肩関節授動術を受けてきた話

四十肩になってここ1~2ヶ月ほど整形外科に通院していたが、つい先日に肩関節授動術を受けてきたのでその話をしてみようと思います。
あくまで個人の感想、体験談なので、処置手順、施術の様子、術後の経過が絶対この通りというわけではないことをご了承ください。またこうすれば治るとか効果を保証するものでもありません(自分もまだ治療中だし)。実際に授動術を受けた人間の話の一つとしてどんな感じだったのかが「今度(授動術)やるんだけど」とか「医師に勧められているんだけど」という方にとって少しでも参考になれば幸いです。

はじめに

肩関節授動術の前に、まず四十肩(五十肩も症状は同じ)について。
本当に正しい情報はしっかり監修されている情報サイトなどを見るなり、ご自身が当てはまっているかなどはお医者さんに診てもらうかしていただきたいが、かいつまんでいうと肩が上がらなくなったり曲がらなくなったりする症状のことである。無理に腕を上げたり曲げたりするとかなりの痛みを伴う。これは腱板の炎症などが原因で肩関節を覆う関節包が固くなって縮んでしまう(拘縮という)かららしい。
自分も立派な四十肩だったようで、こういう場合に肩関節授動術を行うと症状の改善や早期回復が見込めるとのこと。

若い者にはわからないかもしれないが、マジで辛いんじゃよ……。

んで、肩関節授動術って何するのという話だが、肩に麻酔注射をした状態で腕を本来の可動域まで動かし、この拘縮した「関節包」を外からの力で無理やり剥がすという、かなり物理的な処置。無理やり剥がしてその可動域を維持したまま関節包が再生すれば、腕が動く状態で治療できるという仕組みのよう。

これをやるのとやらないのとで治療にかかる時間がかなり違うそうだが、力で無理やり剥がすというのが言い方を替えれば要するに人体破壊と同じなので、敬遠する方もいるそうだ。
自分はとにかく早く直したかったので、今回受けることにした。コロナ禍などの影響でジムも休会し、また在宅ワークになったこともあってそれまでより意識的に運動をしないといけないのだが、腕を満足に動かせない状態ではそれらがどんどん億劫になり、ストレス発散方法が食べることしかないという悪循環になっているからである(当然体重も増えた)。
とにかく運動がしたい! 子供の頃から超インドアな自分に、まさか心からそう思う日がくるとは。

施術

当日。待合で血圧と血中酸素の測定を行った後、看護師に呼び出される。
いよいよかと少なからず緊張していたが、診察室に見学の看護師が多くちょっとしたイベントのようで少し和んだ。事前に聞いていたが、麻酔注射は首と肩の間あたりに1本と、肩に1本の計2本打つ。施術は院長先生。超音波検査器のようなものを首の付け根あたりに当てながら、首から先に注射。
自分はそんなに注射嫌いな方ではないと思うのだが、今回打ったやつは麻酔が流れ込んでくる感覚や、打った場所の周囲が液体で膨らむ感覚などがよくわかり、正直かなり嫌な部類だった(意外と胸の方に向かって染み渡っていくのがわかる)。麻酔特有のものなのだろうか。その後の肩に打つ方は針を刺す痛み以外はほとんど何も感じなかった。

その後、15分ほど待機。忘れていたが、この麻酔は1日ほど続くそうで、少なくとも施術当日は三角巾で腕を吊るすような状況で過ごすことになる。
1本めを打った直後からどんどん片側の腕が痺れていく感覚があり、10分もすると本当に腕が上がらなくなっていた。力を込めても肘も曲がらない。指だけはわりと麻酔前ぐらいに動かせたのだが、これも徐々に握力がなくなっていった。
腕の感覚がない状態というのは、腕を下敷きにしたまま寝てしまって起きたときのあれが一番近く感じた。完全に触られたこともわからないような状態ではないが、もう片方のまともな手で感覚のない手を触ってみると、まともな手が他人の手を触っているように感じる。

15分ほど経って看護師に呼び出され、ベッドに寝かされる。
いよいよ授動術のメイン、関節包剥がしが始まる。院長と理学療法士の方がやってくる。院長が体を押さえ、理学療法士さんが腕を曲げる役のようである。正直なところ麻酔も効いているし、痛みも感じずやられていることもわからないうちに終わるんだろうなあと思っていたのだが、実際のところはきちんと痛みはあるし、剥がされたタイミングもわかるものだった。
「きちんと」といっても、麻酔をしているわけで腕を無理に曲げたときの痛みが100%来るわけではないが、肩の付け根の下(位置的には大円筋の内側辺り?)をなかなか強めに引っ張られるのと、そのあとミシミシッ! というはっきりとした音とともに、肩の内側で何かが切れたような感覚があるのである。剥がすというより裂くという感じで、思った以上に体を「ぶっ壊されてる」感があった。
予想外の痛みに驚いていると、院長が理学療法士さんに「○○さん、久々に全体重のせましたね~」なんて声をかけたり、その後もベリッというかゴリっというような音がすると「おお~」と言ったりと、なんだか楽しそうなのだが、やられているこっちはたまったものではない。その後も「おっ、これは…なかなか」「あれ?」「これはイレギュラーな……」なんて言われながら、2、3分ほどで施術終了。イレギュラーは気になるが、無事終わったようである。

