映画感想「続・さすらいの一匹狼」

1965年制作のマカロニ・ウエスタン。ジュリアーノ・ジェンマ主演。監督はジョージ・フィンレイ(ジョルジョ・ステガーニ)。当時はイタリア人名だと英語圏で受けがよくないという時期があり、英語読みの芸名にすることがあったそうである。ちなみにジュリアーノ・ジェンマもデビュー時はモンゴメリー・ウッドという芸名を使っていた。
さらに「続・さすらいの一匹狼」という邦題も「さすらいの一匹狼」の続編というわけではなく、しかもWikipediaで公開年を見ると実際は本作の方が「さすらいの一匹狼」より本国で公開されているらしい。本作の方に「続」がついているのは、日本公開順の影響だろう(こっちの方が遅い)。

ジェンマが演じるのは、小さな土地を手に入れたという青年ブレント。彼は知り合いのジルという男から牛を買うのだが、町で出会った牧場主スタンにそれはうちから盗まれた牛だと言われ、牛泥棒の疑いをかけられてしまう。騙されたんだとブレントが訴えてもスタンは聞く耳を持たず、この場で裁いてやるとそばにいた妻の制止も聞かずに銃を抜き発砲。
銃撃され、やむなくブレントは応戦し彼を射殺するが、夫スタンを殺された夫人は「あいつは牛泥棒で人殺しよ!」とブレントを糾弾。白昼の大通りでの出来事なのでどちらが先に抜いたかを誰もが見ていたようにも思うが、正当防衛だという彼の訴えはまったく聞き入れられない。ブレントは町人に捕らえられ縛り首にされそうになるが、なんとか振りほどくと「俺は無実だ。本物の牛泥棒を連れてくる」と言って町を飛び出す。しかし怒りの収まらない夫人に賞金をかけられ、結局彼はお尋ね者になってしまう。
土地を買い夢と希望に溢れた状態だったのが、冒頭からわずか7分ほどで牛泥棒に殺人のお尋ね者、という急転直下具合はもはや清々しい不憫さ。個人的にジェンマといえば酷い目に遭う二枚目なので、この展開はお約束というか謎の安心感すらある。

町人に囲まれ、縛り首にされそうになる孤立した主人公、ブレント。
ジェンマのマカロニ映画ではわりとよく見る光景。

こうしてブレントは自分を騙した悪党を追って荒野をさすらうのかと思いきや、彼が見つけたのはジルではなく地面に磔にされたルーシーという女だった。彼女は駅馬車強盗を目撃した際その犯人ら3人組に乱暴されたらしく、すぐに彼女を殺そうとならず者がやってくる。彼女を磔から助けたブレントはそこからほど近い町の正義感の強い医者、ドクの元に連れて行くが、本音は彼女をドクに託して本来の目的に戻りたい。だが、彼女が顔を見たという強盗3人組のうち、1人は町の名士ランチェスターの一人息子エベリー、そして彼と組んでいた2人のうちの1人はなんとブレントが追う男ジルだった。
といった感じで、構図としてはブレント+仲間vs強盗3人組+ランチェスター一味の攻防になる。ジルやエベリーたち強盗3人組を引っ捕らえるには、ルーシーの「この男たち(が強盗)だ」という証言、つまり面通しが必要。ルーシーが生きていることを知った3人は彼女を手に掛けようと策を巡らせ、ブレントはそれを守りながら戦うことになる。

ここから主人公の大活躍と思いきや、本作の主人公ブレントははっきりいってかなり頼りない。そもそも悪党にまんまと騙されるというスタートだし、銃の技術や腕っぷしは人並み以上なものの、元々流れ者だったのか町の青年だったのかもいまいちわからない(流れ者にしては間抜け過ぎる)のだ。
成り行きで最初の牧場主スタンを殺してしまったときも「みんな見てただろ!?」とまっとうな主張をするが、殺されたスタンは身なりも裕福そうでおそらく町の名士であり、対して土地を買ったとはいえブレントはみすぼらしい新参の余所者。分が悪いことは明白である。そういう、立場が弱いにも関わらず曲がったことが嫌いで正義や良心に忠実(そしてたまに迂闊)なのが今回の主人公であり、好感の持てる所ともいえる。
本作は冒頭の牧場主スタン、そしてエベリーやランチェスターなど、権力者による横暴や私刑がはびこる世界で、愚直にも法の裁きと良心を武器に悪と戦う物語、と捉えることができ、それはセルジオ・レオーネの傑作「荒野の用心棒」の主人公「名無し」のような、海千山千のダークヒーローとは毛色が違うテーマである。

そして、本作を語る上で外せないもう一人の人物が、傷ついたルーシーを連れて行った町の保安官オックスだ。その町にとっての法の番人でドクの友人なのだが、ブレントがお尋ね者と知るや「家を買うのに前金が必要なんだ」と彼を捕らえようとしたり、権力者のランチェスターの前ではどうにも弱腰だったりと、観ていてどうにも信用がおけない。オックスもオックスで、実はブレントが駅馬車強盗なのではと疑いを持っているが、ドクの証言やブレントの行動を目の当たりにすることで考えが揺れる。表向きランチェスター一家は善人で通っており、オックスの今の保安官という立場もランチェスターの推薦あってのこと。
損得でいえば、ブレントたちを信じエベリー(ランチェスター)を疑うのは相当の覚悟が必要で、ブレントやドクのように正義の心に迷いがない人間にはない、葛藤と悲哀をオックスは抱えているのである。そんな彼が腹を決めて葉巻を吸うところは、本作でブレントが見せるアクションと同じくらいカッコよく見えるのだ。

ブレント(中央)と襲われ怪我をしたドク(左)に説得され、
渋々ランチェスターのところへ行くと言わされるオックス(右)。なんか頼りない……。

というわけで、悪を出し抜くダークヒーローとは一味違ったタイプのストーリー。主人公が終始追い詰められた状態かつほとんど、なかなかハラハラした。そうしたドラマ部分だけでなく、激しいアクションもしっかり用意されている。特にブレントのファニングショット(引き金を引いたまま撃鉄を扇ぐように弾く撃ち方)は短いカットながらも見ものだった。

画像:© 1965 Movie Time S.R.L – ROM – Italy