種類が多くなればなるほどリスクがつきまとうため、プレイヤーはデッキ選択やカード配置のタイミングでおのずとそこを制御するようになる。安全にゲームを進めたければ、敵の種類は少なく、想定外のことなど起こらないほうがいい。何を加え、何を除くかを考慮するという根幹の遊びが、ある意味で弱みをカバーしているのだ。
また、カード自体の少なさも、決められたカード同士を隣り合わせて配置させること特殊地形になるという組み合わせの要素や、あまりうまみのないように思われた敵が、実は重要な素材をドロップするというようなバランスの妙もある。こうした発見であったり知識であったりが、プレイヤー自身のテクニックとして身についていくのも、「次はああしてみよう」「あれを試してみよう」というモチベーションに繋がっているのだと思う。それを促進する要因として、運要素がありながらプレイヤーの介入度合いが強く、敗北が理不尽に感じにくい(=プレイ改善の余地がある)ところも大きいのかもしれない。
個人的な体験としては、アンデッドを召喚して戦うネクロマンサーで遠征をした際、強敵を前に「前哨基地」という一時的に人間が加勢してくれるカードを置いたところ、彼らから「死者を冒涜する悪魔め!」と敵もろとも攻撃されたのが良い思い出(カードを見たらちゃんと書いてあった)。

というわけで、コンパクトながら様々な要素が互いに組み合わさっており、まさに地形変化のごとく化学反応が起こっているゲーム。画面としては地味に見えてしまうかもしれないが、遊んで見ればなぜこれほど人気になったのかがわかると思う。おすすめですといいたいが、時間泥棒ゲームなので遊ぶときは覚悟を持って。

(追記)
大事な要素の一つとして、ハクスラ系ゲームによく見られる能力差の異なる装備を取捨選択する面白さがある。これも中毒性を生み出すのに一役買っている。

PC版(Steam)
https://store.steampowered.com/app/1282730/Loop_Hero/