映画感想「ウエスタン」(ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ザ・ウェスト)

1968年、イタリア・アメリカ合作。原題「Once upon a time in the West」。
「荒野の用心棒」で有名なセルジオ・レオーネ監督のマカロニ・ウエスタンで、3時間弱の大作。
ちなみに「ウエスタン」は公開当時の邦題で、今は原題そのままになっているらしい。

劇中では「ハーモニカ」と呼ばれる名無しのガンマンをチャールズ・ブロンソン、悪役のフランクをヘンリー・フォンダが演じる。

鉄道駅に現れた、三人の無法者。駅員を追い払い、列車の到着を待つ。無言の無法者たちの、顔のアップが延々と続く。
やがて現れたのは、首からハーモニカをぶら下げた一人のガンマン、ハーモニカ。短いやり取りの後、ハーモニカは一瞬で三人を撃ち殺すが負傷する。風車の音と異様な緊張感が漂う名シーンである。

このハーモニカと、フランクという悪漢、フランクの雇い主であるモートンと、ある家に嫁ぐために東部からやってきた元娼婦のジル、さらに山賊シャイアンと、様々な人物が絡み合う。
荒野が整備され、ものが建つという様子が描かれ、ガンマン時代の終焉を感じさせるのも特徴。登場人物もそうした時代の流れに翻弄されるという、アクション映画というよりは哀愁漂う群像劇になっている。
西部に来て早々悲劇に見舞われたヒロインのジルを中心に、彼女が夫から相続した土地を巡って物語は動いていく。

一応、ハーモニカがヒーローであり主役ということになるが、彼はこの映画の中でもっとも人間味がない。
他のセルジオ・レオーネ作品でクリント・イーストウッドが演じた名無しとは違い、口数も少なく無表情、気取った様子もないのだ。
彼はただフランクにつきまとい、彼が目的を達成しようとすれば邪魔をし、逆に窮地に追い込まれたときには手を貸す。そのときが来るまで誰にも手は出させない、死神かなにかのように描かれる。

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©1968 BY PARAMOUNT PICTURES CORPORATION

ある時点で、このハーモニカの男がハーモニカを吹く理由が明らかになるのだが、それと同時に、彼は唯一のアイデンティティでもあるハーモニカを失ってしまう。
映画が終わってみると、この名無しのガンマンについてわずかなことしか知らないことに気づく。しかし、ジルとの別れで見せる表情は、とても印象的である。

そんな名無しの男とは対象的に、フランクの方がその目的や心理がよく描写されていると感じた。
彼は今までさんざん好き勝手に無法者生活を送ってきたが、時代の移り変わりと自身の年齢も考え、これからは犯罪の実行役でなく、ビジネスマン(椅子に座ったまま利益を得られる側)に鞍替えしようと目論んでいる。

フランクは雇い主である鉄道王モートンの下で、非合法なやり方で土地の権利を奪い続けている。モートンには西部の果てまで鉄道を敷くという野望があるが、これは足が不自由な彼の「海を見たい」という妄執にも似た憧れに根ざしたものである。フランクはそんな雇い主を馬鹿にしているわけだが、彼が目指す「これからの生き方」は、モートンの立場そのものだったりする。

また、もう一人のガンマンであるシャイアンは時代の流れなど知るかというふうに明るく振る舞う。
乱暴者だが憎めない男で、ヒロインのジルが母親に似ているという理由で彼女の味方になる。他にも「子供は殺さない」など倫理感のある無頼としてオイシイ感じに描かれる。

モートンとフランクが狙う土地の所有者となったジルはつねに気丈で、ガンマンたちを繋ぎ止める。
彼女が担う立場は、映画が描く時代の移り変わりというテーマを実に象徴している。だいたい登場人物の破滅が描かれることが多いマカロニ・ウエスタンにおいて、希望や未来を感じさせる明るい(そして寂しい)終わり方だ。

また、ラストに訪れる決闘は、レオーネ独特の人物の顔アップでためてためての緊張感ある撮り方で、約9分間、ほとんどセリフがない。
マカロニ・ウエスタン指折の名決闘である。