映画感想「囚われた国家」

2018年、アメリカ制作のSF映画。ジョン・グッドマン、ヴェラ・ファーミガ、アシュトン・サンダースらが出演しており、監督はルパート・ワイアット。いわゆるエイリアン侵略ものである。本作とはまったく関係ないが、ここ2週続けて邦題に「囚われた」という文言の入った映画を観ていたのでどうせならと選んだ作品。Amazon Prime Videoで視聴。

2018年。突如地球に現れたエイリアンに人類は敗北し、休戦協定という名の支配を受け入れる。統治者と呼ばれるようになったエイリアンたちの目的は地球の天然資源であり、人間はそれを採掘する労働力として管理され、完全に奴隷のように働かされていた。刑事のドラモンドは妻と二人の息子とともに車で脱走を試みるのだが、エイリアンの戦士に見つかる。ドラモンドは統治者に抵抗するレジスタンスの一員だった。結果、彼とその妻は子供たちの目の前で殺害されてしまう。
そこから9年の月日が経った2027年、シカゴ。インターネットは禁止され、人類は首筋に生態認証&位置情報把握用の虫を植え付けられ、統治者の傀儡である体制側とそうでないものの貧富の差は拡大していた。二人の息子のうち兄ラファエルはレジスタンスメンバーの中でも名が知られる有名人になっていたが、地区爆撃によって生死不明に。その弟ガブリエルも、父親の同僚刑事だったウィリアムのツテで電子部品分解の仕事をしながらレジスタンスの一員として密かに情報伝達役を担っている。しかしその動向は、体制側であるウィリアムによって厳しく監視されていた……。

導入としては、まあこの手のジャンルでは非常にありがちな設定となっている。冒頭でエイリアンのヴィジュアルを見せているし、両親を失った二人の兄弟がレジスタンスで活動するのは動機としても十分納得できる。
ただ本作の内容は単純な敵(エイリアン)と人間の全面戦争とはなく、どちらかというとディストピアものの様相が強い。静止する巨大なロボなど、戦闘の爪痕みたいなものは描写されるのだが、状況は既に政府がエイリアンに屈している状態であり、崖っぷち状態のレジスタンスがエイリアンや体制側の監視をかいくぐってテロを起こすかに焦点が当てられているのだ。

埠頭に配備された、巨大なロボット。
目を引くガジェットだが、本作でコイツらが動くことは一切ない。

「インデペンデンス・デイ」や「スターシップ・トゥルーパーズ」のような全面戦争と比べるとなんとも地味なのだが、一方で本作におけるエイリアンによる侵略とレジスタンス側の行動は非常にリアリティがあり、この手の物語では「細けえことはいいんだよ!」になりがちな、一見して「おかしくね?」と思う設定やご都合的な展開を可能な限り排しており、そこが見所でありよくできている作品なのだ。

まず、エイリアンの侵略手段がとても理にかなっており、圧倒的武力によって人類を絶滅させるのではなく、力を見せつけることで権力者たちに恐怖を植え付けるというやり方を取っている。そうやって自分たちの傀儡を作り、特権を与えて国家運営を維持させているのだ。権力者たちは「統治者たちは分断した世界をまとめ上げ秩序と調和をもたらした。犯罪率は過去最低、就業率は過去最高。これぞアメリカン・ルネサンス!」と喧伝するが、確かに被害は最小限に留められたものの人々の生活は監視され地区移動などの自由もない。
このように人の弱さを突いた見事なディストピアを作り上げているのだが、人間を扱うのは人間が一番巧いだろうという辺りが非常に合理的でスマートといわざるを得ない。あまりに合理的過ぎるので、エイリアンSFにせずどこかの敵性国家による支配でも成り立つのだが、リアリティのある荒唐無稽こそが逆に怖くもある。さらにその手段である本当の(もっと大きな)理由が物語の中盤で明らかになるのだが、実にシンプルでなるほどと思った。

そして、レジスタンスの戦い方も同様にリアリティがある。物語のメインキャラとして据えられているのはガブリエルとラファエル、そしてウィリアムであるのだが、一般のエイリアン戦争ものにありがちな、特定の個々人やヒーローの活躍が戦局を覆す痛快な英雄的活躍といったことはほとんど描かれない。実働部隊となってテロ攻撃を行うラファエルですらも、それまでの大勢の仲間たちが緻密に積み上げてきた準備を実行に移すだけの歯車でしかないのだ。むしろ本作の見所は、その準備の積み上げ方にこそある。一つの情報からテロ攻撃に到達するまでに、レジスタンスたちはあらゆる方法を使って体制側に気づかれないように情報を伝達、または準備を行う。伝書鳩、新聞広告、決められた音楽など、ただ一つの事をなすために多くの人間が色々な伝達手段や合図を使い、関わり合っていく。一人ひとりは体制と戦う戦士というより一般人にしか見えないのだが、こうした「普通の人々」が団結し、抵抗という意志のバトンを繋いでいく姿を群像劇的に淡々と描いているのだ。

「面構えが違う」と思わず言いたくなる、レジスタンス実働部隊。
基本的にはみんな仕事や家族を持つ一般人である。

そこには「圧倒的強さを持つヒーローの大活躍物語」にはない魅力が確かにあるし、ヒーローではない名もなき人々(=我々)が立ち向かう姿こそ本作が描きたかったことのように思う。人物の名前などをほとんど説明せず、役割と行動で示すという見せ方はその顕れだろう。それに、本作の終盤にはレジスタンスの意志がある人物に繋がり、その人物は本作一の「英雄的行為」を仕掛けることになる。また、この物語はディストピアにおける体制側の人間、ウィリアムを主役にした物語としても観ることができ、全体的に脚本がよくできていると感じた。

というわけで、エイリアン侵略ものという荒唐無稽な物語を現実的、合理的に描いた作品。派手なドンパチやアクションは少ないが、全編を通してレジスタンスたちの静かな戦いと、抵抗の意志とその継承が描かれている。タイトルから入って観たのだが思わぬ良作だったのでよかった。

画像:© 2018 Storyteller Distribution, co., LLC.

Amazon Prime Video
https://www.amazon.co.jp/gp/video/detail/B08F3TNTD1/