終わって院長先生に「まったく痛くないわけじゃないんですね」と言うと、「ああ、肩の下のつけねのとこね。ここは麻酔効かないんだよね。ここ効かすとなると全身(麻酔)になっちゃう」とのこと。まあ、声を上げるほどの痛みではなかったし、終わったことなのでそれ以上何の言いようもないが、施術中の感覚が思ったより生々しくわかるのは奇妙な体験だった。
その後、麻酔で力の入らない腕を院長に腕を引っ張ってもらうと、それまで固くて全然曲がらなかった部分まで腕が曲がること曲がること。あとで聞いたら麻酔で筋肉が弛緩しており、多少ブーストがかかった状態というのもあるらしいが、なるほど短時間でこうまで変わるものかと驚いた。

施術後

終わって看護師の方に三角巾をしてもらい、3日分の痛み止めをもらってお会計。
三角巾と痛み止め、施術合わせて7000円弱。

さて、腕の状況だがマジで上がらない。指の感覚もさっきよりなくなってきており、明らかに力が入らない。開いたり閉じたりはできる。じゃんけんでグーとパーは出せる(チョキはちょっと辛いができなくはない)わけだが、果たしてこの手でなにができそうかと思って色々試してみた。

まず、病院の会計が辛かった。片手で財布を出し、小銭や紙幣を出す。お釣りをしまい、診察カードをしまう。麻酔の効いた手で財布を弱々しく掴んでも、こういったことを片手でやるのはけっこう手間取った。この辺りは、電子決済やクレジットカードならそれほど苦労はしないかもしれない。

帰宅して1日中ゲームでもやってやろうかと思っていたが、コントローラーも満足に持てない状態なので諦めた。当然パソコンでキーボードを打つということもできないので作業的なことがまったくできず、仕方なく積んでた映画なんかを観て過ごした。スマホなら片手で操作できるので完全に手詰まりというわけではなさそうだが、紙の本などは開くのも辛かったので、その時間の娯楽はかなり限られる。

仕事も休んでヒャッホイできると思ったのに……。

他にも、両手を使うことの大半が当たり前だが満足にできない。
実は麻酔のピークというのが注射してすぐの施術中ではなかった。2、3時間したくらいから腕がどんどん熱くなってきて、それと同時に感覚もなくなる。体感だとだいたい注射後6~10時間くらいが一番効果を発揮しているように感じた。握力はほとんどない。三角巾を外してブラブラさせてみると、腕の感覚はないのに体の他の部位がそこに重さを感じ、何かに引っ張られている感覚だけがあるという不思議な体験ができた。

食事については結構な問題になるだろうと最初から想定していたので、前日に惣菜パンを買い込んでパン祭りにした。結果的に、袋を開けるのに少し手間取るくらいで(歯と片手で開けた)、ほぼ問題なく食べられた。食事に限らず、パートナーや家族の有無でだいぶ事情が変わってくるが、お茶碗を持ったりと食事もなんだかんだで両手を使うので、事前にどうするかを考えていくとよいと思う。お湯沸かしは電気ケトルなどを使えば片手でできた。
あえてスーパーに買い物にでかけてみたが、買い物かごを麻酔の効いた腕に引っ掛けるのすら辛いのでなかなか大変だった。ちなみにパックのお寿司を購入。これも片手で食べる分には問題なかった(ガリの袋を開けて出すのに苦労したが)。

注射から14時間ほど経過すると、ようやく手首から先に少し力がもどってきた気がした。ここで就寝し、起床する頃(注射から20時間後)には、だいぶ麻酔もきれていた。
親指の先にまだしびれがあるのと、肩を動かした時に胸あたりが重く感じる程度。また、麻酔のせいかそれまで固かった関節包がなくなったせいか、腕の動きがまるで新しいものにつけかえたみたいに若干ぎこちない。力が完全に入りきっていない感じはある。これもさらに4時間ほど経った頃にはなくなり、麻酔前とほとんど同じような感じに戻った。

施術後の翌日は、経過を見せに再度通院。
「腕を上げてみてください」と言われやってみると、術前と術後で動く範囲はあきらかに後者のほうが何かが外れたかのように(実際そうなのだが)可動域が増えていた。これははっきりと自分でもわかる。今後はそれを維持したまま関節包が戻る経過を見ていく(だいたい1ヶ月くらいらしい)、ということでまだリハビリ通院は必要だが、また運動できるようになるまで続けていきたい。

とりあえず以上です。